3.





『うわァ! なんかでっかい女の人が出てきましたッ、ハル!!』


「……ど、どういうこと?」




『やばいやばいやばい!! デカい! 強い! デッカぁい!!!』


「おーいエイルー?」




『し、死ぬゥ!! ごめんなさい通話切ります! なんかあったらかけてきてください!!!』


「あ、はい……。うわ本当に切れた……」







 ――【領域:はじまりの平原】にて。







「おい、何があったんだ……?」


「……なんかでっかい女の人が出てきたんだとよ」



「……? 誰だ? どこから? どうして?」


「わからん。デカいことしか教えてくれなかった……」



『王城術式_No11.』なる魔術の効果から解放された俺たちは、改めてアダムから数十メートルほどの距離を取っている。ただしこれは、こいつらの踏み込みで数えれば3歩にも満たない距離だ。とんでもねえぜ。


 なお、そんなアダムの方は方で、何やら兜のこめかみの位置に指をあてるようにして「独り言」を言っている。



「――――。」



 内容は聞こえてこない。やり取りじみた『間』がいくつか挟まれたようだったが、

 ……すぐに彼は、こめかみに当てた指を降ろす。


 そして彼は、――まるで、



「――


「……は?」




「……――ま、さか!? おいレクス!!」


「な、なんだ!?」




「レクス! ――あいつにあれ以上喋らせるな!」




。――起動準備/思考補助ヘカトンケイルシステム全稼働:指定術式:王城機構_No14.」


!!」




 その言葉に弾かれたようにレクスが奔りだす。それと同時に俺もスクロール『身体能力の振り直しステータス・トランサー』を起動。視覚の処理機能にそれ以外のほぼすべてのステータスをて、目前十数メートル。


 瞬き一つの間に衝突したアダムとレクス。

 二人の剣の打ち合いを、俺はつぶさに観察する。




「――――ッ!!」



 レクスによる、助走を大いに乗せた拳撃。

 それをアダムは、前腕による受け流しでいなした。銃を持った方の腕である。つまり今アダムは、剣を掴んだ掌を完全に自由にさせた状態で、レクスの姿勢を崩して見せたことになる。


 ただし、



「――――ォォがァァアアアア!!!」



 姿勢が崩れ切った状態でなお全身が凶器なのがレクスという男である。奴はそのまま、――あろうことか弾かれた拳を無理やり、結果的には鍔迫り合いのような状況を作り出す。



「ッ!?」


「っだぁあ!!!!!」



 そして、振り抜く。――ドッパァアン、とヒトの膂力が出す音ではない轟音が響いた。が、アダムは身体をコマのように四週回しながら後方に引き、その衝撃を完全にいなし切った。



 



「おいレクス! まだまだ向こう余裕あんぞ!」


「見えてるから分かってんだよ! ――だァア!!!」



 一瞬だけ引いた足に力を矯めこむ。そして、跳躍。

 歩幅三つ分離れたアダムの顎を狙う飛び膝蹴り。それをアダムは、首を横に反らすだけで回避して、



「っとォ!!」



 二撃。三撃。四撃。

 空中にてレクスは、瞬く間に四つの蹴りをさらに放つ。それぞれが大気をたたき割る甲高い音を響かせるような威力だが、アダムはやはり最低限の挙動のみでそれを避け、付随して発生したソニックムーブに対しては、直撃はしているモノの何の痛痒も見せない。


 更にアダムは、四つの蹴りの回避と同時並行で、自身の姿勢を取り直していたらしい。剣を垂らして、拳銃を持ち上げる。しかしながら、レクスを次に襲ったのは銃撃ではなく、





 銃撃と剣戟が入り混じる、――乱撃である。



「――お、ォオオオオオオオオオオオオオオ!!!?????」



 剣戟、銃撃。それは止まることを知らず、全ての動作の終わりが次の動作の始まりに繋がり続ける演武である。

 剣戟、銃撃。剣戟、剣戟、銃撃。きっとあの剣舞は相手が白旗を上げるか首を切り飛ばされるその瞬間まで、途切れることなく続く。……と、そこまで来て俺は、ようやく連中の制空権に手が届くところまで走り着いた。


 さて、それでは『視覚処理』。

 そこに俺の思考力直観を加えれば、俺の脳に目くるめくは未来予知じみた『可能性のあるその後の展開』の、その全ての整列・・である。俺は、オーバーヒートしそうな過密思考に大いに心地よさを覚えつつ、0,1秒未満で熾り、終わるアダムの行動をつぶさに見る。


 そして、――『呼吸を予想する』。



――」


「――起動ッ!!」



 俺の接近を端から見ていたアダムは、果たして俺にどう対処するか。当然、予想できる行動は二択だ。すなわち距離を取るか、或いは迎撃か。

 そのうちアダムは前者、距離を取る方をひとまずは選んだらしい。それを、俺は曖昧にではあるが予期していた。

 何せ、俺を無力化するために用意した兵装が、剣でも槍でもなく銃なのだ。だとすればアダムは、俺がアダムに近づくという展開を嫌がっていることが分かる。……というのは言い過ぎだとしても、少なくともアダムは俺と、遠距離での応酬でケリを付けようとしていたということだ。


 予想としては、『バー・ヴァルハラ』のスキルを警戒している可能性などが上がるだろうか。これ自体はと解釈して問題ないものだが、アダムからすれば、俺が使ったこのスキルによってレクスは異邦者大戦の戦場から消失し、そして心変わりをして帰ってきたわけである。


 故に、不用意な接近は恐れてこそ自然だ。だからアダムは、俺の接近を視たらまずは距離を取ることになる、


 そして、俺視点。

 アダムが距離を取るならば・・・・・、俺はこのような一手を打つ。


 ――起動指示による、スクロールホルスターからの魔力隆起。

 俺は、その透明なる抵抗感に思考にてゴーサインを出す。


 そうすれば、現象の発現。

 使用したスクロールは二つ。『無属性魔力射出リボルバー』と『爆発石生成グレネイド』である。つまりは、爆発石を生成して、それを粗製の魔力射出による推力で前方にまき散らす。

 アダムの退避は当然圧倒的なる速度で行われたものだが、小石の飛翔は彼に簡単に追いついた。そして、さらなる起動きばく



「――――ッ!!!??」



 以上の行程をコンマ秒の速度で以って、アダムが詠唱のにて行う。

 するとどうなるか。


 ――答えを言えば、奴はわけだ。



その哲学を浮かb・・・・・・・・――ッ!!」


「バカめ! 通気性を気にするからそんな羽目になるんだよ! 次は隙間ガムテで止めてこォい!!」



 などと挑発こそしたが、アダムはギリギリで咳き込むのを耐えきっていた。

 ……さて、この一手で俺が用意したアダムへの嫌がらせは二つある。


 一つは、詠唱失敗の可能性。俺はこの世界の住人じゃないわけで又聞き知識だが、この世界の魔術学問において、魔方陣と詠唱はメリットの取捨選択で以って選ばれるものらしい。簡単に言えば、魔術式は噛んではいけない。故に、は手間をかけて文字に起こす。当然、言い間違える心配のないような式なら口に出すだけで構わない。……その上で、ここで奴が使おうとしている術式は、元来ならモノであったはずだ。つまり、詠唱を失敗させれば術式の起動はない。それが一つ目。


 そしてもう一つが、咳き込むことそのものである。

 目前には『野獣』がいるのだ。そんな隙を見せれば、食い付かれて然るべきだろう?



「ナイスだ鹿住ハァル!! ブッ飛べァアアアアアアアアアア!!!!」



 一瞬だけだが、明確に身体を硬直させたアダム。

 その一瞬がレクスにとっては、の、膨大な時間であった。


 アダムは、一拍遅れて剣を持ち上げた。破れかぶれの防御。それを、レクスの拳は、豪快にその上から食い破る!




「轟ォオオオ――ッ!!!!!!!!!!!!!!!」











発動・・竜条紫槍ドラゴン・ライダー

 これにより魔力ストックをワンゲージ消費しました』











 その術式は、俺もレクスも知っている。だからこそ、その後に起きることも予想が出来た。

 すなわち、雷の龍による強襲・・・・・・・・。レクスの渾身の一撃は、アダムの胴体ではなく龍のアギトと衝突し、そして竜が消える。



「――――。」



 渾身の一撃を喰われた・・・・レクスの沈黙を破るのは、『』。



。コンティニューしますか?』


「しよう。……でかしたぞ!」



「ず、ずるじゃねえか――ッ!!!」



 思わずそう叫んだ俺に、アダムは、



「――。 使



 そう、呟いた。



「……お、おい鹿住ハル! もう一回だッ! もう一回あいつに咳させろ!!」


「出来そうなら何百回でもやってやるから喋ってねぇであいつに喧嘩売ってこォい!!!!」



 俺の言葉を待たず、レクスはゼロ秒の踏み込みでアダムの懐に殺到する。が、

 ――敵は、シシオとも同世代らしい、この世界の最高峰の一人だ。故に『雌雄』は、姿から改めて比較される。



 


「喋ってンじゃねえぞォ!!!!」



 限界まで体を丸めたボクシングスタイル。レクスはそのまま、神速のジャブを8つ放ち、――それを全て迎撃される。



「――起動!!」



 レクスとアダムの応酬は、きっとあのまま地平線だ。8つを返されれば次は9つのジャブを、或いは、それを受け切れば次は10の迎撃を。そして、児戯と達技の仕合いとなれば、決着は遠からずつくだろう。そこに俺は、――『自爆術式エクスプロード』を放り投げる。そこまでがコンマ1秒。俺の起動指示は遠隔の時差を以って、レクスとアダムの最中央にスクロールが到達した瞬間に発現した。


 爆炎。そして夥しき硝煙。

 それによって両雄の視点では、全ての視界が消失をする。そこに、俺が奔り――、



 


「何言ってんのかよくわかんねえよバーカ」



 なおも詠唱を続けながら、第六感にて背後に接近した俺の存在を気取ったアダム。俺とアダムの間に交差したのは、――偶然なことにボディーブロー同士であった。


 ただし、その本質は互いに攻撃ではない・・・・・・

 アダムからすれば、俺への殺傷に意味がないことは理解している。さらに言えば銃撃も、どうしてだか無効化される。故にアダムは俺の服を掴み、……あるいはそのまま、地面にでも叩きつけてゼロ距離で改めて弾丸をぶち込むつもりだったのだろう。


 対する俺は、拳にスクロールを握りしめている。だからこそ俺にとってすれば、なんならその拳は届かなくたって問題はない。――起動・・、と、そのように思念を送り込むことが出来れば。



「――ッ!!!!!!!」



 無声による悲鳴。何せアダムは、詠唱中だからこそ声を上げることが出来ない。そして……、

 炸裂。


 アダムの懐にて破裂した最高火力の『自爆術式エクスプロード』は、砲撃じみた速度でアダムを弾き飛ばして――、



「はっはっは! !!」


「――ッ!!」






『発動:破花スレッジハンマー

 これにより魔力ストックをワンゲージ消費しました』






「レクス!!!」


「なんだ!!!!」






!!」


「了ォ解ッ!!!!」






 アダムの機械音声は、『兜』の位置から聞こえてきたものだ。故に、割の悪い賭けかもしれないが、兜自体にが備わっているという可能性は考え得る。

 まあ、駄目だったらその時はその時である。「全然兜は関係なくてただのスピーカーだったよ」なんてハメになったとしても俺たちが失うものは何一つとしてない。


 なにせ、――


 ラスボスっぽいヤツが偶然近くにいたから喧嘩を売った、なんてはずはないだろう? この戦闘は、



 故に、俺は言う。――或いは叫ぶ。




ぬーがーせ・・・・・! ぬーがーせ・・・・・! ぬーがーせ・・・・・!!」


「バッチこぉい!!!!」




 破花スレッジハンマーなる雷撃をレクスは全身に浴びて、その鎧を赤熱させる。

 漏れる悲鳴。しかし脚は止まらず、一息にて彼はアダムに飛び掛かり、直立したままのアダムの上半身に全身で組み付いた!



「う、お、お、お、ぉおおおおおおおお!!!!!」


「や、め、ろ、ぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」



 背筋を全力で稼働させて兜を剥がしにかかるレクスと、それを両手で抑えるアダム。それと共に聞こえるのが『機械音声』の悲鳴であった。



『やめてください。放してください。損傷率35%。これ以上乱暴にされると内層式に損壊が発生する可能性があります』


「バカめ! 俺は敵だァ!! 敵に『やめてください』なんて弱い言葉を使ってんじゃねえぞッ! 弱く見えるんだよなァ!!!」



『アダム! アダム! 壊れる可能性があります! アダム!』


「だっははは情けねえラスボスだぜェ! 死ねぇい!!!」



『アダム! 一旦手を放して・・・・・・・!』


「え、――ぁ?」



 スッポーンと、冗談みたいな音が響き、

 そして、兜を引っこ抜いたレクスが、唐突な抵抗力の消失に背中から地面に落ちた。


 他方、さてと、

 ――兜は今、レクスの膂力を大いに浴びて天空へと放り投げられていて、



 



 そして、俺は気づく。

 ……アレってもしかして、? と。











さて、諸君に問う・・・・・・・・。――『王城術式_NO12.:領域召喚魔術・・・・・・』ッ!! ……さあ、答えろ!!!!
















 ――【問:ヒトは、最も強きモノを打ち倒すことが出来るか?】
















 ……ああァ!! クソがよォ! 好き勝手に滅茶苦茶しやがって!! ! やっちまえッ!!!」




 アダムの悲鳴ともに、

 ――驚くべきことに、空が降りてきた・・・・・・・




 そして、【世界の声】が今、


 告げる・・・




















『error error error』



『指定箇所は存在しない領域です error error 処理を強制実行』


『――成立/break..





















『条件の達成を確認しました。


 ヒト類は【解答】を提示しました。

 以下、シークエンスを実行します 』





















『【領域:はじまりの平原】が変遷する!!!


 これよりここは、―― 【領域第二層:空】 となる!!!』





















『領域の主:『竜』 ――顕現』
















『プレイヤー。あなた方が用意した答えが正しいか否か、

 それを証明するのは、あなた方自身です』
















「……、……」



 嗚呼。――否、である。

 空が『降りてきた』という表現は誤りだ。正確には、そうではない、



 そうではなく、

 ――天空が間際にあるのだ。



 天上の雲。それが、見上げればすぐそこにあるのだ。

 小石一つ投げれば、それはきっと天空に届く。



 そして、その最中央。

 そこには、











「アダム、お前、……今、やっちまえって言ったか?」


「……言葉の綾だ、バハムート。ヒトにはよくあることである」













 竜。

 いや、――『』がいるように、俺には見えた。



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