第325話 甘え方

強くなるって、一体、どう言う事なんだろう。

出来なかった事が成功した時?

身体が強くなる事?

あの男の影に怯える私は、コクヨウの胸元に額を押し付けたまま鼻を啜る。



「ーーー・・ディア様、気が晴れましたか?」

「・・・コクヨウは、マゾなの?」



どれぐらい、コクヨウの腕の中で泣いていたのか。

泣きすぎて、頭が痛い。



「マゾ・・?」

「痛いのとか、苦しいのが嬉しい人の事。あちらの世界では、そう言うの。」

「ディア様限定で、僕はそうかもしれませんね。」



コクヨウが笑う。



「そろそろ、ディア様の顔を見せてくれませんか?」

「今は嫌。」



涙でぐちゃぐちゃの顔を見せろと?

どんな拷問だ。



「ディア様、どうしてです?」

「乙女心です。」

「ふふ、僕は気にしませんよ?どんなディア様も可愛いですから。」

「っっ、」



さらりと褒めるコクヨウに、私は羞恥に身体を震わせて、その胸元にしっかり顔まで押し付ける。

絶対、コクヨウは垂らしだ。

そうに違いない。



「でも、いつもの笑顔のディア様が1番、僕は好きですよ。」

「・・・。」



抱き締めらるコクヨウの腕の中で、そっと私は目を閉じた。

ーーー・・このまま、目覚めなければ良いのに。

そう思って。

だけど、日々は過ぎていく。



「・・・弱いままで、情けないなぁ。」



私の心を置いて。

無意味に1日を過ごしている私は、立ち止まったまま。



「分からない事ばかりね。」



私には、何かを成し遂げられるような強さも力もない。

弱いのだ、私は。

この世界でどんなにレベルが上がっても、私の心は弱いまま。

前に進めていない。



「・・?ディア様、何が分からないのですか?」

「強さって何なのか、分かんないなって思って、さ。」



コクヨウの胸元から顔を上げる。



「・・今は分からなくても良いのでは?」

「うん?」

「一緒に悩んで、たくさん考えましょう?」



私の頬に伸びる、コクヨウの手。

そのまま頬を撫でられた。



「ディア様は、1人ではありません。僕達がいます。」

「・・んっ、」



涙の残る私の瞳がゆらゆら揺れる。

一緒に考える。

コクヨウ達、皆んなと。



「ーーー・・そう、ですね。」



コクヨウの上に馬乗りになったままの私の背後から、回る腕。

すっぽりと、後ろから抱き締められる。

後ろを振り返れば、私の事を愛おしげな眼差しで見つめるディオンがいた。



「愛おしい妻を支えるのも、夫の大切な務めですから。もっと私達を頼ってくれても良いんですよ?」



目元に口付けられる。



「怖いと、嫌だと、もっと、ディア様は自分の感情を皆んなに吐露して甘えても良いんです。」

「・・・言ってるよ?」



この前のアディライトとサフィアの事だって、自分の思うままに振舞ってたじゃないか。

十分に我儘を言ったと思うんだけど?



「そに我儘はご自分の事ではなく、誰かの為に、でしょう?」

「・・え?」

「ディア様は、ご自分の事では何を言われても怒らない。それが、当たり前の事だと思っていらっしゃるから。」

「っっ、」

「ご自分の痛みから、もう目を逸らさないで。」



身体が震える。



「ーーーっっ、それは、どうすれば良いの?」



だって知らない。

誰も私の言葉なんて聞いてくれなかった。



『貴方、また自分の物をなくしたんですって?同じクラスの相馬凪君から聞いたわよ?』



良く物をなくすと施設の先生達に思われていた私。

本当は違って。

原因は相馬凪が主体となり、私への虐めだった。



『どうして、こんなにも貴方は物を大切に出来ないの?しかも、物をなくした事をクラスメイトの誰かのせいにするなんて恥を知りなさい!』



最初は否定していた私。

でも、誰かに持っていかれたんだと言う私の否定の言葉は、相馬凪の巧妙な話術と名家の息子と言うブランドで施設の先生達には聞き入れてもらえず、逆に嘘をつくなと責められる要素となった。

どうして誰も私の言葉を信じてくれないの?

私の中に降り積もる不満。

・・悲しみ。



『くだらない言い訳をしないで、ちゃんと物を大事にしなさい。』



怒られるなら良い。

もう、誰にも何も言わないと私は思ったの。

ーーーその日から、私は言葉を飲み込み、口を噤んだ。



『なんで、お前は生きてんの?』

『生きてる価値ないじゃん。』

『ーーー・・あんた、死ねば?』



例え身体に暴力を振るわれなくても、相馬凪とその取り巻き達の言葉で私の心が傷付いていく。

知らないでしょう?

貴方達の言葉で、どんなに私が傷付いたかなんて。

私は耳を塞いだ。



『ーーーねぇ、あんたみたいな不用品でも私達に殴られて痛い?』



何の反応も返さなくなった私。

この頃になると、一部の人間から言葉だけではなく私へ少しの暴力も加わった。

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