intercept〈01〉
ブリーフィングに訪れた冒険者レクス・ロー・コスモグラフと、付き添いの公国騎士ベアトリクス・ワートスは、
――まず、その拠点内部の閑散に言葉を失った。
「……、……。これは、どういうことですか?」
名乗りもせずに、初めに彼がそう聞くと、
「見ての通りだよ。良い情報があるとすれば、公国首都の避難は順調に進んでいる、ということくらいだね」
名乗りもせずに、拠点戦術卓の最奥に座る女性騎士がそう答えた。
拠点内部にいたのは、その彼女一人だ。
薄暗いテントの中には、それ以外に近侍の一人さえも確認できない。
「……、……」
彼女は、
……騎士、でいいのだろうか。とレクスは思う。
佇まいにも、表情にも、剣を扱うような印象がまるでない。
ピンクブロンドの長い髪や、色素の薄い肌などは、騎士と言うよりも魔女と言う言葉の方がずっと適切に違いない。
奇妙に退廃的に聞こえる声、或いはぬるい湖の底のように静かな声で、彼女は、
――改めて、と言った。
「初めまして、レクス・ロー・コスモグラフ。それに久しぶり、ベア。私が今回の作戦指揮を任されたタミア・オルコットだ」
「先生……」
呟いたのは傍らのベアトリクスである。
「ああ、レクス。先に言っておくとそちらとは騎士学校での関係だ」
「……そうですか。とりあえず、よろしくお願いします」
レクスの反応は堅い。ただし緊張によるそれではなく、不審によるものである。
その感情を、しかし声には出さないレクスの代わりに、ベアトリクスが彼の心情を代弁した。
「先生、あの。――これが、戦力ですか?」
「ああ。あとは、外に控えている兵士だね。一応エイルやティスや、その他の公国騎士にも声をかけたんだが。……しかしどうにも連中は、私への恩を忘れてしまったようだ」
彼女、タミア・オルコットの言い回しはどうにも脱力感が強い。
騎士では違和感があるが、教師と言うのにはしっくりくる。
落ち着いた声が、不審を抱いていたレクスの胸中にさえすっと入り込んできた。
「……いえ、先生。エイルの付いた異邦者は先ほど合流しました。ただ、爆竜信仰集団『熾天の杜』による襲撃ではぐれ、それ以降は身柄が掴めない状態です」
「なるほど? いやまったく、厄介だね。『熾天の杜』の情報はこちらでも掴んでいるんだ。というか、掴んでいたというべきかもしれないけれどね」
「――はっ?」
沈黙を貫いていたレクスだが、そこで思わず声を上げる。
それに対してもタミアは、あくまで鷹揚な態度で答える。
「さっきも出た名前だけどね。エイル、公国騎士エイリィン・トーラスライトからの報告が上がっていて、それで調べていたんだ」
「それは、……『赤林檎』の一件ですか?」
「ああ、レクス君にも説明は必要?」
「……いいえ」
では、割愛しよう。と、
彼女はそう言って、
「例の一件を動かしていたのは、どうやら『熾天の杜』で間違いない。彼女の報告に上がっていた異邦者による仮説を調べたら、見事に的中だ。近隣の街には『レードライト』が持ち込まれていたらしい。……ああいや、その辺の詳細は知らないだろうから省くとして。とにかく、黒幕は『熾天の杜』で間違いないよ」
それから、
と彼女は言って、――続ける。
「キナ臭い連中だからかは知らないが……。交渉役が一人、いたらしいね」
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