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「――さて」



 と、レオリアが言い、

 ……混迷極まるダイニングルームに、ひとまずの閑話休題が付された。



「大前提のお話はこの辺でよろしいでしょう。コーヒーのおかわりも行き渡りましたね。では、そろそろ本題に移りましょうか」


「……、……」



 本題。

 レオリアの言うそれは、件の異邦者大戦の事で違いないだろう。更に言うなら、その解決、平定の類い。


 しかし、……そもそも、戦争一つに対して俺たちに出来ることとは、果たして何がある?

 この世界のパワーバランスは、確かに個人が群衆に勝るものなのだろう。ただし、それはあくまでも武力一つの計算上の話だ。戦争行為における数の優位は、なにも暴力の強さだけの指標ではない。



「その、本題って言うのは?」



 言外に俺は、「勝利条件が決まっているのか?」と問う。

 シンプルに言い変えれば、この状況はあくまで『この世界と異世界転生者』、そして『特級冒険者とそれ以外』の競争とできる。


 俺はこの図の両者のパワーバランスに詳しくない。なので、自分たちが何をすれば勝利と呼べる状況を引き出せるのかも不明である。


 大ボス一人を倒せば万事解決、なんて話なら勇者宜しく出立すればよい。

 しかしながら、そもそも俺たちは、何を・・解決すればよいのだ?


 ……と言った趣旨の感情を、短い問いに存分に込める。


 対しレオリアは、

 ――敢えて、エイルに返答を譲るようであった。




「それは、彼女に」


「……、」


「何せ彼女が、この企画のクライアントですから。私がでしゃばるのはここまでで」




「……では」




 と、エイル。

 彼女は、



「皆さんにお願いしたいのは、世界要所の異邦者紛争の平定と、そしてこの世界がつつがなく異邦者という存在を受け入れるための解決方法の模索です」


「……、成程」



 彼女が口に出したのは、ほとんどそのまま「この世界側の勝利条件」である。

 ……逆に言えば、世界要所を異邦者に取られ、そしてこの世界が異邦者に無条件降伏するような羽目になるのが「この世界の敗北」である。



「言いたいことは分かるが、先は長いな。……一1つ、聞いていいか?」


「ええ」



「さっき特級冒険者は『異邦者を扇動をした』って言ったよな? 異邦者の先頭に立つんじゃなくて。――じゃあ、この戦争において、バラバラな異邦者連中を統率する、唯一の組織トップはいるのか? それが分かればこの話し合いは終わりに出来るんだけど」



「「「……、……」」」



 返るは沈黙。

 俺またなんかやっちまいました?



「……あの、ハルさん。それって言うのは?」



 問うのはレオリアである。

 それに俺は、まずは簡単に答える。



「この戦争が始まって、未だ二週間も経っていない頃だろ? そんな中で統率者がいるとすれば、そいつは下準備に加担してたレベルの事情通か、そんな事情通のお友達だ。準備をしていないと出来ない動きだからな。そういう意味で、今の段階で『目立つ奴が騒いでる』以上の宣伝力や組織力を持っている奴がいればそいつはクロだ」


「では、その逆の場合は? 有無で事の裏事情を推し量れるということは、統率者がいない場合でも、それならそれで推し量れることがあると……?」



「……そもそもだ」



 俺は間を一つ置く。



「この異邦者大戦は『異邦者の存在宣言』から始まって、名義上は権利拡張のために行われているものだろ? それを前提に更に思い出してみろ。ギルド上層部は既に、この戦争の統率者候補を洗っていたはずだよな。爆竜討伐の一件では、レクス・ロー・コスモグラフなんかははっきりと公国王の前で『英雄になる』なんて誓ってた。エイルもリベットも見てたアレだ。……この場合の公国王ってのは、言い変えて特級冒険者『空の主』の前でって意味にもなるけどな」



「……、……」



「統率者がいるなら、黒幕の目的は騒ぎを起こすことだ。世界規模でな。その裏で何をするつもりなのか、或いは、戦争を起こすことで何かを誘発させるつもりなのかまでは不明だが、そこまでの部分は間違いない。……ただ、正直に言えば俺は、この戦争に分かりやすい統率者はいないんじゃないかと思ってる」



「それは、どうして……?」



「さっきも言ったが、これはそもそもの話だ。――そもそもどうして、退? そんな真似をして誘引できるのなんて世界恐慌ぐらいだろ。というか、なんだよ。だから、黒幕の目的は『戦争を起こすこと』そのものだった可能性がある。……だって、世界混乱立ち回りをしたやつの目的なんて、『世界混乱を起こすこと』以外にあり得ないんだから」



 ……まあ、ついでに本気で転生者の権利拡張も狙ってるかもしれないが。と、俺は何の本気でもない蛇足を加える。



「その場合、統率者が現状で居ないんなら答えは出たようなもんだ。統率者ってのは、異邦者戦力をまとめ上げるパワーポイントの事じゃなくて、この戦争自体の行方を特級・異邦者勢力側から統率する『目的意識のある存在』の事だが、それがいないなら俺の仮説はほとんど実証だ。――この場合なら、黒幕にとって戦争の行方なんてどうでもいい」



 ……というか、この戦争自体がどうでもいいのかもしれない。とも俺は付け加える。


 そして、結論を一言。




「――|? 異邦者存在の露呈がごく自然に差し迫っていたから、その火薬庫に能動的に火を付けた。ダムの放流みたいなもんで、強い『力』がいずれ勝手に暴発する前に人為的に吐き出させたんだろ」




「……、……」



「……ごめんなさいちょっと分かんないデス」



 と、そこでアホことエイルがそのように言う。

 ……ので、仕方なく俺は3行に纏めることにした。



「いいかよく聞け。

 今から言うぞ。

 勝手に炎上する前にガス抜き。――以上だ」



「なんてこった!! 為政者の横暴だ!!」



 同意する他にない。


 ……しかしながら、例えばギルド上層が用意した英雄候補を、元来は真っ当に「異邦者は強いし人類の味方だよアピール」に消費するとして、――それならやはりこの一手はキナ臭い。裏方でどんな予定違いがあったとしても、にプランを修正する必要はないはずだ。


 ゆえに、この戦争の裏事情の力点は「戦争を起こすこと」。

 どう考えたって、ガス抜きなんて言葉で濁すには「戦争」というフレーズは血みどろすぎる。



「とにかく、この状況の裏側では間違いなく何らかの黒幕が動き出す。英雄候補を集めた状態でその英雄連中の前身でもある『異邦者』を悪目立ちさせるんだ。意図がないワケがない。仮にここで、表立った統率者がいなくて、その代わりに十把一絡げの異邦者たちをまとめる『スタープレイヤー目立つやつ』ばかりが幾つも台頭するようなら、それも黒幕の意図だろうな。無作為に動く頭数を用意することで、もっと状況を混沌とさせたいだけだ」



「……2,3行でお願いできませんか?」


「馬鹿め」


「なんとでも言ってください。世界の危機には代えられません」


「まあ、じゃあ、――騒ぎに乗じて何かをしたい奴がいる。もしくは火の手が上がることで利益を得る奴がいる」




「なるほど、そいつをぶっ飛ばせば解決ですね!」


「……まあ、そうなんだけどな?」




 エイルの言葉があまりにも真に迫ったものであったため、俺は半眼として彼女を見る。


 ……なにせ、俺の言葉の文脈では「コントロールされる予定のない戦争なんてどうやって鎮火すればいいんだ」と聞いてくるべきなのである。……そして、参ったことに結論としては彼女の言う通りで間違いない。



「いま世界がどういう状況下は分からないが、少なくとも異邦者は一枚岩じゃないよな? この世界で普通に安寧を享受しているヤツもたくさんいるはずだし、そいつらはこの世界に混沌なんて求めていないはずだ。だから、この戦争の縮図は最終的に『異邦者VS異邦者』に落ち着く。国家間主張同士の戦争が、最終的にお互いの一番強い兵器の銃口を向けあっての牽制試合になるように、変革を望むやつらと秩序を望むやつらのそれぞれから一番強い出力パワーを持つ『異邦者』って存在カテゴリーが、代表で出てくる形になる。……だったら、俺たちは秩序の側に立つ。誰も操縦桿を握っていないこの戦争は、俺たちが最初に操縦桿を握ればそれだけで沈静化だ」


「……、……」


「今一番悪目立ちしてるヤツを潰そう。そいつは間違いなく黒幕と直通してる。その上で、戦争に本気で勝つつもりの『目的のある統率者』がいないなら、目立つ馬鹿の周りに集まったフォロワーなんて粗製急増の掘っ立て小屋だ。地盤が出来る前に叩くに限る」



「……、」



「そんでもってだ。……考えてもみれば、デカい物語ハナシの締めにふさわしいボスラッシュじゃないか。


 ――馬鹿を叩いたら、その次は馬鹿の上にふんぞり返った大馬鹿を叩く。このまま直通で黒幕の顔を拝みに行って、そのままノーリトライで張り倒してやろうぜ」











 ../break.











 ――さて、


 そう言えばすっかりと忘れていたのが、楠ほか空気人間どもの存在と、その楠によって物言わぬ銅像と化したキッチンの人垣である。


 ……時間にすればそう長くはないやり取りだったが、その内容カロリーの問題で聴衆に休憩を渇望させるには十分であったらしい。


 そんなわけで俺たちは、……どうやら当初からの目的ではあったらしいのだが、手早く朝食を済ませたのち、予定よりも早くこの秘密基地を出ることになったのであった。






……………………

………………

…………






「ああ、俺の新築が遠のいていく……。まだ匂いもちゃんとかいでないのに」



 と独り言ちるのは俺こと鹿住ハルで、



「新築じゃないので新築の香りはしないかと」



 と、風情のねぇことを言うのは目前のレオリアであった。



 ……ちなみに場所は変わって、家の近くに待たせていたらしい馬車の中のこと。

 俺たち二名の他に、この馬車にはエイルとリベットもいて、それ以外は別の馬車に適当に詰め込まれているらしい。


 そんな訳での長閑な旅路は、秋の朝らしい輪郭際立った空気感と、お馬さんのパッカラパッカラ快活な足音と共に穏やかに進んでいく。



「しかし、ぼかぁ驚きましたよ」



 そう言ったのはレオリアだ。

 ……その横のエイルとリベットは今日も今日とて朝からお盛んに励んでいるところだ。変態カップル共が、時間と場所をわきまえて欲しいものである。



「というと?」


「黒幕気質だとは思っていましたが、あそこまで行くと本物ですね。まさかあの程度の断片的な情報で、こうも的確に状況を言い当てるとは」


「……。さっきは長口上しといて申し訳ないけど、俺自身そこまで確信を持てているわけじゃない。正直、もっと長い目で見て話を詰めることになるだろうと思ってたから、先に俺の思ってることを全部言っておいただけだよ。……戦ってる勢力同士のパワーバランスも分からない状況で、絶対に間違ってないことだけをとりあえず並べただけだ」


「そうなんです? ……案外おしゃべり好きですよね、ハルさん。長い会話をする体力がある人だとは思っていましたが」


「否定できないな。気付いたらすげえ文字喋ってる気がする」



 苦笑しながら、風に前髪を預ける。

 起き抜けには寒いと感じた空気も、日に暖められた今は心地良いそよ風に感じられた。



「本当は先ほどの朝食の席で、今の情勢とこの先にぶつかるであろう相手の話をする予定だったんですがね、おおよそはハルさんのおっしゃった通りですので割愛しまして」


「……だから、わざわざレオリアがこの馬車に乗ったってハナシ?」



 他の馬車は、基本的に勢力ごとの席が割り振られているはずだ。あとは、どこにも属していない楠はそもそもこの戦争への参加自体消極的らしく、幼女二人を連れてヴァルハラ・バーの向こうに引きこもりに行ったようだ。一応で酒は飲んでも飲ませるなとは伝えといたんで大丈夫だろう。


 ……そういえばあの幼女二人ホントどうしよう。ユイんとこの学校で引き取ってくんねえかな。あそこ奴隷学校だけど。



「――ええ。ですから私は、この馬車に」



 さて、

 レオリアはそのように俺に返す。


 というもの、元来この集まりにおいて、俺は周囲より一段階情報不足である。情勢や仮想敵などは、恐らくは俺が合流する前に共有が済んでいるはずだ。



「出発がこんなに早いなら、言ってくれたらあんなに話すつもりはなかったんだぜ? なんなら俺はあのあと、人生初のマイホームを軽く見回ってみるつもりだったんだ……」


「いえ。あなたのおかげで予定を前倒しにしたんです。幸い今日は融通の利くアポしかないんで。……ってのはおいといて、あの家結構な内装ですよ。特に傑作なのがね、馬鹿げたことにバストイレがオーシャンビューです。我々の拠点として使うには改装が必要ですね」


「え」


「残念なことにもう被害者も出てるんです。うちのグランが朝の鍛錬中に魔王さんとこのフォッサちゃんのトイレを見てしまったらしくてね……」


「……いや、そういう水場って大抵カーテンあるよな?」


「今回はなかったようで」


「……、……」



 まさかのパリピ仕様の高級コテージである。

 買うときに忌避感覚えなかったのかエイルは。俺そんな汚れた金の匂いのする家で寝たくないんだけど……。



「どこ行くのかわかんないケド、途中で時間あったらカーテン見に行こうぜ……」



「――あ、そういえば説明がまだでしたね、ハル」



 と、そこで、リベットのハーフパンツの中に手を突っ込んでいたエイルがこちらに向き直る。……いやマジで何してんの?



「この後はですね、私の実家に行く予定なんです」


「エイルの? なんで? ……ていうか大丈夫なのか? 勢いで仕事騎士やめちゃったんじゃねえの?」


「じぃじ、……おじい様はそんな些細なことで怒ったりしませんし、他の家族はとりあえず今実家にはいないので大丈夫です」



「……いまじぃじって言った?」


「GGって言いました。グッドゲームです」


「なにが?」


「リベットに今日も勝ちました」


「はぁ、はぁ……///(目の焦点があってないリベット)」


「おめえら叩き出すぞ!?」



 閑話休題。馬車風が気持ちいいな。(現実逃避)



「……で、何しにエイルの家に?」


「それは、この後のお話にかかってくるんです」



 と、改めてレオリアがこちらに言う。

 ……それと、用事が済んだとみたエイルはまたリベットとイチャイチャし始めた。まあでも二人が幸せなので放っておこう。俺の目にも栄養満点だし。



「――助かりますねぇデレへへ(よだれを垂らすレオリア)」


「正気に戻った。今のお前を見て正気に戻った。お前も鏡見たほうがいいよ。……それで、そっちがわざわざこの馬車に乗ったってことは、さっき出来なかった話をするんだろ? 今の情勢と、悪目立ちしてるヤツのアテがあるってことか?」


「……ええ(咳払い)。悪目立ちというか、目下の厄介な敵ですけどね」



 資料がないのはご愛嬌ということで。と彼女は良く分からないことを言ってから、



「まずは現在の状況について。……今我々が掴んでいるのは、各地で小競り合い程度の衝突が起きていることと、それから大きなイベントが一つ」


「……、……」


「グリフォン・ソールという一級クランが、近々動き出す可能性があるということです。我々としてはひとまず、そこに革命を求める側の異邦者が集まり一塊のグループになるだろうことを予想し、そこに対応をするつもりでした。ハルさんがおっしゃっていた話に合わせると、それが黒幕、――特級冒険者と直通の存在であると予想できます」


「成程? ……ちなみに、判断の理由はなにかあったり?」


「単純なクエストの達成状況です。これは公ではないですが、彼らはH級推定の魔物をクラン単独で撃破し、また不明瞭な噂ではありますが『領域』の発見もしたようです。どちらも、功績としては特級水準のものですのでね」


「……『領域』ね」



 その名は俺も聞いたことがある。

 曰く、それは一般には『御伽噺』とも称されるこの世界の『最果て』のことで、そこには、この世界とは少し違った『ナニカ』が存在しているとか。


 ……或いは、その風聞があまりにも抽象的なものだからこそ、この世界において『領域』は御伽噺たり得るともいう。


 人魚姫が泡に消えるように、マッチ売りの少女が灯に幸福を見るように。

 ――『領域』では、この世界にとっても現実的ではない世界が成立しているのだとか。



「『領域』、ご存じですか?」


「後で詳しく聞かせてくれ。ただ、今は大事な話から済ませよう。俺が話を逸らしちゃったわけだしな」


「そうですか? では」



 と、彼女は一拍置いて、



「先ほど言った通り、情勢は現状燻っています。我々は、この状況にグリフォン・ソールの『動き』が一石を投じると考えております」


「……、」


「これを以って対立構造は明確化。彼らが動いた瞬間が、異邦者大戦の明確なスタートラインだと予想されます。……はっきり申し上げますと、彼らがやろうとしているのは『異邦者としての世界への勝利宣言』です」


「勝利宣言? 妙に抽象的だな?」


「これを説明するには、彼らのお話をする必要がありまして……」



 ――グリフォン・ソール。

 と、彼女は今一度言う。



「この世界において最も名が知れた一級の一つです。特級には『空の主』という名を持つアダムさんもいますが、冒険者界隈では彼に比肩して、グリフォン・ソールを『空の王者』と呼ぶ連中も多い」


「……、」


「率直に言えば彼らは、――空中艦隊を持っている」



「………………、………………え」



 なにそのロマンくすぐられるほかにないフレーズ。俺も欲しい、ずるいんだが?



「異邦者としての直感と、この世界の住人としての経験則で申し上げますが、あれこそが彼らの転生スキルでしょうね。何よりも文化的にこの世界とは規格デザインが異なる。……所感で申し訳ありませんが、テンプレで類推すればあの艦隊は、何らかのSFネットゲームのギルド所有の拠点か何かでしょうね。きわめて超科学・・的なディティールを、私は初見で感じました」


「な、なんだそれカッコいい!」


「彼らの公の功績として挙がっているのが推定H級エネミー『雛』の討伐ですが、ソレの大本はとある地域に伝承レベルで語り継がれていた、の慣用句を現実にしたみたいなアンタッチャブルな『卵』でして、……私は記録媒体での観戦・・だったんですがね、デカい鳥の熱魔力ビームと宇宙艦隊の粒子砲の撃ち合いは中々に見ごたえのあるコズミックパンクでしたよ……」


「なんて最高なプレゼンしやがる……! 今夜の酒の肴はその動画で決まりじゃねえか!」



「……とまあ、そんなグリフォン・ソールが、空中艦隊を使って異邦者宣言を超高空から行うらしいんですよね。当然、この世界の並大抵の魔法技術じゃアレを撃ち落とすことも出来ないんで、声高々に異邦者を謳う彼らを誰も邪魔できないと。ですので勝利宣言です。地力の差を見せつけて圧を掛けるというわけですね」


「はあ、なるほどなあ。……なんかさ、異邦者スキルってすげえ差があるよな。俺もそんな派手なやつ欲しかった気がしなくもないわ……」


「破格ではありますでしょう? 無制限の死者蘇生なんて。……私なんてこの美貌とちょっとした蔵書庫・・・へのアクセスとあと一つですよ。便利ではあるんですけどね?」


「はー、そうなんだ。……あと一つって?」


「内緒です(キャピッ///)」


「おっさん殺すぞ」


「おかしい。これで億単位のカネが動くスマイルなのに」




 といった形で……、

 非常に重要なはずの情報は、かように、実に俗物的に共有が為されるのであった。







 ――さて、

 目的地まではあと十数分。



 この時点の俺からすれば、あんな展開・・・・・になることを予想するなど、この『直感』を以ってしても不可能というほかにない。






 俺たちはこの後、――ああ、地獄を見ることになる。








 ……ちなみにネタバレすると、「公国騎士オフィシャルの航空移動空の旅にずっと興味があったんで今回用意したんですよ! わくわく!」とかレオリアが言い放ちやがる羽目になるのだが、そんな地獄の貨物輸送が待っていることなど知る由もなく、



 ……とかく俺は、戦争直前とは思えぬ朝の快風を、今ばかりは頬に享受するのであった。




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