第247話 閑話:ミンティシア②

ミンティシアside




みっともなくお姉様達が足掻くほど、ソウル様の追及は止まらない。

潔く、謝罪をした方が傷は浅かっただろう。

しかし、もう遅い。



「だって、私をこの場に呼んだのは、この国の国王陛下ですよ?」



自分達が何をしたか。

誰が相手だったのかを、知らしめて。



「1つ疑問なのですが、正式に伝言を預っていないのに関わらず私に帰れと言うのであれば、貴方様は、この国の国王陛下よりもお偉い立場の方なのでしょうか?」



お姉様達の数々の暴言に耐えていたはずの彼女は、その口元に笑みを乗せていた。



「下賎の生まれの私にも分かるように、どうか教えてくださいます?」



楽しそうな顔で。

新しく、最速でSランク冒険者になった方。



「ーーー・・あの方が、ディアレンシア・ソウル様。」



今回のパーティーのお披露目の主役。

お父様が友好を示したいと乞い願い、この場に来てもらった人。



「まさか、下賎な私の問いに高貴な血筋のお2人は答えて下されないのですか?では、国王陛下に直接お聞きした方がよろしいかもしれませんね。」



完膚なきまでにお姉様達を正論で言い負かすソウル様のお姿に、私は感嘆の留息を吐いた。

お姉様達が勝てるわけがない。

自分の身に流れる血しか誇れるものがない、お姉様達では。



「・・これで、お姉様も懲りて下さると良いのだけど。」



暗澹たる思いで、私は扇で口元を隠した。

王族として、不甲斐ない。

その後は、飛んで来たお父様が現れ、お姉様達は謹慎を言い渡されたりと、厳選なる処罰を与えられたりで騒然となる会場内。

お父様の指示ですぐさま兵によって会場から引きずられるように連れ出されるお姉様達。



「お姉様達は、王族としての意識が低いのですわ。」



つい愚痴ってしまう。

王族だから、それに相応しい待遇を得る代わりに義務が多く課せられる事は当たり前。

次代の王以外は、国の為の結婚を強いられる。



「何度も、もう少し王族の自覚を持つように、お姉様にはお願いしたのに。」



私の願いは、あの姉には届かなかったようだ。

ひっそりと、溜息を吐き出す。

あの姉の愚かしさは、自分の反面教師となった。



「ミフタリアは、マリエンヌ修道院へ向かわせる。これは王としての決定だ。」



ーーー使えぬ者は、国に切り捨てられる。

それが、王族の末路。

王命であるお父様のお言葉に逆らい、この国の重要人物を亡き者にしようとしたお姉様は、戒律の厳しいマリエンヌ修道院へ一生を過ごす事となった。



「ミンティシア。」

「はい、お父様。」

「この国の直系の王女は、これでお前だけになった。」



お父様の目が、私を射抜く。



「この意味、幼くとも聡明なお前なら分かるな?」

「心得ております。」



この身に流れる、高貴なる王族の血。

外交の切り札に。

そして、この高貴なる血は友好の証として、他国への人質となる宿命を宿している。



「すまぬ、ミンティシア。」



鎮痛に顔を歪ませるお父様に、私は微笑む。

私は、ちゃんとお父様に愛されている。

でも、一国の王としては、例え親子だろうとも私情を挟む事は許されない。



「謝らないで下さい、お父様。このミンティシア、王女と生まれた時から、全て覚悟は出来ております。」



怖くないと言ったら、嘘になる。

でも、覚悟はしていた。

この国の筆頭公爵家の嫡男様との婚約が結ばれたとはいえ、結婚するまでは情勢によっては解消となり、他国に嫁ぐ事になると受け入れている。

お相手のお年が私と離れていようとも、この身が国のお役に立つなら、喜んで側室としてでも、人質としてでも嫁ぎましょう。



「お父様の、この国の有益となるよう、この身をお使い下さい。」



それが、私の矜持。

大国と呼ばれる、ルーベルン国第二王女としての、私のあり方。



「良く言いました、ミンティシア。王女として、とても立派な心意気ですよ。」

「ありがとうございます、お母様。」



お母様に褒められ、頬が緩む。

この人の背中を見てきた。



「まだまだお母様には敵いませんが、この国の王女として精進を続けてまいります。」



美しく見える事を心がけ、お母様にカーテシーをする。

私の目標。

目指す、理想の女性。



「後日、ソウル嬢を宮殿に呼んだ。」



決意を新たに他国についての勉学と、王女として相応しい立ち振る舞いのマナーを学び直していた頃。

お父様からソウル様の訪問を聞かされた。



「えっ、ソウル様が宮殿に来られるのですか!?」



思わず、お父様に詰め寄る。



「あぁ、そうだ。ソウル嬢が宮殿に来られる。」

「まぁ、」



胸の前で手を組む。



「では、お父様、どうか私も一緒にソウル様と歓談させて下さいませ。」

「ん?ミンティシアもか?」

「はい!!」



お父様に向かって、深く頷いた。

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