第41話 帰還(5)
朝日も登りきって昼になろうという頃、僕は再び学校に向かった。母に持たされたサンドイッチを片手に坂を登りきり、学校の前に着くと校門の前には先生が立っていた。
「おはようラング。いやおかえりといういうべきか?さっきぶりだな」
「おはようございます、先生。なんだか変な感じですね……」
苦笑しながら先生と一緒に教室に入る。教室に一つだけの机に荷物を置くと、先生も教卓にいくつかの本を置いて授業の用意をする。
この学校に、生徒は僕しかいない。先生も一人だ。大きい町には何十人も生徒と先生が居るというけれど、どんな感じなのか想像は出来ない。同い年の子たちはたくさん町に居るけれど、もう適正判定を受けて見習いをはじめている頃だ。
「ラング、お前がなぜ私の学校に来はじめたか覚えているか?」
「え?ええと……」
その言葉には頷く。僕が学校に呼ばれたのは五年前、先生が旅人としてうちに泊まりに来たときだ。先生はマルリアで住む場所も決めてなかった状態だったけど、うちが紹介した建物を即決で借りて学校にした。僕はそのときに先生の生徒として呼ばれた。理由は、聞いてない。
困っている僕を見て先生はああ、と頷いて笑う。
「そうだった、お前に理由は教えてなかったな?丁度いいから教えておこう」
「あ、はい、お願いします……」
困惑気味に頷くと先生は教卓に置いた本の一冊を手にとって話しはじめた。
「まあ、簡単にいうとお前には、私の目的を手伝ってほしくてね。そのために色々と教えてやりたかったんだ」
「目的、ですか……」
先生は本の頁を開く。パラパラと数枚捲りながら先生は続ける。
「ああ、色々とな。まあ詳しくはおいおい話すが、お前にはまずこの世界の現状と作りを理解してほしかったんだ。だからなるだけこの世界で作られた理論や理屈を入れないようにしておきたかったんだ。アルシファードが魔術を教えるとは想定外だったが……」
そう話す先生は本の頁をピタリと止めるとそれを僕に見せる。そこには先生に最初に教わった、この大陸の地図が描かれていた。
「ラング、この国にある制度や歴史をお前に教えたうえで、私はお前の答えを見たいんだ。そのために、私は『先生』になったんだよ」
その言葉の意味はまるでわからなかった。ただ先生の言葉にはいつも嘘はないから、きっとそのうちにわかるのだろうと、その言葉に頷いた。
先生はそんな僕の様子を見て満足げに頷く。
「いいぞ、お前のその姿勢は大事だ。一度言われたこと、見たもの、感じたものをただ受け止める。考えるのはそれからでいい。なにかを吐き出すとなれば尚更だ。その姿勢はお前の美徳だよ」
先生は本を閉じると教卓へ踵を返す。なんだか肝心なところはぼかされてしまった感じだ。
「さて。では授業を再開するか。お前の報告、しっかり聞こうか」
楽しそうに口角を持ち上げた先生に、僕は荷物を開けると二度目の旅の報告をはじめた。
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