サキュバス、メイドインヘブンのためにドロローサへの道を歩みました5

「ふん、悪魔に言われたくはないな。ともかく、言う事は聞いてもらう」


「やめて! それをネタに脅して私に乱暴する気でしょう? エロ同人みたいに! エロ同人みたいに」


「もはや死語だろそれは……どうでもいいけど。ま、軽くお願いしたいだけだ。どれ、移動しながら話しをしよう。そろそろタクシーも来るんじゃないのか?」


「え? あ、来てますね。アプリからお報せがありました」


「運転手さんを待たせるわけにはいかない。さ、行くぞ」


「あ、ちょっと! 置いてかないでくださいよ!」




 うるさいムー子を尻目にマイウェイをウォーク。靴を履き玄関ガラガラいい天気。タクシーさんこんにちは。今日はよろしく。




「どちらまで?」


「えぇっと、○○区○○。○○の三丁目七番地までお願いします」


「かしこまりました。それでは出発します」


「よろしくでーす」



 タクシー発進。セダンの乗り心地は快適だな。そりゃいつぞやに乗ったリムジンハイヤーには負けるが、庶民はこんなもんでいいんだよ。気楽だし。だいたいリムジンは狭いに日本の道路には向いてないよ。どんな車でもストレスなく進めるよう道路の方を何とかしてほしいもんだね。あぁあと車道だけじゃなく歩道も狭い。すれ違う時マジで肩がぶつかりそうになるなんて事もザラにあるんだよな。怖いよ俺は。もしぶつかって「痛ってぇ~~~骨が折れちまったよ~~~~こりゃ慰謝料だな~~~」なんて恐喝にあったらさぁ。もうビビり散らかしてお金渡しちゃいそうだもん。だから例え会社に遅刻しそうな時でも安心安全な徒歩が安定。決して走ったりなんかしちゃあいけないんだ。そもそも危ないしな。



「お客さん」


「はい?」


「後ろから凄い勢いでダッシュしてくる人がいるんですが、お知合いですか?」


「え? あ、しまった。すみません。一旦停めてください」


「はい」



 ……



 ゴンゴンゴンゴン!



「あの、すごい窓叩いてるんですが……ドア開けてもいいですか?」


「一旦窓だけ開けてください」


「かしこまりました」




 ウィーン




「ちょっとピカ太さん! なに私を置いていってるんですか!? 馬鹿なんじゃないですか!?」


「あぁすまん。忘れてた。でもまぁ、出勤前に軽い運動すると集中力が高まるっていうし、結果オーライだろ」


「全然! 全然オーライじゃないですよ! こっちは息絶え絶えで汗だくだくなんですよ! 仕事の前に体力がっつり持ってかれちゃって集中どころじゃないですよ!」


「あ、そうなの? そっかー良かれと思ったんだがなぁ」


「なに善意の失敗みたいな感じにしてるんですか!? さっき“忘れてた”って言ってましたよね!?」


「そうだったか?」


「そうですよ! いい加減にしてくださいよ! ピカ太さんって本当に……はぁ~~~~~~~疲れる……」


「そりゃダッシュなんてしたら疲れるだろ。なんで走ったの? タクシー呼んだのに」


「ピ~~~~~~~~~~~~カ~~~~~~~~~~~太~~~~~~~~~~さ~~~~~~~~~ん~~~~~~~~~~~~の~~~~~~~~~~~~せ~~~~~~~~~~~い~~~~~~~~~~~~~~~で~~~~~~~~~~~~~~~~しょ~~~~~~~~~~~~~~~!?」


「あ? そう? ごめんな? 悪気はないんだよ」


「悪気しかないでしょ! 仮に本当になかったとしても悪気がないで済ませられるレベルじゃないですよ! いい加減にしてください!」


「分かった分かった。まぁとりあえず車乗れよ。運転手さん。ちょっと扉開けてあげてください。というか、なんで最初に開けてくれなかったんです?」


「え? それはお客様が開けなくていいと……」


「そうでしたっけ? いやぁすみませんね。最近物忘れが酷くって。もう大丈夫なんで開けてください」


「かしこまりました」




 ガチャ。




「はぁ……はぁ……はぁ……」


「お、なんだムー子めっちゃ息が荒いな。どうしたん?」


「ちょ、ちょっと……マジ……手の震えが止まらないんで……」


「あ、酸欠? 急に走ったりするから……すみません運転手さん。とりあえず車出しちゃってください。行先はさっき言ったところで」


「……かしこまりました」


「やれやれ。朝から大変だな」


「全部……はぁ……はぁ……ピカ太さんの……んぐ……せいでしょう……」


「なんでも人のせいにするのは感心せんぞ?」


「どのような観点から見ても完全にピカ太さんのせいなんですが!」


「そっか! 気を付けるわ! ところで先ほどの話の続きなんだが……」


「さっき物忘れが酷いって言ってましたよね? その事についても忘れてくれませんか?」


「すまん。ありゃ嘘だ」


「……ピカ太さん、絶対いい死に方しませんよ?」


「まぁ死ねばそこで終わりだし、どう死ぬかなんざどうでもいいな」


「感性終わってるんですよねぇ……で、結局私は何をすればいんですか?」


「あぁ。実は同伴者として男を一人呼んだんだが、そいつが寂しくならないよう積極的に接客してやってほしい」


「へぇ? 友達ですか? いるんですね、友達。以外」


「生憎友達ってもんでもない。いや、まぁ素性を知り尽くしてる人間ではあるんだが……」


「? よく分かりませんが、それくらいで済むのであればいくらでもしますよ。要はその人に楽しんでもらえばいいって事ですね?」


「そういう事。よろしく頼むぜ」

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