(Epilogue..





















さて・・

 ――問題はここからだ・・・・・・・・





















「……、……」





 まず、俺の掌に返ってきたのが、両断の手応え。


 ――そして、残るは静寂。いや、正確に言えば摩天楼が燃え上がる音は煩いくらいに響いているし、その光は灯となって、空、夜の曇天をまばゆく暴き出している。

 雪の積もった朝の日差しが目を灼くほどにまぶしいように、曇天というスクリーンを反射した街一つ分の火は、夜色でこそありながら瓦礫の欠片一つの輪郭さえを照らしている。


 音も、視界も、実に旺盛だ。それでも、目立つのは静寂だ。


 例えるならそれは、雷鳴の次に来る落雷を待つような感覚だったのだろう。

 或いは巨大な何かが崩落する瞬間を目撃してしまった心境かもしれないし、勝ちを確信した誰かが、続く勝鬨を待つような、そんな感情にも似ていただろう。


 その、何かの前の静けさ。

 一つのシネマの、そのエンドロールが終わりを兆し、衆目が立ち上がって、あとはスタンディングオーベーションをするだけの待機時間である。



 それが、続く・・

 静寂は静寂のまま、幾ばくと延長をし続ける。



「……、……」



 火が燃える。煌々、煌々とだ。

 今、俺たちは異世界の最高峰の一つを打ち倒した。仮にこれが、勝利自体には何の価値もないようなエキシビジョンであったとしても、喝采と祝福はあるべきだ。


 それがないから、誰も、何も言わない。

 いや。――正確に言えば、二の句が継げなかったのは俺とパーソナリティのみである。


 口が利けるなら、この場には、発言の権利を持つ存在は一人いる。そいつは今、俺の、エイルの思考を模倣した神域の一撃を食らって上半身と下半身を分割しているところではあるが、



「……、……」



 

 だからこそ俺は、確信をもって、『彼』からの答え合わせを待つ。


 その彼、――アダム・メル・ストーリアは、






「――完敗だ。負けた。見事だ、カズミハル」






 身体を上下に二分割されたまま、そうして倒れ伏したままで、そのようにまずはつぶやいた。






「……、……」





 アダム・メル・ストーリアの、遺体であるべきその身体。

 見れば、その断面を伝うのは、どす黒い血液ではなくスパーク・・・・だ。






「……俺を」


「なんだ、カズミハル。敗者の義務だ、聞こうか?」



「俺を、騙せたのか・・・・・?」





 俺の問いに対し、返ってきたのは、まずは沈黙だ。

 そして、






「ははは、はは」



「……、……」




「ははは、はは。……はははは、ははは」






 壊れたレコーダーの様な、断続的な響きの笑い声。






「カズミハル」


「……、……」





「お前は、俺の言葉を信じたのか。そうか。……では、教えてやろう」





 ……アダムの身体を二等分する断面からこぼれるのは、血液ではなくスパークだった。

 さらに言えば、あの言動。どう考えてもあれば死にゆく者のそれではない。むしろあれは、勝者の余裕だ。


 なら、まずは状況証拠による仮定として、あのアダムはドローンか何かだという可能性が考えられる。いや、考えてみればそもそも当然だ。一国の主が死地に、何の保険もなく向かっていいはずがない。おそらくアダムは、あの鎧を遠隔で操作するなどして戦っていたのだ。

 その上での考察材料。ここまでの戦いでは、レクスが一度アダムの兜を引っ剥がしたはずだ。その時の彼の顔はどう見たって本物だ。ならば、考えられるのはどこかのタイミングの入れ替わりということになる。


 それが、いつのことだったのか。

 その回答をアダムは、







 そのように、俺に示した。



「……、……」











「ははは、はははは。――はははははは。……楽しかったか、カズミハル、あの世界は? 心が躍ったというのなら重畳。誇らしいことこの上ない。しかし残念。夢は終わりだ――





















 ――貴様は、つまらない世界で残りの人生を死ぬまで生きていろ。では、失敬する」




















 

 それだけだ。たったそれだけ。

 それだけ言い残して敗者アダムは、勝者俺たちを置き去りにして、姿を消した。








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