第43話 冒険者ランクS

 近郊のギルドに向かう道筋で、俺達はさっき出会ったとんでもない人物について話していた。


「凄いおじさんだったね。今日の夢に出て来そうだよ」

「ええ、あのキャラクターは強烈過ぎましたね。そういえば、結局あの店で何か買ってたみたいですけど、一体何を?」


 ゴリゴリ店主とお話・・した後、少し離れてくれと言われた時にルインさんが何やら紙袋を受け取っていたのを遠巻きから目撃していた。


「ん……秘密……」

「まさか、あの紐みたいな……」

「アーク君?」

「何でもありません」


 興味本位で中身について聞いてみたが返ってきたのは、見惚れてしまう程に美しい満面の笑み。


「私があんな破廉恥ハレンチなのを着るわけないでしょ?」

「ええ、でしょうね」


 変な空気になった所からして、どうやら興味本位で聞いていい話じゃなさそうだ。


「あ! ギルドに着きましたね!」

「露骨に話題を逸らしたね……」

「ほら、早く行きましょう! 冒険者たるもの、依頼を受けなきゃ話になりません!」

「調子がいいんだから、もぅ……」


 でも、出会った頃と違って、ルインさんとはこんな風に軽口を叩き合えるようになった。俺もこんな日常をそれなりに楽しんでいるんだろう。無職ノージョブの時とは、比べ物にならないしな。


「青い空に白い雲、大きな葉を付けたヤシの木。ギルドの雰囲気も南国風全開ですね」

「そうだねー。隣が海だなんて、中々オシャレだし」


 俺達の目の前に広がるのは、一風変わった冒険者ギルド。潮風を感じながら見上げるギルドは、先日まで俺達が居た所の数倍の規模を誇る壮観な建て構えだった。


「でも、これだけ温暖なのにちょっと行くと雪山があるだなんて、どういう地形をしてるんでしょうね? しかも、雪山方面は出て来るモンスターも凶悪って聞きますし……」

「その辺は、流石強国って感じなんじゃないかな。同じランクでも、今まで通りだって考えてると痛い目を見るかもしれないから、気を付けていこうか」

「ええ、そうですね」


 そして、まだ見ぬ新天地に想いをせる俺達は、気を引き締めてギルドの扉を潜った。


「初めての方ですか? 依頼受け付けの方はこちらにどうぞぉ!」


 早速出迎えてくれた水着姿の受付嬢に促されて移動する俺達――。


「依頼の受付でよろしかったでしょうか?」

「はい」


 幸いにも待ち時間なしで受付に辿り着けた俺達は、Bランクの依頼リストから受けるものを選択していく。


(しかし、今からダンジョン探索に出ようっていう連中以外、服装がラフすぎるだろう……。特にスタッフたち……)


 カウンターの向こうには、受付嬢たちが水着姿で佇んでいる。視界百八十度全てがそんな感じとあって目のやり場に困っていたが、“分かってるよね”と言わんばかりに微笑んでいるルインさんのおかげで気持ちはクールだった。


「――それにしても、流石に規模がデカいだけあってしっかりしてるな。受付嬢も冒険者も凄い量だ」

「そうだね。ちょっと緊張しちゃうかな? Gランク冒険者君?」

「萎縮はしなくもないですけど、俺の隣にはもっと凄いお姉さんが居るんで問題なしです」


 受付嬢が手配書の処理の為に下がっていた待ち時間に周囲を見渡せば、冒険者からスタッフから、かなりの人数がギルドにひしめいているのが視界に入って来る。

 これを見たら、今までのギルドが小屋くらいに見えるレベルだ。


「そういえば、ルインさんの冒険者ランクって一体――」

「お嬢さん、ちょっといいですか?」


 まだ受付嬢が戻ってこなさそうだったから、これまで気になっていても聞く機会がなかったルインさん自身の事について質問しようとしたものの、俺の背後から響いた男の声によって遮られる。


「……」


 視線を向ければ、端正な顔立ちをした男性が一人。俺やガルフというより、ルインさんよりも少し上の年齢ぐらいに見える若い男が佇んでいた。


「えっと、貴方は?」


 ルインさんは、絹のような金色の髪を揺らしながら可愛らしく小首を傾げる。


「申し遅れました。僕はジェノ・スクーロ。大陸をまたに掛けるSランクパーティー“竜の轟牙ドラゴ・ファング”のリーダーを務めています」

「え、Sランクッ!?!?」


 受付嬢の一人が驚愕の声を上げる。


「Sランクってマジかよ!?」

「“竜の轟牙ドラゴ・ファング”なんつったら、王都でも屈指の冒険者パーティーじゃねぇか!!」


 全身から育ちの良さと紳士的な雰囲気が滲み出ている男性――ジェノ・スクーロ。そのとんでもない出自に、ギルド中がパニックと化した。


「あっちには、グレス様よ!」

「おいおい、水槍の舞姫も居やがるぜ!」


 この場にいる皆がジェノという男性とその仲間と思われる人たちに、羨望の眼差しを向けている。下は俺と同年代。上は父さん世代以上まで揃った面々が、皆興奮しきっているんだから異様な光景だろう。


(英雄のお通りって感じだな。しかし、Sランクとは……)


 そして、かく言う俺も周囲の驚きっぷりに圧倒されているとはいえ、皆と同じ想いだった。


(元無職ノージョブだろうが、特異職業ユニークジョブだろうが、グラディウスの恥晒しだろうが、性別・年齢問わず誰もが認めざるを得ない圧倒的な存在)


 最強の称号――冒険者ランクS。


(正に無職ノージョブの対極。これが――俺の目標か――)


 俺の目指す先が、明確な形となって目の前に現れた。これに衝撃を受けないわけがない。


「周りが騒がしくて申し訳ないが、単刀直入にお伺いしたい」


 それを受けて思わず息を飲んだ俺を尻目に、ジェノの視線はルインさんを射抜いて離さない。

 眼差しを交錯こうさくさせる美男美女という華のある光景――。


「貴女を“金色の戦帝”と見込んでお願いがあります。ぜひ、我が“竜の轟牙ドラゴ・ファング”に加入して頂けないでしょうか? いや、僕達と同じSランクに匹敵するとさえ謳われる貴女の力を活かせるのは、“竜の轟牙ドラゴ・ファング”以外に在り得ない!」


 だが次の瞬間、ジェノが放った衝撃の一言によって俺の思考は停止した。

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