第71話 再会の従者(17)

 響いた靴音は僕の前にまで届いて、僕をかばうように立ち塞がった。


「頑張ったわね、ラング。命知らずな行いではあったけれど」


 肩越しに振り返ったアルシファードさんはクスリと笑う。その表情に緊張が解けて座り込んだ。


「ーーアルシファード。アルシファード=ヴォウハルシータよ。王都から逃げ出した貴様がなぜのうのうとここに居る」


「あら、しっかりと扉をノックして入りましたわよ?もっとも、部屋の中の音が大きすぎて聞こえなかったでしょうけど」


 言われて背後を見れば僕たちの入ってきた大扉が半壊して転がっていた。丁度レコンキングス王が魔術を放ったのと同時にやったんだろう。


「そのようなことを聞いているのではない。貴様はなんのためここに来た。逃げ出した身である以上、戻れば相応の罰を受けるのは必然ーーそれを覚悟で何をしにきた」


「当然、彼の身を守るため。そしてあなたを狙う逆賊を止めるため。ああそれと、魔術の起源を解き明かすため、とかかしらねえ」


 にんまりと笑うアルシファードさんを王は睨みつけたが、彼女はどこ吹く風と髪を払う。そうして、キッと視線を返すと毅然と言い放つ。


「さっき言ったわね、レコンキングス王。あなたが魔術を作ったと。でもそれはありえない、なぜならそれが真実であったんなら私達王都魔術師が課されている使命、魔術の起源の解明が矛盾することになるから。加えて言うなら現在までに解明している魔術の基礎的構造は明らかに製作者の意図が異なる。あなた一人が作り上げたものであると言い張るのは無理があるのよ」


 僕には話の半分も理解が追いつかなかったが、レコンキングス王は違うようだ。忌々しげにアルシファードさんを睨むと立ち上がり、そのまま玉座の前から続き階段を下りてくる。


「……貴様が居なければ話もここまでだったものを。アルシファード、さては貴様逆賊が誰であるか知っておるな」


「ええ。私に魔術を授けた人。そして、かつては王都に居た王都魔術師の一人。ここでの名前は、マコト=ゲンツェン。全なるものの称号を受けた始祖なる者よ」


 マコト=ゲンツェン。確かに聞いたその名前を僕は胸のうちに繰り返す。それが、アルシファードさんが知っていた先生の名前だった。


「先生は、アルシファードさんに魔術を教えていたんですね……」


「ええ。私は王都に連れてこられてマコト先生に魔術を与えられた。でもその後しばらくして……」


 アルシファードさんの言葉を継いで王が口を開く。


「そうだ、逃げ出した。貴様と同じように。しかしそうか、マコト=ゲンツェン……アレが、余を殺しに来る、か……はは」


 王は天を仰いでその口からわずかに笑いをこぼす。ヒルグラムさんもアナイさんも、動けぬまま王を見つめる。

 一度息を深く吐き出した王は僕らへ振り返る。


「場所を移す。貴様らに話をしてやろう」


 そうして、僕らはようやっと王と話をするに至った。

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