サキュバス、メイドインヘブンのためにドロローサへの道を歩みました25

「ちょっとピカ太さん! なにするんですか!? 私のナイスキューティクルがチリチリのチリ! レッドでホットなチリペッパーですよ!?」


「いや。寒いかなと思って」


「当店は冷暖房完備です! だいたい寒いからって身体に火つける馬鹿がどこにいるんですか!? ダルシムだって自分から火だるまになったりしないでしょう!」


「確かにそうだな。すまんすまん」


「軽いーーーーーーーーーーーーー! 謝罪が雑! もっと誠心誠意込めてくださいよ! 形だけでも!」


「心の底から謝っている。言いがかりはやめてくれないか。失敬だな」


「なんでそっちがキレてるんですか!? おかしいでしょう!」




 どうして謝っているのにこんなに怒られなきゃいけないんだろう。不思議だ。気持ちよく許せばいいのに。




「ピカ太さ~ん……さすがに着火は良くないと思うな~……」




 あ、九雲スイが引いてる。誤魔化そう。

 

 


「大丈夫大丈夫。これもマジックだから。なぁムー子。このジャケットで隠してる間に元に戻せるよなぁ」


「どうですかねー!? 仏のムー子ちゃんといわれている私でも今回はちょっとねー! どうでしょうねー!」


「集金(ボソ)」


「……」


「無断アカウント作成」


「……」


「無許可活動。プライベートでのファイル送付」


「……」


「はい! というわけでムー子! 準備はいいか!?」


「もちろんですよ! さぁ早くジャケットで隠してください! はい! 隠れましたね!? じゃあいきますよぉ!? たららららら~」


「いくぞー? いいかー? 三、二、一! はい!」


「でっででーーーーーん! 元に戻りました~!」


「すご~い。どうなってるのこれ~? ムー子ちゃんマジシャン目指せるんじゃな~い?」


「ただの趣味ですので。というか皆さん! 私が寝てる間になに楽しそうな話しされてるんですか! 混ぜてくださいよ!」


「別にそんな楽しい話でもないしそもそも出る幕はねーよ。お前のやりたい事なんて不労所得を得るとかそんなもんだろ」


「はぁ~? ピカ太さんは私の事について何もわかってないですねぇ~? ありますよ私だってやりたい事の一つや二つや三つ。えぇ。欲深ですからね。だいたい、やりたい事でお金稼いでるじゃないですか私。Vチューバーで成功しちゃってるんですよ? こんな身近にサクセスストーリーを歩んでいる人間がいるというのにどうして私に意見を求めないのか。今世紀最大の謎です。インスタグラムにキラキラ写真上げてるユーザーが普段何をやっているのか、フェイスブックで友達申請してくる外国人は何者なのか、平日の深夜から早朝にかけて毎日ツイッターに投稿してる廃人の正体、TikTokで自分の部屋の動画上げてるアカウント、ピンタレストに毎回同じ画像あげる理由、ヤフー知恵袋で喧嘩腰な回答者の職業、ムー子ちゃんのご意見を伺わない。これらが令和最新の世界七不思議です」


「随分狭い世界だな」


「なにいってるんですか! いずれもワールドワイドウェブじゃないですか! インターネットが狭いわけないですよ!」




それは広い世界の中にあるだけでコミュニティ事態は限定的で閉鎖的だろう。

……こんな話を広げるのも無意味だから口には出さないが、日本のインターネッツが世界レベルで広がっているという認識はちょっとどうかと思うな。というか国内サービスどんどんローカライズされていってない? 世界的にそんなもんなんだろうか。せっかく国の垣根を越えられる技術なのにもったいないよなぁ。これからメタが広がっていったらグローバル化していくんだろうか。いやしかし、実際多様な国籍の人間とコミュニケーション取れるようになったらそれはそれで面倒臭そうだなぁ。最終的に各国のサーバとか区画でその国の人間同士でつるむようになりそう。言語の壁は超えられても文化の壁は高い。結局今と変わらないというか、今の状態こそ、試行錯誤の末に帰結した結果なのかもしれん。うぅむ人間は難しいにゃー。あ、でも大手Vなんかは海外にもファンが多いと聞くし、そっち方面では無差別に楽しめるかもしれんな。そういやムー子も海外のユーザーとかいるんかな。




「ムー子。お前の配信って海外からの視聴者いるの?」


「あ、いますいます。“一生懸命日本語勉強してユーバス様の配信追ってます”ってコメントとかありますよ」


「ふぅん。海外翻訳とかはないの?」


「なに言ってるんですかピカ太さん。舐めないでくださいよ。ユーバス咲はもはやランカー。ランカーですよ? そ海外のV豚さん(誉め言葉)達もブヒブヒ言ってくれてるんだからないわけないじゃないですか」


「だったら翻訳見ればいいのにな」


「分かってないですねぇピカ太さん。日本語配信なんだから日本語理解できた方が面白いでしょ。訳し難いニュアンスとかミームもありますし」


「それはそうなんだが、アニメとか漫画とかゲームとか映画ならまだしも、Vチューバーってそこまで気合い入れて見るもんなんかなと」


「おっと趣味は人それぞれですよピカ太さん。それ以上はヘイトスピーチに繋がりますから慎重に言葉を選んでください」


「その真面目さを仕事で生かせばいいのに」


「馬鹿ですねピカ太さん。労働は公的な人権侵害ですよ? そんなものに本気になってどうするんですか。手を抜いた者勝ちですよあんなもの」




 その意見には同意しかない。

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