第230話 帝都突入
二重斬撃が戦場に奔った。炎が爆轟し、氷華が咲き誇る。
「A■■h■■■■■■■――!?!?!?」
今のダリア達の状態を表すとして、融合・進化・異質な暴走――どの言葉が正しいのかは定かじゃないが、さしもの彼女もこれだけの連続攻撃は堪えた様であり、悲鳴と共に身体を崩壊させていく。
反撃や再生の予兆はない。恐らく今の二重斬撃で狂化因子を損傷したのだろう。全身に纏っている淀んだ魔力が周囲に還元されると共に、彼女自身の姿も希薄になっていく。
「■、■■■……」
この堕ちた聖母には、まだ見ぬ能力が多くあったはずだ。もしかしたら、今の形態も進化の途中でしかなかったのかもしれない。それに、こうして消えていくダリア達が何を想っているのか、彼女達なりの正義がどんなものだったのかは、今の俺達にはもう分からない。
ただ俺達に残るのは、刃を向け合って殺し合ったという事実と、どちらが討たれたかという結果だけだった。
「馬鹿者、め……」
複雑そうな表情を浮かべながら天に昇っていく光を見送るセラスを尻目に、異質な強敵との戦闘はこうして幕を閉じた。
だが、混沌の戦場が感傷に浸る暇など与えてくれるはずもなく――。
「想定外は多々あったが、ひとまずはこれで終結といった所か。一刻も早く帝都に戻らなければ……」
「そうね、戻る場所が残っていれば……だけれど」
治癒魔法によって最低限の回復を終えた俺達は、戦況の各所に手を出しながらも帝都に向けてひた走る。
「城壁からの上側から覗く魔力光が殲滅戦のものじゃない事を祈るばかりね」
「キュレネさんも、アリシアも冗談キツイぜ。信じて進むしかねぇだろう」
極力顔に出さないように努めているが、俺も含めて皆が焦燥感を抱いているのは言うまでもない。その理由は単純明快。
「リゲラ君の言う事は尤もですが……」
「討つべき敵を討てなかった……私達の失態だ」
奇襲部隊として敵陣深く切り込んだ俺達は、マルコシアスを討って戦争を早期終結させるという当初の目的を果たす事が出来なかったからだ。はっきり言ってしまえば、作戦失敗。それどころか、マルコシアスの帝都侵入を許してしまってすらいる。
「■■■……」
“
尤も、敵から包囲されない様に
「でも、失態は刃で雪ぐしかないよ」
「そうですね。まだ戦いは終わっていない。立ち止まるには、まだ早い」
いくらこちら側の損失無しで敵側の主戦力を大きく削ぐ事が出来たとはいえ、マルコシアスやその右腕であるレスターを逃してしまった事には変わりない。それもあって帝都がどうなっているのかも、城壁の外側からでは
それでも果たすべき役目は変わらないと、俺達は帝都に向けて疾駆した。
すぐ目の前には立ちはだかる城壁とモンスターの群れ。それに対抗する戦士達――。
「ちっ……退けッ!!」
今は連中に構っている場合じゃないと、“
とりあえずは完全崩壊とまではいかず、まだまだ都市としての体裁こそ保ててはいるが、炎と黒煙、悲鳴が轟く様は正しく凄惨の一言。とても世界で最も栄えている場所とは思えない状況と相成っていた。
「くっ……民衆の避難区からも煙が上がっています! こんな!?」
「予想以上に戦火が広がっているようだな。皆も頑張ってくれている様だが……」
帝都の各所で闇色の光と色とりどりの魔力光が瞬いている。これが示すのは、一般市民を巻き込んで激しい戦闘が繰り広げられ続けているという事。俺達や城壁外の一群でかなり塞き止めたからか、帝都内に侵入された敵戦力の数自体はそれほど多くないが、それでも刻一刻と最悪の戦況へと流転しつつあった。
何より皇族や騎士団長達が控えている辺りの上空で巨大な黒翼が羽ばたいているのが最大の問題であり、戦況がどうなっているかなど言うまでもない。
「ごちゃごちゃ言ってる場合じゃないよ! 奴は帝都本陣に侵攻しちゃってるんだから、早く戻らないと!」
「アストリアス嬢、気持ちは分かるが少し落ち着くんだ。ここが最後の選択なのだからね」
目尻を吊り上げたルインさんが珍しく声を荒げるが、ジェノさんによって
しかし、次のジェノさんの発言によって、そんな冷静さは吹っ飛んでしまったわけだが――。
「――ここからは二人ずつに分かれて進もう」
「は……? いやいや、ここで戦力を分散させるなんて何考えてるんすか!? これから敵の総大将とやり合おうってのに!」
あんぐりと口を開いていたリゲラが真っ先に声を上げる。全く予想していなかったわけじゃないが、困惑しているのは皆も同じ。一瞬の静寂が俺達を包む。
「いや、この局面だからだ」
「どういう事っすか?」
「こんな瓦礫と人波の密集地帯を全員で動くのは効率が悪いし、一網打尽にされたら全てが終わりだ。自惚れるつもりはないが、今の僕達は共同戦線の中軸を担う戦力なのだから余計にね」
敵の“
ただ、完璧な作戦などあるはずもなく、懸念点も散見されるのも事実。
「少なくともマルコシアス本人とファヴニール、それから僕達と戦っていた二人は帝都に侵入しているはず……もし彼らが集結してしまったと仮定するのなら、魔族軍団とまともにぶつかり合えばこちらの勝率は限りなく低い。そんな中、僕達と戦っていた連中に関しては、まだ帝都中心に辿り着いているとは考えにくいだろう」
「なら、それまでに各個撃破しつつ進軍。後に本陣で合流……という事ですね」
「まあ、そういう事になるね」
「だけどよぉ……バラバラになって、逆にこっちがやられちまう可能性だって出てくんだろ?」
全滅の可能性は減るし、行動範囲は広がる。確かに合理的だ。でもリゲラが言う通り、戦力の分散によって各々が撃破される可能性は大きく高まる。つまりは、あちらを立てればこちらが立たず――という事だ。
「リスクは覚悟の上だ。それに全滅のリスク自体は現状でもあるし、効率的な観点から言っても今よりはマシ……それなら、少しでも可能性が高い方に賭けるしかない。僕達が生き残っても、戦いに勝てなければ意味がないからね」
この状況下であれば、僅かでも勝率の高い方に賭けるしかないというのは何も間違っていない。加えて現状は逼迫しており、決断は迅速かつ正確でなければならないというのも事実。故に選択など、最初から決まっているようなものだった。
「――さて、組み合わせも決まったし、後は各々で目的地を目指して突き進むしかない」
ジェノさんが並んでいる俺達一人一人の顔を見ながら言い放つ。組み合わせは、俺とルインさん、ジェノさんとアリシア、キュレネさんとエリル、セラスとリゲラというもの。疲労具合と前衛後衛のバランスを鑑みての編成だ。
因みにレリティスはセラスに同行する事となった。
「四手に分かれて周辺の魔族、モンスターを蹴散らしながら目指すのは帝都の中心――八人と一体揃ってそこまで辿り着き、皆で終戦を迎えよう」
そして、ジェノさんが視線を向ける先は、竜影が揺らめく宮殿付近。道中も到着後も死闘は必至。はっきり言って生存の可能性はかなり低いし、全員揃って生き残るともなれば限りなく不可能に近い。それでも――。
「さあ、行くぞ――ッ!」
俺達は互いの顔を見て頷き合い、四方に駆けて行く。脳裏に焼き付いた皆との再会を胸に刻み込みながら――。
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