第50話 宣託の導師(8)
暗い闇の中、震える足に必死に力を入れる。目の前で何度も突き上げられてる地面に目を凝らす。結界のおかげでこちらに届いていないが、真っ黒な鋭いくちばしが見えた。僕の腕くらいの太さのあるそれは、突き刺されたら間違いなく絶命するだろう。
(そもそもなんだ、あれ……!なんでここを狙って……)
何度か地面を突き上げたくちばしが引っ込む。さっきから突き上げてくるのは僕の真下に近い位置。おそらく狙いは僕自身だ。
(でもどうやって……)
深く息を吐きだして考える。今はこいつを何とかすることから考えないといけない。結界がいつまでも持つとは限らない。早く対応しないと。
(目……では、ないと思う。地面の下に居るなら見えないはずだ。あとは、音、とか……?)
息を吸い込むと、思い切って走ってみる。途端、足元から再びくちばしが突き上げる。もつれて転びそうになるのをなんとか踏みとどまって、息を整える。
(いや、今のだと僕を感知してることしかわからない……なにか、音のなるもの……)
ポケットを漁る。と、毎朝使っている鉱石、ドラゴ・アイが手に当たる。そろりとそれを取り出すと、少し離れたところを狙って地面に投げた。小さな音を立てたドラゴ・アイは地面に転がり、すぐに真下からくちばしに跳ね上げられて転がる。
(やっぱり、音だ!僕の寝息とかに反応下のか……)
声を殺しながら考える。音を感知して攻撃してきているなら、大きな音を遠くで鳴らせれば追い払える……はずだ。あとはその方法だ。
(遠くに物を飛ばせる道具なんて持ってきてないし……結界から出たら本当に食べられるかもしれないし……)
考えどもなにも思いつかない。なんとか引き剥がす方法は……。
「なにをしてるんだ、ラング」
「え……?」
声に、振り返る。結界の外、緑の光の膜の向こう側で、当たり前というように立っていた先生の姿があった。
「なんーー」
言いかけて気づく。簡単だ、先生が結界から離れている間にくちばしがやってきただけの話。先生がくちばしを見てないだけの話だ。そして幸運にも出会わなかったそれらが揃ってしまえば。
「先生!にげて!」
そう叫ぶより早く。先生の足元の地面が持ち上がる。結界に邪魔されなかったくちばしは地面を突き破り、その全容を表した。真っ黒で硬質なくちばしを先端に備えた、長く太い体が地表に飛び出す。ピンクの肉で作られた体は人を飲み込むには十分な大きさをしている。見たことのない生き物だった。見た目はミミズのようだが大きさが違いすぎる。
巨大なミミズのようなそれはくちばしをガバリと開けると大きくうねり、先生を真上から飲み込もうとする。先生はその様子を黙って見上げているだけで動かない。
そして僕が手を伸ばすより先に、先生の姿が消えた。
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