第288話 闇の精霊・光の精霊
こちらへ向かってくる精霊王の気配に注視する。
他の4人の精霊王が私に好意的だからと言って、今から向かって来ている2つの神気の持ち主が友好的に接してくれるとは限らないのだから。
「悩んでても仕方ない、お客様を出迎えるとしますか。」
サーラ達と仲良くしているとは言え、初めて会う精霊王との邂逅なので、疎かにも出来ない。
きっちりと、もてなすとしましょう。
自室から出て、先ずはアディライトの姿を探す。
「ディア様。」
すぐさま見つかるアディライト。
足早に私の元へ駆け寄ってくるアディライトに微笑む。
「どうやら、アディライトも気付いたのね?」
「は、はい、すごい神気でしたから。」
「理解しているなら、話は早いわ。アディライト、悪いんだけど、これからここへ来るお客様のおもてなしをするから、お茶とお菓子の用意をお願い。」
「かしこまりました。」
一礼したアディライトは、足早にキッチンへと向かう。
その背中を見送り、私が向かうのは玄関。
私の後ろには、コクヨウとディオンの2人が付き従う。
何かあってはいけないので、屋敷に残っている他の子達はフィリアとフィリオの2人に任せておく。
「我が屋敷へようこそいらっしゃいました、精霊王様方。」
玄関を開けた先。
黒と白の色を纏った2人の精霊王がいた。
「ーーーあら、よく私達が来る事が分かったわね?」
「ちゃんと気配は消していたはずなんだけど?」
楽しそうに微笑む2人の精霊王。
「お2人が顕現された際の一瞬だけ、神気が消せておりませんでしたので、どうにか気が付きました。」
その後は簡単。
感知した神気を、ずっとマークしていただけ。
「ふふ、中々やるわね。」
「見所があるわ。」
「恐れ入ります。」
褒められたので、お礼を告げる。
「精霊王であるお2人がここに来られたのは、私に用があっての事なのでしょう。立ち話もなんですし、どうぞ、屋敷の中へお入り下さい。」
高位精霊である2人を、いつまでも外に居させる訳にはいかない。
2人を屋敷の中に招き入れる。
「んー、ここは精霊達の魔力がたくさん溢れているのね。」
「気持ち良いわ。」
室内を見渡し、嬉しそうな声を上げる2人。
「私に好意的な精霊達が、この屋敷の建築に携わってくださったのです。お2人が魔力を感じるのも、だからでしょう。」
「水と火と土と風が寵愛している貴方の為だもの、下位の子達は張り切るわよね。」
「それは、精霊達が喜んで力を貸すわよ。」
「精霊達の好意は、本当にありがたい事です。さぁ、ソファーへどうぞ。」
頷く2人へ、ソファーを進める。
「ありがとう。」
「では、遠慮なく。」
素直に私が進めたソファーへと座る2人。
「ーーー失礼いたします。」
その時、カートを押したアディライトが室内へ入って来る。
ちょうど良いタイミングだ。
「闇の精霊王様、光の精霊王様、どうぞ、お寛ぎくださいませ。」
アディライトが、2人の精霊王の前のテーブルへお茶とお菓子をそれぞれ置いた。
「ディア様も、どうぞ?」
私の前にも、きちんと置かれるお菓子。
どうやら今日のお菓子は、パウンドケーキのようだ。
「あら、美味しそうね。」
「本当、嬉しいわ。」
アディライトが用意したパウンドケーキに瞳を輝かせる、2人の精霊王。
2人も甘いものは好きなようだ。
「こちらのお菓子は、パウンドケーキと言います。アディライトの作るお菓子は絶品ですので、どうぞ、お2人ともご賞味ください。」
私は2人にお菓子を進める。
誇張でもなんでもなく、アディライトが作るお菓子や料理は本当に全部美味しいからね。
気兼ねなく、精霊王である2人にも進める事ができるのだ。
「パウンドケーキ?」
「聞いた事ないお菓子ね。」
2人がパウンドケーキを一口、食べる。
「んぅ、!?」
「まぁ、!!」
パウンドケーキを口の中に入れた瞬間、2人が目を見開き、その頬を緩ませていく。
「本当に美味しいわ。」
「確かに、中々の味ね。」
どうやら、2人もアディライトのお菓子を気に入ってくれた様だ。
2人の反応に、私は胸を撫で下ろす。
「このケーキの中に入っているのは、クルミかしら?」
「んー、私のはフルーツの味がするわ。」
「あら、そちらも美味しそうね?」
「なら、少し交換でもする?」
和気藹々と夢中でお菓子を頬張る、闇と光の精霊王の2人。
とても幸せそうである。
「私達精霊と交流のある妖精族や、エルフ族は、こんな美味しいものは作らないもの。」
「甘味と言えば、簡単な蜂蜜ぐらいよね?」
とは、2人から。
人里に現れる事のない精霊、しかも王なら、こんな美味しいデザートは初めてなんだろうね。
今度、日本由来のデザートも用意してみようかな?
喜んでくれそうな気がする。
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