サキュバス、メイドインヘブンのためにドロローサへの道を歩みました16

「待ってたよ~ワイルドボルトちゃ~ん。着替えて接客入って~」


「はい! 分かりました! あ、あと、お店クローズのままになってましたけど……」


「あ、それはそのままで大丈夫~後で説明するね~」


「かしこまりました! それじゃ、着替えてきますね?」


「はいは~い」



 ……



「なんだワイルドボルトって」


「なにって~メイドネームに決まってるじゃ~ん」


「……」


「ピカ次君黙ちゃったじゃないか。もっとこうあったろう。可愛らしい名前が」


「なんていうか~? ギャップ萌え? みたいなぁ?」


「どうも腑に落ちん。変更すべきだろう」




 なんだピカ次の奴。食い下がるな。




「そうはいってももうワイルドボルトで進んじゃってるから今更ね~? グッズも開発中だし~」


「グッズ? グッズなんてあんの?」


「そうだよ~? 鳥栖さんの持ってる工場のスペースで生産してるんだって~。なんか~OEM製品で~? パッケージだけ変えるだけだからコストもかからないんだって~」


「へぇ。どんなの作ってんの?」


「えっとね~グラスとかシャツとかキャップとか~あとオリジナルのぬいぐるみなんかもあるよ~?」


「結構なラインナップだな……大丈夫かそれ? 採算取れるの? それにバイトなんてすぐ入れ替わるだろ」


「うん。だからね~今後は原則的に正規雇用の人だけ展開していくんだって~」


「メイド喫茶の正規雇用……」


「うん~月給二十三万円プラスインセンティブで残業代は一分単位で計算~年休百十五日だけど特別給がついて実質百二十日だって~業務時間もシフト制で~繁忙期以外は八時間を厳守してくれるらしいよ~?」


「好待遇だな。インセンティブっていうと、チェキとか?」


「そうそう~一チェキ八百円なんだけど~三百円がメイドに入るんだって~後はグッズの売り上げの内二割とか~あと~Webで人気投票やってて~それと売上の比率も見て反映されるんだって~人気はマスクされてて管理者しか見れないみたいだけどね~」


「へぇ。なんかキャバクラの給与システムから競争を抜いたような感じだな」


「そだね~。だから緩くやってても生きていけるし~稼ごうと思えば稼げるって感じかな~? まぁこういう職業である以上絶対に内外でトラブルはあるだろうけど~それでも比較的余裕持って働けると思うな~私もモデルやってなかったら考えたかも~」


「へぇ」




 ホント、悪魔って労働に関するモラル高いよな。なんで人間はこうならないんだろう。企業はもっと働く側を大切にしてほしい。あけすけにいえば楽して高い給料くれるようになってほしい。俺は働きたくない。




「……おい。まさかピチウのやつ、ここで務める気じゃないだろうな」


「お、なんだきピカ次君。その物言いだと、まるで働いてほしくないように取れるが?」


「当たり前だろう。男の慰みものになるような職になど就けさせるものか」


「俺は別にいいと思うんだけどなぁ……飲食だとかなり条件いいし。メイド喫茶って客より店員の方が優遇されてる気がするし。イメージだけど」


「いいや駄目だ。男の好奇に触れるような仕事など断じて許容できない。俺は許さない」




 お前が許そうが許そまいがピチウの人生はピチウのものであり、誰であっても思想と行動の自由を侵害する権利はないわけだが、そんな事いっても聞きやしないだろうし、なんかマジでキレて殺してきそうだから黙っておこう。




「う~ん……ピチウちゃん……じゃなかった。ワイルドボルトちゃんとはまだそんなにお話ししてないから分からないけど~、ピカ次さんは考え方古いね~。今の時代~可愛いを仕事にしてもおかしくないんだよ~? 別に風俗的事するわけでもないんだしさ~。だいたい女の子なんてどこ行ってもそういう目で見られるんだから~開き直ってそれを武器にした方がお得だって~」


「俺は女をそんな目で見ない。俺の隣にいるこいつも同じだ。だから他の男もそうなるべきだ。できないのであれば殺す」




 うわぁ危険思想だよ独裁国家か~? 偉大なる指導者様は自らの意識を臣民達に強制しようとしている~。




「へ~ピカ次さんもピカ太さんも~女の人に興味ないんだ~」


「ない」


「ない」

 

「ほんと~? この大きく空いたデコルテ見ても~? なんとも思わな~い?」


「上着を着ろ」


「寒くないの?」


「……マジな感じのやつじゃ~ん。信頼はできるけど~ある意味失礼というか~? 自信なくるな~」


「女の魅力は乳のでかさじゃないだろう。物質的価値観に偏重している現代ではあるが、もっと内面や精神的な魅力を磨いて人間的な部分で興味を惹けるよう世の若者たちには努力してほしい」


「……ピカ太さ~ん。私、本業モデルですよ~? 物質的価値観しか求められていない仕事なんですけど~?」


「あ、そうかすまん。まぁでも、外見も大事よね。着飾る楽しみもあるだろうし。個人個人の価値観って重要だと思う」


「なんか凄く薄いフォローなんですけど~? でもまぁ、確かにそうなのよね~。結局モデルって、服と一緒に消耗されていきがちだからさ~。トップレベルだとまた違うんだけど~」


「そうか。なら目指そうぜ。トップ」


「……」



 

 あ、やっべ怒らせちまったか? ちょっと軽薄過ぎた。




「……そっか。そうだね。そうそう。そうなの」


「……? なんだ?」


「うぅん! なんでもないよ~! あ、お酒カラだね~! 生でいい~?」


「あ? あぁ。あ、三度注ぎってやつで頼むわ」


「了解~! 三度注ぎね~! じゃ~ちょっと待っててね~!」


「あぁ……」




 なんだ九雲スイの奴。ま、元気なようだしなんでもいっか。

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