第276話 冬華のお披露目

罠とは、相手にバレぬ様に張るもの。

ひっそりと、静かに。

かかったら最後、その罠から逃げられない。



「ーーっっ、なっ、おい、ルミア、それは、一体どう言う意味だ!?」

「何がです?」

「俺がお前の思惑通りに動いたとは、一体、どう言う意味だと聞いているんだ!!?」



身体を戦慄かせるゲスナン。



「ふふふ、少しも可笑しいと思わなかったの?」

「何?」

「都合良く、契約書を用意出来る訳がないじゃない。」



ゲスナンをルミアが嘲笑う。



「っっ、ま、まさか、」

「そう、そのまさかよ。貴方がすんなりと私に賭けの話を持ちかけてくれて良かったわ。感謝するわ、本当にありがとう。」



にっこりと、ルミアは笑った。



「ふふ、今更、賭けを止めるなんて言い出さないでしょうね?まぁ、こうして契約書があるから、今更、賭けを止める事もできないけど。」

「っっ、契約書を寄越せ!」



ルミアが持つ契約書へ伸ばされる、ゲスナンの手。

しかし、ルミアは、あっさりと躱す。



「渡すわけ、ないでしょう?貴方を破滅を追い込む大切な契約書なんだから。」



嘲りながら、ルミアは契約書を私へ渡す。



「ディア様、お願いします。」

「えぇ、確かに預かるわ。」



手渡された契約書を、私は空間収納の中へと仕舞う。



「契約書は私の主様が大事に保管しておきますので、ご心配なく。」

「っっ、」

「今日の大会は頑張りましょう、お互いに。さぁ、ディア様、遅刻しては大変ですので、もう会場の方へ参りましょう。」



怒りに震えるゲスナンを最後に冷ややかに見据え、ルミアは私を促して歩き出す。

頼もしい事だ。



「良くやったわ、ルミア。」



小さく称賛を送る。



「ーーありがとうございます、ディア様。」



誇らしげに、ルミアが頬を緩ませた。

ゲスナンと別れ、大会本部へ向かった私達は、トウカを預けて本番を待つ。



「ーーただいまより、審査を始めさせていただきます。」



アナウンスと共に、審査員達の前に大会へエントリーした工房の作品が並べられる。

鑑定しても、ちゃんとトウカの表示。

裏でトウカのすり替えはされていないようだ。



「・・リリス、妨害はあった?」

「はい、大会委員会の1人がゲスナンへ協力をして、最底辺の武器とすり替えを行おうとしておりました。ですが、すり替えは行わせませんでしたので、ご安心を。」

「そう、ご苦労様。」



監視させていたリリスの報告に頷く。

最後の足掻きだろう妨害工作があったが、無事に審査が始まる。

珍しい鑑定持ち達が審査を行っていく。



「っっ、これはっっ、!!」



上がる驚きの声。

その視線の先にあるのは、ルミアが作った武器、トウカだった。



「レア度が特殊ユニーク!?そ、それに、武器に付与されている機能が5つも!!?」



そんな震える声に、トウカに集まる視線。

ふむ、注目の的ね。



「な、特殊ユニーク!!?しかも、武器に5つも機能が付与されているなんて、そんな馬鹿な!!」



ゲスナンの声にちらりと視線を向ける。

そこには、愕然とした表情を隠せないゲスナンの姿があった。



「ふふ、良い顔。」



ゲスナンの顔にニンマリと微笑む。

もっとだ。

ゲスナン、貴方にはもっと絶望してもらう。

ーーーそう、死ぬほどの絶望を。



「静まれ!」



騒めく会場内に響く大きな声。



「大会の審査は、まだ終わってはおらん。審査を続けよ。」



この大会を主催するモルベルト国の王。

ーーーゲスナンの兄、ゲルマン。

鋭い視線で会場内を見渡すと指示を飛ばす。

さすがは、一国の王。



「あの男とは違い、優秀そうなお王ですね。」



コクヨウが小さく呟く。



「そうね、先代に次代の王を任されるぐらいの方だもの、だからこそ弟であるゲスナンも、優秀な兄に嫉妬したでしょうね。」



この国、モルベルト国は特殊な国だ。

王位は血脈ではなく、その時に特に優秀な者が選ばれる。

何よりも、優れた鍛治師が。



「まぁ、いずれは私の加護を受けたルミアが王をも追い抜くでしょうけど。」



まだ経験の少ないルミア。

その弱点を克服した時、ルミアはこの世界一の鍛治師となるだろう。

トウカに集まる視線に満足しながら、審査が終わるのを待つ。



「ーーー・・陛下、結果が出ました。」



審査員が王へ書類を渡す。



「ふむ、やはり今のところ、あの武器が一番か。」



王の視線の先はトウカ。

職人としての熱い眼差しを、王もトウカへと向けている。

それは他の職人たちも同様。

トウカへ集まる職人や観客達からの視線は多い。



「くっ、」



それに悔しがるのはゲスナン。

屈辱の表情。

憎々しげに、ゲスナンはトウカを睨みつけている。



「せっかくの賄賂も無駄になったよね。」



残念でした、ゲスナン。

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