サキュバス、寿司占いの結果がガリでした5
マンボウの次は鮫が目に入りました。コモリサメといって、ゆっくりと泳ぐサメでした。随分のんびりしていて、ネットや本で観る印象とは全然違うなぁと感じました。私はまた係の人に、「鮫が同じ水槽の魚を食べる事はないんですか?」と聞くと、係の人は「稀にあるけど、ちゃんと餌を与えているから基本的には無害です」と教えてくれました。もしかしたら、お腹がいっぱいの鮫となら仲良くなれるかもしれないと思いました。
\ドッ!/
お、マリ、ウケたな。そういう純朴っぽい内容は親御さん方の大好物のようだ。もっとサービスしてやれ。間違っても、「快楽目的で同族を殺す人間は生物として下等。滅ぶべきである」とか言い出すんじゃないぞ?
けれど、どうやっても相容れないものは相容れないなと思う事件が直後に起こりました。。
……え? そんな事件起っちゃった? 全然記憶にない。そんな事件起ってなお俺の記憶は消失されてしまったの? 大した事件じゃなかったのかな? なんかカップルが痴話喧嘩してただけとかそんなん? なぁマリ、そうだよな?
「オラこのクソガキ。何処に目つけて歩いとんのじゃボケェ!」
水槽に見とれていた私は、見るからに怖そうなお兄さんにぶつかってしまって怒られたのです。
私は自身の非を認め、「ごめんなさい」と謝りました。正直、子供相手に恫喝するような大人に対して下手に出る必要もなかったのですが、私からぶつかってしまったのと、精神的未熟者ともいえる相手に反論を展開したところで無駄だと悟ったため、不本意ながらこちらが頭を下げて穏便に済まそうといたしました。しかし、どうにも相手のご立腹収まらず、血走った眼を向けて私の肩を掴んだのです。
「ガキよぉ……このパンツはなぁ、今インフルエンサーとかが買ってるブランド物なんだよぉ……具体的なブランド名は出せねぇが、あのソール部分がユニークなデザインの靴出してるあのブランドよぉ……十五万したんだ。それに鼻水吸わせちまったんだよぉてめぇはよぉ……“わりぃな。俺のズボンが鼻水拭いちまった”なんて優しい言葉ぁリアルにねぇぜ? 弁償だ弁償! 親呼んでこい! 土下座して金出せやゴラァ!」
一から十まで低俗なセリフで、また、立派な恐喝でした。警察に被害届を出してもよかったし、弁護士に相談して訴訟を起こしてもいい事案でした。ですがそんな面倒な真似をするのも時間の浪費となるため、早急に警備の人を呼んで水族館の続きを楽しもうと思ったのですが、いつの間にかお兄ちゃんが近くにいて、男に向かって言ったのです。
「このタコ。たたきにすっぞ」
……
「で、出たー! グレートの出番だーーー! これは熱い展開が期待される!」
「いや、しかし、さすがに施設内で暴れるのは公序良俗に反するのでは? 警備員に連絡するのが第一だと思うのだが……」
「なぁにを日和った事言ってやがるんだよ! チンピラ相手に常識的な手段が通用するかって! 真っ当な手段が通じない相手にはもう暴力しかないんだ!」
「そうかな……そうかも……」
全然そうかもじゃねぇよ馬鹿。即刻ポリスメン案件だ。チンピラ相手に真正面から向き合ってどうするんだ。公僕介入で隔離の後、安全安心な生活を送るのが最善かつ最良の選択だわ。相手の土俵に立ってどないすんねん。
……ほんと、なにしてくれてんねん過去の俺……
「んだとこらーー! てめぇこのガキの親かぁ!? 金と土下座で許してやろうと思ったが舐めた口ききやがって! 殺す!」
「は! いたいめ見せてやるよ!」
猪突猛進とお兄ちゃん目掛けて進む男の握り込んだ拳は固く、高く掲げられていました。素人目にも「あ、これは駄目なやつ」と一発で分かる隙の多さで、振り抜くスピーともスローです。完全な右ストレートのテレフォンパンチ。ウィービングで躱してチンを狙えば一撃で仕留められると確信しました。けれど、お兄ちゃんは違ったのです。
「お! 始まるか!? グレートのターンが!?」
「くぅーーーーーーー! 文章じゃなくてリアルタイムで観たかったぜーーーーーーーーーーーーー!」
……
「トロい」
お兄ちゃんはそう呟くと、顔面にテレフォンパンチを喰らいました。
「えぇーーーーーーーーー! グレートォォォォォォォォォ! なにやってんすかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! なぁにをやっているんですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「見え見えのテレフォンパンチ喰らうとかダサくね?」
「いやまぁしかし、素人の喧嘩だし……」
「馬っ鹿お前ら! グレートが喰らうかぁそんな攻撃ぃ……なにか、なにか裏があるはずなんだ! 続きを! 続きを聞こう! マリちゃん! はやく次を読んでくれ!」
……ですがお兄ちゃんは無傷です。頭部にパンチが当たった瞬間、即座に受け流してその場で回転。反動で足払いをヒットさせて相手を転倒させました。そうです。スリッピングアウェーからのカウンターを決めたのです。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「ほっら見っろお前らぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! グレートはやっぱり最強なんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「……」
「大した人気ですね、ピカ太さん。いえ、グレート」
「……」
ゴス美よ、そう嫌味を言わんでくれ。いい歳してグレートグレートと呼ばれるのは恥ずかしレベルが斜め上なんだ。正直いって、辛い。
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