第66話 再会の従者(12)
翌朝。僕たち三人は縄で腰と手を縛られ、兵士に王城の最上階へと連れて行かれた。王城の中は白く光る石で作られていて、廊下も歩く僕らの姿を反射するほど綺麗に磨かれている。何人かの使用人や魔術師ともすれ違ったが皆どこか自信に溢れているような雰囲気を感じた。
(やっぱりこの国の中心はここだから、皆すごい人たちなんだろうな……)
俯いた僕の背中を、とん、とヒルグラムさんが押した。
「雰囲気に飲まれんなよ。確かにここはすごいとこだが、一人の力で出来てるわけでもねえさ」
「はい、ヒルグラムさん」
頷いて顔を上げる。そうだ、いくら王城がすごくても王がすごい人でも、僕らは今からその人と話さなければならない。雰囲気に飲まれてしまったら、交渉なんて出来ない。
「喋るな罪人が!もう玉座の間だ、全員レコンキングス王がお聞きになられたことだけを答えよ、いいな!」
僕たちの横に居た兵士が怒鳴る。ヒルグラムさんはやれやれと肩を竦め、アナイさんはビクッと肩を跳ね上げる。
そうして僕たちはその扉の前に立った。白に統一された王城のなかにあって異質な、豪奢な黄金に装飾された人二人分は高さのある大扉。扉の横に立つ二人の騎士に僕らを連れてきた兵士の一人が告げる。
「昨晩港にてブラックサンライズを襲った賊徒三人です。レコンキングス王自ら裁かれるとの命により連行いたしました」
「ご苦労。王は既に玉座でお待ちだ、通れ」
兵士の言葉に門番の騎士は低い声でそう答えると、重い扉を三度叩く。
「聞こえていた。入れ」
中から落ち着いた男の声が返ってくる。騎士が一歩下がると、扉はひとりでにゆっくりと開く。そうして部屋へと足を踏み入れた僕らは目を疑った。
玉座の間。王の居るその部屋には護衛となる人間が一人も居なかった。兵士はもちろん魔術師や王都騎士もいない。
(今は隠れているのか?いや、でも部屋が狭すぎる……これじゃあ十人も入れない……)
視線をあちこち動かしてみるが人の隠れられるような場所はなく、部屋そのものも広間という大きさでもない。部屋の左右の壁は窓もなく白いレンガのようなもので出来ていて、扉の正面から続く赤い絨毯が引かれた先に、数段の階段と大きな椅子が一つ。この部屋に見える物はそれが全部だった。
兵士たちに肩を押さえられ絨毯の横へ跪かせられる。ヒルグラムさん、アナイさんと横並びにされた僕たちの上から、声が聞こえた。
「お前たちか。ブラックサンライズへ手を出したという連中は」
部屋の中央、豪奢な金縁の椅子に座る男が僕たちを見下ろしていた。上等そうな仕立ての白い服と金の外套、そして頭に輝く金の王冠。
「アルハンドラ=レコンキングス王……」
アナイさんの口にした名前に、男はゆっくり頷いた。
「如何にも。余がアルハンドラ=レコンキングス王その人である。今日は気分が良い故軽々しく余の名前を口にした不敬は許そう。ゆめ、気をつけろよ」
顔の前で手を組んだレコンキングス王の言葉が、妙に部屋に響く。さして大きい声でもない。通る声というわけでもない。でも、ひどくよく聞こえる、頭に残る声だった。
「あとは小奴らに聞く。お前たちは下がれ」
レコンキングス王はそう言って、僕たちを連れてきた兵士や門番の騎士に命じる。兵士たちは当然困惑ーーしなかった。さも当たり前というように一礼をして部屋を出ていく。
(嘘、でしょう……!?何するかわからない人間三人を置いて、王様に護衛も付けずに……!?)
ありえないことだった。だってこんなの、王様を好きにしてくださいって言われてるようなものだ。
「さて、そこの小僧……ラングとかいったか。お前は随分と考えていることが顔に出るな。戸惑っているのが丸わかりだぞ」
「ッ……!」
言葉を発しかけて、抑えた。ただ顔を伏せて言葉を待つ。
「お前は何やら余の行いを不思議に思っているようだが。これは当然の措置である。なぜなら、あらゆる障害は余にとって問題とならぬからだ」
言いながら、レコンキングス王は僕らから視線を外して部屋の左右の壁を見る。
「ふ、む。少し狭いか」
そういった刹那。ゴゴ…と、重い音を立てた壁が、押し込まれるように左右へ広がっていく。部屋の広さが三倍ほどに広がったところで、壁は停まった。
「うむ、これくらいで良いな。さてなんの話だったか……ああそうだ、余の護衛が居ない話か」
表情一つ変えずに話すレコンキングス王の説明を聞くまでもなく、僕も理解していた。
「理由は簡単だ。余が、この王都、いやこの国において誰よりも強いから、だ」
ぞくり、と背筋に悪寒が走る。レコンキングス王はいつの間にか手に持っていた金の杯を傾けて喉を潤すと僕たちを見下ろした。
「さてお前たちの話を聞こうか。少しでも余の機嫌を損ねれば首が飛ぶ故、言葉には気をつけろよ……?」
そう言ってはじめて、レコンキングス王は口角を持ち上げ笑った。
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