第342話 復讐者の最後

敵意を向けてくるマキアに微笑む。



「あら、違うと言える?私には、貴方がただ殺戮を楽しんでいるようにしか見えないけど?」

「っっ、言ってくれるじゃないか。」



不愉快そうに、微笑む私を睨みつけるマキア。



「良いか、これは復讐だ!」

「亡き魔王の?」

「そうだっっ、!我らが敬愛する魔王様を奪った勇者を、人間や亜種族を皆殺にして何が悪いと言うのだ!?」



マキアが、強く拳を握り締めた。



「新たに召喚された勇者の話を聞いて、私がどれだけ嬉しかったかお前に分かるか?」

「さぁ?」

「ふっ、だろうな。私のこの恨みはお前にも、他の誰にも分からないだろうさ。」



皮肉るマキア。



「だから、誰にも私の邪魔はさせない!私の復讐の為にこの場でお前も勇者達と一緒に死にな!」



私の方へと、マキアが手を突き出す。

浮かび上がる魔方陣。

光り輝く魔方陣の中から新たに召喚された数体のモンスター達が私へ殺到する。



「・・無駄、だよ。」



目の前に迫るモンスター達の身体が私の魔法により、みるみる内に凍りついていった。

ただの彫像と成り果てるマキアのモンスター達。



「悪いけど、勇者の事は殺させない。」



あの男は、私の獲物。

誰であろうと、横取りする事は許さない。



「!?」



マキアの目が驚愕に開かれる。

一瞬、マキアの視線が私から外された瞬間に縮まるお互いの距離。

その一瞬が命取りとなる。



「ーーーっっ、なっ、あっ、?」



マキアの首筋から散る鮮血。

一瞬で間合いを詰めた私のレイピアが、マキアのその首筋を切り裂いていた。

ぐらりと、崩れ落ちるマキアの身体。



「ねぇ、マキア?彼が例え同じ勇者だとしても、貴方が敬愛した魔王を倒した人とは別人なんだよ?」



私は崩れ落ちるマキアを見下ろす。



「それを理解せず、ただ無関係な人までも巻き込んで殺戮を繰り返す者を、世界では化け物と呼ぶのではない?」

「っっ、そ、う、だな、」



マキアが口元に自嘲の笑みを浮かべる。



「・・あんた、強い、ね。なぁ、あんた、の、なま、え、は?」

「ソウル。私の名前は、ディアレンシア・ソウルよ。」

「ふ、ふ、あんた、の、な、まえ、お、ぼえて、おく、よ。」



段々と失われていく、マキアの瞳の光。

最後にひっそりとマキアに囁く。



「ーーー・・マキア、貴方の復讐は叶うわ。」



マキアの望みは叶う。

だって、これから魔王を倒した勇者を呼んだ国との遊びの果てに、一度、あの皇国は崩壊するのだから。



「な、に、っっ、ーーー・・」



私の小さな呟きに怪訝そうに問いかけようとしたマキアの身体から一切の力が抜けていく。



「・・お休みなさい、悲しき復讐者、マキア。」



瞳の輝きが消えたマキアが事切れた。



「ディア様、全員の治癒が終わりました。」

「お疲れ様、ディオン。」



私の頬に、ディオンの手が伸びる。



「お怪我はありませんか?」

「ふふ、私は大丈夫、怪我1つおってないから。」



目尻を下げるディオンに微笑む。



「良かった。」



安堵して表情を緩ませるディオンの腕の中に囚われれば、向けられる視線達。

そちらへ視線を向ければ、惚ける女子生徒達の姿が。



「ふむ、」



にんまりと、口角が上がる。



「ディオン?」

「はい?」

「ご褒美、あげるね?」



ディオンの首の後ろに腕を回し、その顔を引き寄せるて唇に口付けた瞬間に上がる悲鳴。

羨望。

嫉妬の視線が私の身体に突き刺さる。



「ふふ、」

「・・ディア様、あまり危険な事をしないでくださいよ?」



私の周囲への煽りに、憂えるディオン。



「貴方は、私の何より大切な人なのですから。」

「大丈夫、何があっても皆んなが私の事を守ってくれるもの。」



でしょう、と、首を横に傾ける。



「何も怖くないわ。」



婉然と微笑み、ディオンの唇に指を這わす。



「うふふ、貴方に愛されているのは私だと自慢させて?」

「・・ずるい人だ。」



私の手首を掴んだディオンが、私の唇を舐める。



「私も、自慢しますよ。」



ーーー私の事を射殺しそうな目で見ている相馬凪に、ね。

耳元で、ディオンが囁いた。



「はて?」



この、相馬凪からの強い視線はなんなのか。

内心で首を傾げざる得ない。



「ディア様、全てのモンスターを討伐し終わりました!」

「あぁ、ディア様、お怪我はないですか!?」

「「ディア様!」」



モンスターと戦っていた4人が私の元へと走り寄って来る。



「皆んな、私は大丈夫よ。」



寄り添っていたディオンの身体から離れ、駆けて来る4人を笑顔で出迎える私。



「ーーーっっ、おい、お前!」



そんな私達の間に、険しい表情の相馬凪がずかずかと近づいて来る。

迷惑な事、この上ない。



「何ですか?」



不機嫌に、私は相馬凪へと視線を向ける。

相馬凪の口元に浮かぶ笑み。



「光栄に思え!お前の事を、この世界の勇者である俺の女にしてやるよ!」



何をトチ狂ったのか、相馬凪はそう宣った。



「・・・はい?」



ーー・・このおバカ、何を言ってんの?

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