第41話 楽しいお話?
異質なダンジョンから戻ってきた俺達――。
「アーク君、正座」
「え、えっと……今回に関しては、別に怒られる理由が……」
「せ・い・ざ」
「はい……」
ラフな部屋着に着替えたルインさんは、ベッドに腰かけて長い脚を組みながら膝を折って座る俺を見下ろしている。
(相変わらず目のやり場に困るよなぁ……)
薄着なせいで、たわわな胸元は艶めかしく曲線を描き、足も
(普通だったら、桃色展開なんだろうけど……。まあ、それはそれで困るんだけどな)
尤も、目の前のルインさんが、女神のような微笑を浮かべながらドス黒いオーラを放っているおかげで、間違いの一つたりとも起こるはずがないというのは明確だった。
(この感じだと、最奥まで潜ってみたはいいものの、モンスターが殆ど出て来なかったばかりか、ボスまでもぬけの殻で何の収穫もなかった今日の探索についての事じゃなさそうだな)
Aクラスモンスターとの闘いを終え、奇妙な四人組と別れた後もダンジョンを進んではみたが、あれ以降はモンスターの少なさを除けば特筆すべき事は起らなかった。
(何言われるんだろ……)
モンスターが居ないことを確かめたと言えば聞こえがいいが、それ以外の内容については薄かったし、戦闘自体少なかった。今回は怒られそうな事をやらかしてないはずなんだが――。
「私があの人たちに絡まれてた時、アーク君は随分と楽しそうにお話してたけど、どういうつもりだったのかなぁ?」
「どういうつもりも何も、話しかけてきたのは向こうからで……」
まあ、何はともあれ、完全にブチ切れていらっしゃるようだ。理由はよくわからないが。
「ふーん。私が目の前で困ってたのに、あの女の子と話す方を優先したんだね」
冷たい視線と共に、俺の
(その手の方々にはご褒美かもしれないが、生憎と俺にそんな趣味はない!)
今回は丈の短いホットパンツだけあって、下着こそ見えないものの、これはこれで目に毒すぎる。
「アーク君が、そんな薄情者だなんて知らなかったなぁ。ああいう静かな子が好みなの?」
「い、いえ! それに名前を聞かれたくらいで大した事は話してませんし、雑談とも言えないくらいでした! はい!」
「へぇー、その割には目が泳いでるけど?」
「それは目の前に広がる光景のせいというか、別件というか……」
俺は事実を言ってるだけなんだが、今日のルインさんは妙に意固地で中々聞き分けてくれないようだ。
「視線を逸らさないで」
その答えが気に入らなかったのか、ルインさんはベッドから降りると俺の前でペタンと床に座った。
(……今日はいつもの近いとかいうレベルじゃない!)
そのまま折りたたまれて揃っている俺の脚に、肉付きのいい
そう、薄着のルインさんが、俺の脚に手をついて身を乗り出してきている――。
「さ、流石に逸らさない方が問題あると思うんですけど……」
少しでも目線を下げれば、ただでさえ豊満な胸が前傾体勢のせいで、両腕で挟まれながら寄せて上げられているという天国なのが地獄なのか分からない光景が広がっていた。
しかも、今回は半分以上素肌が見えてしまっている。
このままじゃ、紳士の理性と男の欲望の狭間で色々擦り切れそうだ。
「ふーん。あの子とは楽しくお話して、私の方は向いてくれないんだぁ?」
だが、そんな事はこの天然お姉さんには関係ない。ジト目を向けながら、俺の顔に超接近戦を仕掛けて来る。
「アーク君のパーティーを組んでるのは、私なんだよ」
むにゅ……むにゅうう……。
ルインさんの性格を考えれば、全くの無自覚なんだろうけど、彼女が体勢を変えたり体を揺らしたりするたびに、腕の中に窮屈そうに押し込められた大きな胸が揺れ踊っている。もしかしたら、上の下着は付けていないのかもしれない。
「アーク君は私のモノなんだよ。ちゃんと自覚あるのかな?」
正面を見れば不貞腐れたルインさんの綺麗なお顔、目線を下げれば桃源郷。両脚には柔らかい太腿の感触と正座特有の痺れが走り始めている。
(何の拷問なんだ……これはッ!!)
結局、この超至近距離でのお見合いは三十分以上の攻防となり、ルインさんの尋問に耐え切る頃には、俺は屍一歩手前と化していた。
「――また、会いましょうっていうのがちょっと気になるけど、挨拶だけだったんなら許して上げる」
「ええ、ありがとうございます」
アホ三人組とのやり取りに口を挟んでもややこしくなるだけかと思っていたが、逆に俺があの手の連中に絡まれてる時に、ルインさんが男と談笑しているのを見れば釈然としないものがあるだろう。
合理的なだけでは、ダメって事だな。そういう事にしておこう。
「そういえば、さっき聞きそびれちゃったんですけど……前に戦ったマンティコアやオーガがおかしくなったのって一体どういう事なんですか? 今日のダンジョンとも関係ある風の口ぶりでしたし……」
そして、回り回ってようやく聞きたかった事をルインさんに尋ねる。
「私が知ってるのも噂だったり推測の域を出ないけど、それでも聞きたい?」
「ええ、構いません。あれだけの事があった直後なので、流石に気になりますしね」
ルインさんは俺の問いに対して一呼吸置くと、神妙な顔つきをしながら口を開いた。
「まず、マンティコアやオーガに起きてたのは、極稀にモンスターが理性を失ったように狂暴化する現象と言われている――“狂化”だと思う。その効果は、身体の変質に超再生。私達が見た通りだね」
「狂化――原因とかは分かってるんですか? どんなモンスターがそうなるかだとか……」
「残念ながら原因も発生条件も不明。完全に未知の現象だね」
「じゃあ、こっちからはどうする事も出来ないって事か……。まるで災害だな」
オーガ戦からずっと気になっていたことに答えが出たが、現象の不明点が多すぎて対策法はないみたいだ。
「今日のダンジョンの異様さも、モンスターごとの縄張りがおかしくなってるって事が原因なんじゃないかと思ってる。こっちは完全に私の推論ね」
「マンティコアたちは自発的に外に出たのか、外に出ざるを得なかったのか……。本来、居る筈の無いAランクモンスターたちも、Bランクダンジョンの席が空いたから来たのか、空けさせたのか……って事ですか?」
「恐らくね。とにかく、今の私達に出来る事は、モンスターを倒しても気を抜かない。ダンジョンに入るときは気を付ける! これくらいかな」
まあ、分からないことは多いにせよ、ひとまずはルインさんの説明によって、これまでの戦いで起きた現象については理解できた。
「アーク君も肝に銘じておいてね」
だが、狂化の話をし始めて以降、ルインさんの瞳は戦場を駆けている時の様に研ぎ澄まされていた。
彼女のその姿は、俺の中に強く焼き付いていた。
結局の所、俺は彼女の事を何も知らないのだと改めて思い知らされたからなのだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます