サキュバス、家族旅行時の父親のテンションにマジついていけない感じでした21

「そちら、何者でしょうか」


「何者? 私はただの博物館スタッフですが」


「……」



 うわぁ空気重い。一触即発のピりついた感じ。プランの奴こんな殺気出せるのかよ普段とは全然雰囲気違うじゃん。有給キャンセル喰らった挙句徹夜コースの残業渡された不破付さんと同じような負のオーラ出してる。有体にいって怖い。



「どうやらこちらの返答に納得がいただけないようで」


「当然です。ここには既に常人では突破できない結界が張ってあります。それを易々と破って現れた貴方が普通の人間なわけがありません」


「あぁ、この結界は貴女が張られたものでしたか。さすが貴族悪魔。どうりで突破に難儀したわけだ。破れた事は破れましたけれどね」


「私を貴族と知って、尚そのような軽口をお聞きになるとは。随分と腕に自信があるようでございますね」


「まぁそこそこには。少なくとも成熟しきっていない未熟な悪魔程度であれば祓う事も容易でしょう」


「今の言葉、私への挑発行為と捉えてよろしいですか?」



 いかん。マリの奴がマジギレしてる。初めてみるなこいつが怒るとこ。さすがに人外だけあって迫力がある。この怒りが俺に向けられない事を切に願うよ。



「ちょっとお兄ちゃん。止めてよこの状況」


「止める? 俺が?」


「そうだよ。あの人、確かに失礼だけど喧嘩は良くないよ。それにプランちゃんのあんな顔、見たくないもの」



 なるほど言いたい事は分かる。しかしだ。プランの口ぶりだとあの男も人外かそれに近い力をもっているらしいし、一般人の俺はしゃしゃらずこの場で知らぬ存ぜぬステイしていたい。怪我したくないし。つまるところ、総合判断と個人的見解を鑑みて出す結論は一択である。



「俺が止めなきゃ駄目?」



 遠回しの拒否。

 マリよ。どうか俺の意を汲んでくれ。



「当たり前でしょう! お兄ちゃん! 大人なんだから!」



 ……正常な認識だ。返す言葉もない。

 そうだな。俺はこの度、こいつらの保護者代わりとしてやってきたのだ。トラブルの解消もその役割の内。解決に向けて尽力せねばなるまい。



「……お前の言う通りだマリ。引率として、止めてこよう」



 本当は行きたいくないけど、余計な事に首を突っ込んでわけの分からないトラブルに巻き込まれるなんてごめんだけど、それでもあえて藪蛇を突かなければならない時が大人にはあるのだ。西南戦争における西郷隆盛のように! マリよ! そんな俺を讃え見送りたまえ! 俺はお前達のために進むのだからな! さぁ讃頌せよ! 俺の雄姿を!



「分かったなら早く行ってきて! グズグズしない!」




 全然敬わねぇなこいつ!

 それにしてもなんか日に日に性格がきつくなっている気がするがこんなもんだろうか。女ってのは分からんもんだなぁ。おっと、更に睨みがきつくなっている。これ以上文句言われる前にさっさと行動に移そ。




 移動移動。二人の間に入って一呼吸っと。

 それじゃ、一言。




「ちょいと待ちなよ二人供。なんだか険悪だけどもさ、別に争う理由なんてないだろう。何をそんなに怒ってるのか知らんが、話し合えばいいじゃないか」



 どうだこのフランクな感じ。空気を読まずに朗らかとした対応を取るコミュニケーションスキル。チームがギスギスしている時にあえてフレンドシップな姿勢を見せる捨て身の技よ。俺はこの技のおかげで一年以内の離職率を八割から五割に下げて褒められたんだ。まぁ残ったのが辞めると他で雇ってもらえないようなクズばかりだったというのもあるが、それは秘密だ。

 ちなみに大半の問題はこれでなんとかなるが、ガチでヤバい時は一睨みで目論見が阻止される事がある。



「……」


 

 そう、こんな風にね? プランの目怖いなぁ……ホラー映画に出てくる怪異みたい。



「……あれ? ひょっとして、輝さんとこの子?」


「? 確かに俺は紛れもなく輝さんとこの子だが?」



 なんだこの男。急に馴れ馴れしいな……



「やっぱり! 久しぶりだね! 僕だよ僕! もち パピ男だよ! いやぁ懐かしい! 十五年ぶりくらいかな!」



 誰?

 パピ男? 初めて聞く名前だわ。どこの誰だよ。新手の詐欺か? あぁでも俺の名前知ってんだもんな。って事は本当に知り合い? 十五年前つったら完全に俺の記憶が失われている時期の話だし、可能性は高いが……



「ピカ太様、お知り合いでございますか?」



 その目でこっち見るなプラン。腰抜かしかねないから。

 なんかここで半端な対応取ったら殺されそうだな。正直かつ、よく分からない状態である事をちゃんと伝えしよう。



「知らん。誰だこいつ」



「えぇ!? 覚えてない!? ショックだなぁ……でもまぁ、十五年前だものね。お互いまだ子供だったし、無理もないか」



 結構落ち込んでるなこいつ。 そんなに仲良かったの俺達? もしかして一緒に遊んだりした? だったらすまんな。微塵も思い出せん。だがおかげさまで空気は変わった。こつつもプランもなんかお互いにバチバチとするような感じではなくなってきた。いやぁよかったよかった。ミッションコンプリートだ。



「で、パピ男さんとやら。私の結界を破って、いったい何をしにいらっしゃったんですか?」


「お客様には関係のない事でございます」


「……」



 なんで?

 なんで煽るのパピ男君。君は馬鹿なの? 争いは何も生まないよ? それが分からないの? そんなんじゃ社会でやっていけないよ? 普通に迷惑だからやめよ?



「と、言いたいところですが、輝さんの知り合いなら教えてあげましょう。特別ですよ?」


「……」



 ねぇ、やめよ人の名前出すの。絶対良くない印象受けるじゃん聞いた方はさ。ほら、プランがめっちゃ俺の方睨んでるんだよ。俺何も悪い事してないのに。お前これ、関係悪化したら責任とれるんだろうな。マジやめてくれよ壊すだけ壊してサヨナラなんていうサークラみたいな真似すんの。こいつとは一緒に住んでるんだからさ。気まずくなるのは嫌だよ?



  

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