第249話 閑話:ミンティシア④

ミンティシアside




緊張を孕む、会場。

先ほどまでの和やかさなど、影も形もない。



「っっ、」



私も緊迫する空気に、身体を固まらせる。

これが、Sランク冒険者としての、ソウル様の一面。

隠された力の片鱗を垣間見た気がした。



「ーーっっ、ソウル嬢、まさか、それは脅しか?」

「ふふ、まさか。」



お父様の問いに、ソウル様は優雅にお茶を飲んで微笑む。

それを、恐ろしく感じたのは私だけ?



「別に脅さなくとも、全く王様は私の脅威ではありませんもの。」



怖くて堪らない。



「お忘れですか?王様も、私の力はご存知でしょう?」



目の前にいるこの人は、危険だ。

本能が警鐘を鳴らす。



「王様、私は多少の事には寛容なつもりですが、それでも限度があります。こうも干渉が過ぎると、私も考えを改めなければなりませんよね?」



ーーーこの人を、怒らせてはいけない、と。

敵となるなら、この人は、この国さえも亡ぼすといっているのだ。



「・・はぁ、ソウル嬢、誤解を与える様な聞き方をして、すまなかった。」

「誤解?」

「そうだ、ソウル嬢の行動を把握したかったから聞いたのではない。誤解を与えたのなら、謝罪する。」

「では、なぜ?」

「我が国は、あの里と、よしみを繋ぎたいと思っている。その為に、ソウル嬢から色々と話を聞きたかったのだ。」



お父様の説明に、霧散する緊迫感。

身体から力が抜けていく。



「王様、理由を詳しくお聞きしても?」



どうやら、お父様の話はソウル様の興味を引いたらしい。



「うむ、ソウル嬢は世界樹について知っているか?」



お父様が話を続けていく。



「世界樹は、あの里でしか育たぬ木。ゆえに、世界樹の葉や木は市場に全く出回らぬのだ。」



ソウル様が立ち寄った里でしか育たない希少な世界樹の葉である事。

その世界樹の貴重性。



「私は、その世界樹の葉や木を市場にどうにか出回らせられないかと考えている。」



そして、ご自分のお考えを。



「ーーつまり、あの里とよしみを繋ぎ、その貴重な世界樹の葉や木を王様は手に入れたい、と?」

「簡単に言うとそうなる。無論、交易としてな。ソウル嬢があの里に入れたと聞いて、交易が可能か知りたかったのだ。」

「なるほど。」



お父様の話を聴き終わり、ソウル様が頷く。



「世界樹の葉は、万能薬となるからな。どの国も、喉から手が出るほど欲しいだろう。」

「そうなのですか?」

「あぁ、彼の国以外は、な。」



顔を顰めるお父様。

こんな風にお父様が感情を露わにする事は、珍しい。



「王様、彼の国、とは?」

「うむ、聖王国パルドフェルドだ。」

「・・え?」



息を飲む、ソウル様。

一体、どうしたと言うのだろうか?

聖王国パルドフェルドと聞いて、一変するソウル様の表情。

そんなソウル様に、私達家族は困惑するしかない。



「ーー聖王国パルドフェルドは、なぜ、世界樹の葉を欲しないのですか?」

「彼の国に聖女様がいらっしゃるからだ。」

「聖女様が?」



怪訝そうな表情になるソウル様。

が、それも一瞬。



「王族の方々は、ご自分の事しか考えておられないのですか?」



呆れた様に呟いた。



「耳が痛い言葉だが、そう言ってくれるな。民の心を繋ぎ止める事ほど、難しいものはないのだから。」



お父様は、苦笑いを浮かべる。



「だからこそ、私は民を救う為に特に世界樹の葉を少しでも市場に出回らせる様に尽力したいのだ。」

「・・王様。」

「例え、聖王国パルドフェルドに何と言われようと、民の事を優先出来ず、何が王か!」



聖女がいらっしゃる、聖王国パルドフェルド。

どの国よりも、発言権は強い。

だからこそ、理不尽な事も飲まざる得ないのが現実。



「どうか、頼む。あの里と交易できる様、お力をお貸しいただきたい。」

「お任せ下さい!」



だからこそ、民の為に世界樹の葉を流通させたいとお父様が告げれば、満面の笑みでソウル様が請け負う。

その笑顔が黒く感じたのは、私の気のせいでしょうか?



「誠か?」

「えぇ、本当に王様の心意気には感服ですわ。私、王様のお言葉に心を打たれてしまいました。」

「そ、そうか?」



褒めちぎるソウル様に、引き攣るお父様の表情。

あ、あら?

ソウル様の雰囲気が怪しくなっているような?



「それに、大国の1つである聖王国パルドフェルドと戦も辞さない王様のご決意は本当に素晴らしいですわ。」

「は?」



斜め上の解釈に、私達家族は言葉を失った。



「もう、王様もお人が悪いです方ですね?そうであるなら、先にそう申してくだされば良かったのに。」



そんな私達の様子にも気付かず、頬を染めるソウル様。



「うふふ、この私に、全てお任せ下さい。万事、王様の民を思うお心の為に、上手く聖王国パルドフェルドを屈服させ、黙らせられるように事を進めますので。」



やる気に満ちた瞳で、ソウル様が握り拳を握った。



((((・・いやいや、絶対にそこまで言ってないよね!?))))



顔面を蒼白にする私達家族。

全員の気持ちが、心の中で1つになった瞬間だった。

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