第56話 再会の従者(2)

 ヒルグラムさんに連れられて、僕は王都にあるヒルグラムさんの宿舎に一旦お邪魔することになった。宿舎と言っても宿屋を借り上げて使っている借家で、並んだ部屋の一つが今のヒルグラムさんの部屋らしい。ベッドと衣装入れに机くらいしかないシンプルな部屋で、ヒルグラムさんは僕をベッドに座らせるとあちこちにできた擦り傷を手当してくれた。


「さて、もうだいぶ落ち着いたみたいだな、ラング。久しぶりって挨拶にはまだ早いか?」


「……ありがとうございます、ヒルグラムさん。ひと月ぶり、くらいですね……」


もう会えないと思っていた相手との再会はしかし、喜べる状況でもない。ヒルグラムさんもまだ事情を知らないもののそれはわかっているんだろう、真剣な顔でこちらを見つめる。


「それでラング、なにがあった?そんな怪我しながら城門の前で騒いでるなんざ只事じゃないだろ」


「ーー実は……」


そうして僕は先生のことを彼に説明した。先生が導師というものだったこと、その力のこと、王へ魔術を教えたのは先生で、その王を先生が殺そうとしていること。ヒルグラムさんはなにも言わず話を聞いてくれて、僕が全部話し終わると背中をぽんと叩く。


「そうか。そいつは、辛かったなラング」


「え……」


辛かった、と言われて一瞬混乱した。そんな事は、ない……はずも、なかった。

そうだ、たしかに辛かった。悲しかった。先生と別れることはわかっていたけど、こんなに早く、こんな形で別れることになるなんても思ってなかった。そして来る再会がこんなに辛いなんて思いたくなかった。

自覚をして、涙が溢れた。溢れたら止まらなくなって、必死に目元を拭って止めようとしたけど、だめだった。


「泣け泣け、辛い時に無理やり我慢なんてしなくていい」


そういってヒルグラムさんは僕の背中を優しく撫でてくれて、せっかく我慢していたのに耐えられなくなって、声を出して泣いた。

泣いて、泣いて、なんで泣いたかわからないくらい泣いた。目も真っ赤だし鼻もでるし顔はぐちゃぐちゃだった。どのくらい泣いたかよくわからなかったけど、ヒルグラムさんはずっと背中を撫でていてくれた。

そうして、ようやっと泣き止んだ僕はすぐヒルグラムさんに頭を下げる。


「すいません、見苦しいところを……」


「構わねえよ。よく頑張ったよお前は」


そう言って紙をぐしゃぐしゃとかき乱すように撫でられて、息を整えて顔を上げる。


「ヒルグラムさん、手伝ってもらえませんか。僕一人じゃ先生を止められないからーー」


「おう、もちろんそのつもりだ。王殺しを許したとあっちゃ王都騎士失格だしな」


ヒルグラムさんはそう言うと立ち上がる。


「さあて、とりあえず飯だ!腹減ってるのに考え事したってしょうがねえから、な。今度は俺がお前に美味いもん食わしてやるよ」


ニッと笑ったヒルグラムさんに連れられて僕は王都の大通りに向かった。

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