第33話あらら、また泣かせちゃったか
私の可愛らしい仕草に照れた長髪王子はカッと顔を赤くした(笑)。
「もう許せない。聖女だからってこれ以上の勝手はこの僕が許さない。誰も罰を与えないなら、この僕が罰を与える」
「罰?」
「帰還の算段がつくまでお前たちを王宮の地下牢で拘禁する。そう父上に進言する」
「はっ、君が罰を与えるんじゃなかったの?結局、お父さん任せじゃん」
「う、うるさい!そんな風に余裕な態度を取っていられるのも今のうちだ!きっと誰も文句は言わないはずだ!お前たちは王宮に害しか与えない、偽物聖女なんだからな!」
長髪王子はビシッと指を差してきた。
こらこら、人を指差すな。
「今すぐ父上の元に―」
「私さ、実は君のことけっこう好きなんだよね」
「………………は?」
ぽかんとして口を半開きにする長髪王子に私はにんまりとした顔を向けた。こういう長髪王子みたいなタイプはイラッとはするけど、好きか嫌いか聞かれれば私は好きと答える。
こういう思い込み激しくて、単純で、人の話を聞かない系は手のひらで簡単に転がせられるから。
暇つぶしの大道芸を見ているようで面白い。
それに私、犬好きだし。キャンキャンと喚く犬も、グルルルと呻く犬も面白いと思う。
「な、何を………好きって」
犬のように毛を逆立てていた長髪王子がしぼむように大人しくなった。
よほど、私の一言が衝撃的だったらしい。
「好きだから君にちょっとしたプレゼント」
私は影薄王子のズボンのポケットを指差した。
「は?」
「さっき入れてあげた。見てみなよ」
長髪王子は戸惑いつつも、自分のズボンのポケットをまさぐり、入っていたものを取り出した。
真っ白い、レースのついたパンツを。
「………………………」
長髪王子はパンツを凝視したまま、体を硬直させた。
十数秒間の沈黙。
「な………な………な………な………」
長髪王子の顔がみるみるうちに赤くなっていく。まるで、赤りんごだ。
そういえば、長髪王子の大事なアレを掴んだ時も、こんな真っ赤になったっけ。
私はにやにやとした笑みを隠さずに、長髪王子に近づいた。
「あげるよ。脱ぎたてパンツ」
「は?脱ぎ?な………は?」
「誰のだと思う?」
長髪皇子の視線が私の下半身に移動する。
しかし、見てはだめだと顔を真っ赤にさせながら頭をぶるぶる振った。
「私、君みたいなタイプ好きだよ。好きだからあることないこと言われると、どうしてもそういうプレゼントしたくなるんだ。気に入った?気に入ってくれたみたいだね。だから、君がこれから私に何か言ったり、やったりするたびにズボンの中にこっそり入れちゃおっかなって思ってるんだ」
私は動揺でまともに喋れない長髪皇子の耳元にこそっと告げた。
「夜にこっそり使ってもいいよ。☓☓☓王子」
「!!!」
おお、予想の範囲を超えないな。
ボフン、と顔と頭が沸騰しているみたいな反応。
長髪王子はガクガクと震えだした。
「僕は、僕は」
そしてひっくひっくと、しゃくり上げながら泣き出した。
あらら、また泣かせちゃったか。
ていうか簡単に泣くね、この王子。
「僕は☓☓☓王子じゃないし、お前なんか嫌いだ!!!」
長髪王子の張り上げた声が部屋中に響いた。
うっわ、耳がキーンとしたわ。
「わああん、兄上ぇ!!」
子供のようにしゃくりあげて涙を流す長髪王子は傍に立っている影薄王子にすがりつく。
「もう行きましょう!こんなところにいたくない!」
そう言って、長髪王子は影薄王子の手を強引に引っ張った。興奮の熱でのぼせた状態になっている影薄王子は特に抵抗することなく、ふらついた足取りで引きずられていくように開けたままにしておいた扉から出て行った。
「ばいばーい。あの様子じゃ、しばらく私らに顔は見せないだろうね」
私は二人の姿が完全に見えなくなるまで、手を小さく振った。
「って、結局パンツ握ったままだったな、あの王子。ま、いっか、別に私のじゃないし」
捨てようがマジで夜に使おうが私には関係ないか。
でも、長髪王子にはマジで感謝だ。あの変態王子もこの部屋から連れ出してくれたんだから。
ありがとう。心の隅で小さくお礼を言ってあげる。
「帰った?」
ベランダにいた夏芽が部屋の中に入ってきた。
「うん、帰ったよ」
私も夏芽のほうに近づく。
「今までどこに?」
「私?庭園でちょっと写真撮った後、ちょっと大司教の様子を見に行ってたんだ」
「庭園で写真?」
「そうだよ。けっこうメルヘンチックな写真、色々撮れた。あっちの角とかのバラとか近くで見たらすっごい迫力だったよ」
私はベランダの向こう側を指差した。
「………………」
夏芽はじーっと五秒ほど私の顔を見た後、ことさらゆっくりと示された方向に視線だけ軽く動かした。
「後で見に行く?」
「………いい。興味ない」
夏芽はまたしても五秒ほど間を置いてから答え、ふいっと向けていた視線を元に戻した。
「あ」
夏芽が軽く声を上げた。
「え?何?」
私の背中の後ろに何かがあるらしい声だった。
もしかして、あの二人が戻ってきた?
ええ、せっかくあの気持ち悪い影薄王子が部屋からいなくなったと思ったのに。
私はうんざりした気持ちで振り向いた。
「あ」
私も思わず声を上げてしまった。そこにいたのは影薄王子でも長髪王子でもなかった。
私たちよりも背の小さい、オレンジ色の髪のリオン君がいた。
リオン君は開いた扉のちょうど下枠のところに立っている。リオン君は部屋の惨状に戸惑いつつも、部屋の中におずおずと入ってきた。
「いたんだ。いつから、そこにいたの?」
「少し前です。五分くらい前でしょうか。扉をノックしようとした時、殿下の怒鳴り声が聞こえたので、どうすればいいのかわからなくて扉の前でずっと足踏みしていました。ついさっき、二人の殿下が部屋から出てきたとき僕、思わず扉の影に隠れてしまったんです。二人がもう部屋に引き返す様子もないと思ったので入ってもいいかな、って思たんですが………だめでしたか?」
「別にだめじゃないよ」
「あの、何かあったんですか?王宮内が少しバタバタしていたので」
リオン君は呆然とした表情で酷い有様になっている部屋を見回しながら、一歩、また一歩と私たちに近づいてくる。
「この部屋は私らがやったんじゃないよ、ねぇ?」
私がわざとらしく声を張るとメイドたちはビクンと肩を震わせた。
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