第310話 アディライトからのお叱り

大事な可愛いいアディライトに対して暴言を吐くと言う事は、この私に喧嘩を売ったも同前。

喜んで、その喧嘩を買いましょう。



「で?生まれて来なければ良かったの続きは?」

「あっ、」



私からの殺気に、身体を震わせるサフィア。

その顔は青白い。



「ふふ、どうしたの?あんなに良く喋る口だったのに。」

「っっ、」

「ーーーねぇ、聞いているんだけど?」



身体を震わせるサフィアの前まで歩き、殺気を強める。



「ひっ、」



あまりの私の殺気に、腰を抜かすサフィア。

地面に座り込んでしまう。



「サフィア!?」



突如として座り込むサフィアに、驚くトム。

直に私から殺気を向けられているサフィアとは違い、トムには何もしていないので、困惑するのは当たり前の事。

トムの顔に困惑が広がるばかり。



「無様ね。」



そんなサフィアを冷ややかに見下ろす。



「お前如きが、私の可愛いアディライトの名前を呼ぶ事さえ烏滸がましい。」



アディライトが汚れる。

見る事さえしないでくれるかしら?



「分かったの?」

「ひっぅ、」



涙を目に滲ませたサフィアが、粗相をする。

漂うアンモニア臭。

あらら。



「なっ、どうしたんだよ、サフィア!?っっ、お前、」



気付いたトムも顔色を失う。

その目に宿るのは、婚約者への失望?



「どうやら、サフィアさんは具合が悪いみたいですね?」



私は殺気を霧散させる。

サフィアの粗相も見られたし、ね?

溜飲は下がった。



「トムさん、早くサフィアさんの事を家で休ませてあげたらいかがですか?」

「・・は、い、」



呆然自失状態のサフィアを嫌そうな顔で抱き上げ、トムは足早に街中の方へと去って行く。

婚約者に、ひどい対応ですね?

笑いを噛み締める。



「ふふ、サフィア、これで簡単に終わりなんかしないのに。」



せいぜい、今の平穏を存分に満喫してね?

束の間の安息なんだから。



「ーーーディア様?」



去って行くサフィア達の背中を笑いながら見送っていた私を、アディライトの声が呼んだ。



「うふふ、説明いただけますよね?」

「へ?」



私が振り向いた先。



「サフィアとトムの婚約の事、なぜ、ディア様がご存知だったのでしょうか?」



にこやかに。

しかし、全く目が笑っていないアディライトがいた。



「ひっ、」



・・あっ、これ、すごく怒ってる。

聖母のように微笑みを浮かべるアディライトの背後に、般若の顔が見えた気がした。



「ディア様、どう言う事なんですか?」

「ご、ごめんなさい!」



半泣きになる私。

あまりのアディライトの怖さに泣きそうである。



「まず、説明を。」

「はい!リリスから、サフィアとトムの2人の情報を得ました!」



あっさりとバラす。

これ以上、アディライトの怒りが燃え盛ったら危険なので。

主に、私の精神が!



「あら、うふふ、サフィアに対して、ディア様は何もしないとおっしゃったはずですが?」



ーーー私の聞き間違いでしょうか?

そんな声が聞こえた。



「・・いや、あの、自衛は必要かな?って、」

「ディア様?」

「はい、正直に言います!サフィアに何かしらの仕返しができたら良いなって思ってました!」

「コクヨウと、その顔は、どうやらディオンの2人もディア様の共犯ですね?」



呆れたようにアディライトが溜め息を吐く。



「お2人がおりながら、どうして、ディア様の事をお止めしないのです?」

「僕達がお止めしたら、ディア様は1人でしますよ?」

「アディライト、まさか、その方が良かったですか?」

「いえ、とても英断です。」

「ちょっと!?」



2人に対して私よりお咎めが少ない事に抗議の声を上げる。



「しかも、最後のひどくない?私を何をするか分からない危険人物だとでも思ってるの!?」

「「「そうでしょう?」」」



むくれる私にアディライト、コクヨウ、ディオンの3人の声が揃った。

何で!?



「さて、ディア様とじっくりお話ししないといけませんね?」



最後にアディライトが微笑んだ。

そのまま街の散策が中止になったのは言うまでもない。

街の散策を中止し、宿へと戻って来た私達。

アディライトが満面の笑みを浮かべる。



「で、お聞かせくださいますよね、ディア様?サフィアに何もしないと言う私へのお言葉を、嘘になさったんのですから。」



宿に戻った私は、逃げることも出来ずにアディライトに詰問されてしまう。



「あの様にサフィアの事を怒らせて、ディア様は何を考えているのでしょう?」

「え?サフィアで楽しく遊ぶ事だよ?」



当然でしょう?

即答すれば、アディライトの目が細まる。



「ダメです、ディア様。あの様な害虫に近寄ってはなりません。」

「うん、無理。」



まさかの、元親友のサフィアの事を害虫扱い。

私への暴言に、アディライトのサフィアへの怒りは収まらない様子。

しかし、無理なのだ。



「だって、私の迷惑になるならアディライトは目の前から消えるでしょう?」

「っっ、」



あぁ、ほら、否定しない。

だから嫌だった。



「アディライト?貴方の全ては、私のモノなんだよ?」



なのに、私から離れるの?

私を捨てて?



「私の迷惑になる?だから、離れるのが正解?」



私の元から消えるなど許さない。



「ふふ、ほら、そんな事になるなら、そうなる原因を取り除かないとね?」



アディライトを私から奪う原因は、ちゃんと取り除かなきゃいけないでしょう?

私だけのアディライト。



「貴方を私から奪う、どうでも良い存在は必要ないでしょう?」



なら、消さなきゃ。

私からアディライトを奪う存在や噂を。



「貴方が思うのは、私だけで良いの。そうでしょう、アディライト?」



他は捨てて?

アディライトの心が私だけになる様に、いらないものは全部消してあげるから。



「大好きよ、私のアディライト。」



だから、離れないで?

何があっても。



「っっ、ディア様、私も大好きです。」



瞳を潤ませるアディライトの身体に抱き付き、自分の腕の中に閉じ込める。

私の大事なアディライトの事を。



「アディライトを煩わせるものは、要らない。だってアディライトが考えて思うのは私だけで良いんだもの。」



仄暗く笑った。



「・・あら、雨?」



計画は進む。

楽しい私の望む通りの展開へ。

その日から、ルドボレーク国に嵐が訪れ、雨が止む事は無かった。

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