第340話 勇者に相応しい相手

言う事を聞かない駄犬には躾が必要。

彼らには、多少の危険があろうとも荒療治は必須よね?

別に命を取ろうなんて、今は考えてはいないのだし。



「・・これ、本当に勇者様一行、なの?」



そんな事を考えつつ、ついに迷宮内も30、31に到達し、32階層のエリアに突入。

この間も勇者達の我儘は続いた。

疲れた、足が痛いから休みたいは当たり前で、もう戦いたくないなどと泣き言を言う子さえいる現実。



「中々、迷宮の攻略が進まない訳ね。」



突然に異世界の呼ばれ、この世界の為に戦えと言われて我慢が出来ないと思うのも分かるのだが、その分の贅沢を皆んながお城でしているのを知っている。

なら、その分の働きはするべきなのではないか?

良い思いだけするのは不公平だ。



「ーーー・・ソウル殿、本当にここまで高レベルのモンスターを勇者様達に戦わせるのか?」



不安げなルイド。

その表情は、未だに渋いまま。

ここに至るまで、ほとんどのモンスターを私達が倒して来た。

あの男達は、自分勝手に振る舞うだけ。



「ルイド様、別に私は止めても構いませんよ?そうなれば、勇者様達の意識はこのまま低いままですし、いつかは全滅するかも知れませんが、どうします?」



無理強いはしない。

私の望む方向へ、ただ導くだけ。



「・・いや、このまま勇者様達の戦いへの意識が低いのは困る。」

「では、この計画は継続という事で。」



ある方向を、私は指差す。



「この先をしばらく行くと、強い相手と当たります。」

「本当か?」

「はい、この場所からでも勇者達達の相手には相応しい魔力量を相手から感じますので間違いなく強敵でしょう。」



勇者様方、喜べ?

貴方達、勇者様一行に相応しい相手だよ?



「分かった、ソウル殿が言う通り、このまま真っ直ぐに道を進もう。」



頷き私の先を歩くルイドの背中にうっすらと笑う。

ーーーさぁ、幕が開く時間だ。



「・・・なぁ、さっきからモンスターに遭遇しないけど、大丈夫なのか?」



相馬凪の取り巻きの1人の男子が不安を呟く。

先程から歩き続けて数時間。

この階層へ来てから、なぜか1回も私達はモンスターに遭遇していない。



「確かに、そうだな。ルイドさん、これは普通の事なんですか?」



眉を顰めた相馬凪がルイドに視線を向ける。



「うむ、この先に強いモンスターがいるのかも知れない。強いモンスターがいると、こういった現象が起こる。」



青ざめる、勇者一行の顔。

歩みも止まる。



「だ、大丈夫なのかよ!?」

「強いモンスターって、やばいんじゃないか?」



広がる不安。

誰もが強張った顔のまま、道の先を見つめている。



「・・・ソウル殿、勇者達が怖がっていて戦える状況ではないのではないか?このままま進むのは危険だと思うのだが。」

「そう、ですね。」



声を潜めるルイドに頷く。



「ですが、もう遅いと思いますよ?」



私達の前に、それは現れた。



「ーーー・・おやおや、面白そうなお客様だね。」



笑う、1人の女。

その瞳と、長く黒い髪をポニーテールにした女だった。



「この私と同じ黒い髪に瞳の人間がいるとは面白い。良い獲物じゃないか。」



女の瞳が細まる。



「お前達は、どんな声で鳴いてくれるんだろうね?」

「なっ、魔族!?」



目を見開くルイドが驚愕の声を上げた。



「あら、魔族に会うのは私で初めてかい、坊や?」



女魔族がルイドにニヤリと笑う。



「私の名前は、マキア。ふふ、この場でお前達を屠る者だよ!」



マキアと名乗った女魔族が右手を突き出す。

展開する魔法陣。

マキアが突き出した右手が紡いだ魔法陣が光ると、中から大量のモンスターの群れが湧き出す。



「ーーーっっ、魔法陣の中から、モンスターの群、だと!?」



ルイドが呻く。

その数、軽く50体以上はいそだ。



「う、嘘、だろう!?」

「ひっ、嫌、だ、死にたくない!」

「逃げろ!」



現れた大量のモンスターに、元クラスメイト達が我先にと逃げ出す。

敵に背を向けて。



「ふはっ、私がお前達の事を逃すと思うかい?バカだねぇ。」



不吉に笑うマキア。



「あっ、?」

「か、は、・・」



逃げ出した一部の元クラスメイトの目の前に出現したモンスターの腕が腹に穴を開ける。

血を飛び散らせて崩れ落ちる元クラスメイト達。

上がる悲鳴。



「あらあら、だから真面目にレベル上げしろと言ったのに。」



私は溜め息を吐く。



「ははっ、良い悲鳴だね!もっと悲鳴を上げな!」



倒れ臥す元クラスメイト達を見て、愉快そうにマキアが狂ったように笑い声を上げた。

阿鼻叫喚の地獄絵図。

まさに、その言葉が相応しい。



「私達の復讐の為、残念だけど全員、この場で死んでもらうよ?」



マキアの瞳に残忍な光が宿った。

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