サキュバス、メイドインヘブンのためにドロローサへの道を歩みました13

「その心配を本人に伝えてやれよ。喜ぶから」


「それはできん。俺は今まであいつを殺そうとしていた男だ。急に“お前が心配だ”などと言っても信じられんだろう。それに、今でも俺はあいつを殺したくなる時がある。この衝動が収まらん限り会う事はできんな」




 その辺りの自覚はあるのか。存外冷静だが、頑なな感じはあるな。こりゃあ根深いぞ。




「素直なのは結構だが七面倒な奴だな。気にしなきゃいいのに」


「そういかん。だいたい、母親の人の目だってあるんだ。迂闊な事はできんよ」


「あぁ、一応お母さんの事気にしてんだな」


「油断していると、今度こそ消滅させられかねないからな」


「……」




 どうしよう。お母さんが結構気にしてた事言うべきかな。でもそれって人伝に聞くようなもんでもないだろうし。いやしかし、こういう話しこそ人伝じゃないと聞けないもんなんじゃなかろうか。あぁでも俺が言ったってバレたらエラいこっちゃな事になるしゴス美にも迷惑がかかるだろうしこれは……ジレンマ。沈黙は金とは言うけれどちゃんと教えるべき事は教えた方がいいだろうが……うーん……




「お待たせしました~ムー子ちゃん、すっかり綺麗になってお色直しもしてきましたよ~。替えの衣裳があってよかったですね~」




 タイミングがいいのか悪いのか戻ってきたか。

 いや、よかったという事にしておこう。絞めっぽい話は今はなしだなし。




「それはいいんですが。あの血で汚れた衣裳どうしましょう。貸与品なんでゴス美課長にバレたら殺されるんですが」


「……頑張れ~」


「頑張れない! 私頑張れない! そして頑張る頑張らない以前の問題に発展する公算大! こうなったらなんとしてでも衣装代を補填しないと! ピカ太さん! ちょっと十万くらい使っちゃってくださいよ! 百万使ってくれてもいいですよ!」


「こんな時こそお前の囲い利用しろよ。なんか、手違いで物ぶっ壊しちゃいました。お金ないから弁償できません。助けて。とか言っておけばチョロい馬鹿が送ってくれるだろ」


「人のファンをなんだと思ってるんですかピカ太さん! そして私がファンを金蔓に使ってるみたいに言うのはやめてください!」


「違うのか?」


「違います! 全然違いますよ! ファンの方は私という存在に価値を見出しお金を出してくれるんです! そのために私も一所懸命に価値を生み出そうと活動しているんです! つまり買い物と一緒! 受容と供給により適切な価格が設定されているんですよ! そこにいきなり“ヘマしてお金必要になりました~助けてください~”なんてやり始めたら信用は失墜! これまで築いてきた絆が一気に瓦解してしまいます! 根強く生きていくには露骨な集金はご法度! ご法度です! 瞬間最大風速がそのまま寿命に直結する事を理解しないとVなんてやっていけませんよ! その辺りよぉっく考慮してから発言してくださいねピカ太さん!」


「そうか。じゃあ、せいぜい苦しみが少なく殺されるといいな。一応課長にはわざとじゃない旨伝えておこう。効果があるかどうか知らんが」


「……」


「……」


「……ピカ次さん」


「なんだ」


「耳。もぎ取ったの、貴方ですよね?」


「あれは手品なんだろう?」


「えぇそうです! 手品ですとも! しかし協力者である貴方の手抜かりにより衣裳が汚れてしまった! 過失がないとはいえないのではないですか!? 責任! 責任をとってください! 大人なんですから!」


「俺の形を見て大人というのかお前は」


「都合のいい時だけ子供のふりして! 知ってますよ私は! ピカ次さんが本当はいい歳してるって! なのでしっかり賠償請求させていただきますからね! 今回は指五本で勘弁してあげましょう! どうですかぁ!? 実家が太いピカ次さんなら払えない額じゃないでしょう! これは慰謝料込みの金額なんで良心的な……? なんですかぁ皆さんそんな目で私を見てえ!? 何かおかしな事してますかぁ!?」


「ムー子ちゃ~ん。子供にたかるのはまずいと思うよ~?」


「お前もいい加減諦めろよ。課長には酌量の余地があると言っておくから」


「はぁ? え、ちょっと、はぁ? なに? 私? 私が悪い流れ? 耳ぶっちぎられて衣裳汚されて、その事でお叱りを受ける可能性大なのに私が加害者扱い!? なにそれ~~~~~~~!? 納得できないんですけど~~~~~~~~~~~!? 日本の司法は~~~~~~~~~~~テミスの秤と剣の精神はどこへ行った~~~~~~~~~~~~!? 不当裁判は断じて承服できかねます~~~~~~~~~~~~!? こうなれば断固として戦う姿勢を示していきます故~~~~~~~~~~~~~!」


「はいはい~分かった分かった~可哀想だね~ムー子ちゃ~ん。よしよし~」


「ちょ! 頭撫でないでください! セットに時間かかったんですからねこれ!」


「まぁまぁ~辛い時は頭撫でられるとおちちゅきまちゅよ~遠慮せずバブっていいでちゅからね~?」


「やめて! それやめてスイちゃん! なんか! なんか言葉に言い表せないけど危険な感じがする! その領域に足を踏み入れたらいけない気がする!」


「そんな事ないでちゅよ~? ほら~なでなで~あと~私はクリスタルでちゅからね~?」


「やめて~! 髪が崩れる~! そしてなんか流されていく気かする~! なにこれ~! スイちゃんの手温かい~……」




 スヤァ……




「はい。落ち着きました」


「……なにその特技?」


「私ね~? 五人姉妹の長女なんだけど~昔こうやってなでなでってして寝かしつけてたんだ~」


「……そっか!」




 よく分からんがまぁいいや! うるさい奴も静かになったし細かい事はおいておこう!



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