サキュバス、家族旅行時の父親のテンションにマジついていけない感じでした20

「マリ! さっきみたいにお前のガトリングガンでこいつの包帯をブチ切ってくれ!」


「え!? でもそんな事したらお兄ちゃん真っ逆さまだよ!?」


「いいから早く! このままじゃどの道死んじまう!」


「分かった! 流れ弾当たったらごめんね!」



 それはマジで気を付けてくれ。



「じゃ、いくよぉ!」



 ズガガガガガガガガガガガガガ!

 ブチブチブチブチブチブチブチ!




 よっしゃ! 解けた! 拘束解除だ! まさかの事態にミイラの悪魔もご覧の表情!



「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」




 包帯撒いてるから顔が分かんねぇな。

 そんな事はどうでもいいんだ! 今奴のお気持ちよりもこの後の展開! 空中で自由になって俺は今重力に身を任せ降下中なわけだが完全にフリーフォールしているわけではない! 一定の力が加わり軌道が固定されているのだ! どこに向かっているかというとそれはぁ!



「あぁ! ピカ太様がミイラの悪魔に向かって弾丸滑降!」




 そう! 敵を目掛けて一直線ってわけ! タネは右手に握ったこの包帯! マリのガトリングガンで千切れた後に元の方を掴んでやったのさ! そして案の定この包帯は奴の方へと戻っていく! 運動エネルギーにより加速度的に速度を増して突っ込んでいく俺が喰らわせる技の名前はぁ!



「いくぞミイラ野郎! 南斗水鳥拳奥義! 飛翔白麗!」



 レイが最後に見せた技! そしてユダが思わず見惚れてしまった美しき技だ! 貴様もその目に焼き付け御覧じろ!



「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!」



 

 ズバーン!



 ミイラの悪魔! お前も……また孤独!



「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」



 決まったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 渾身の奥義がミイラの悪魔にクリティカルヒィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィット! さすがに両肩を切り裂く程の威力は出せなかったがさっきのモンゴリアチョップとは比較にもならんダメージが入ったにちがいない! だって手ごたえが段違いなんだもん! 確実に骨肉イった感触がダイレクトに伝わってうわぁなにこれ状態! 打撃による人体破壊ってこんな感じなんだ! 確かに癖になる衝撃ではあったけど俺はやっぱ関節の方がいいな! だってこっちの手まで痛くなってんだもんイテテテテテテテテテテテあれちょっと待ってこれマジで痛い麻痺してたからかなんか知らんけど後からやって来た激痛。あ、駄目だこれ洒落にならんわ。痛み止め必須のやつだわ痛てぇ……なんか気持ち悪くなってきたし冷静さを取り戻してきた。痛くて引くとか初めての経験だぞ。畜生一生知らずにいたかったわこんなん。



「ピカ太様! 大丈夫でございますか!」


「凄い音したよお兄ちゃん。怪我してない?」



「大丈夫じゃないし怪我も多分してる。プラン、ちょっと診てくれ」


「お安い御用でございます。どれどれ……あ、これは駄目ですね。折れてます。両腕がボキボキです。あ、これ、骨だけじゃないですね。肉と筋も……あ、これは駄目ですね。はい。駄目。駄目駄目。困ります。あーいけませんいけません!! 困ります困ります!! ピカ太様!! 困ります!! あーっ!! 困ります!! ピカ太様!! あーっ!! ピカ太様!! ピカ太様!! ピカ太様困り!! あーっピカ太様!! 困りますあーっ!! 困ーっ!! お客困ーっ!! 困ります!! 困り様!! あーっ!! ピカ太様!! 困ります!! 困ります!! ピカ太ます!! あーっ!!ピカ太様!!」


「え? なに? そんなに酷いの?」


「そうですね。しばらく満足に指も動かせない日が続き、後遺症も残るレベルでございます。治療しても、日常に支障が出ないところまで戻るかどうかといったところでございます」


「え? マジ?」


「はい」


 

 そっかーやっちまったな俺。どうしよ、ちょっと洒落にならなくない? 仕事できないしクビ確定だなこりゃ。転職先探すにもまずは手の治療に専念しないとなんともならんね。でもニートしながら病院通いとかできるような貯金もないしどうしよ。ゴス美かムー子から借りる? いや、いやいやいや。そんな真似できるはずがなかろう。ムー子に金なんて借りたら絶対ろくな事にならん。どうせトゴとかヒサンとかいって無茶な金利を吹っ掛けてきつつ、払えなくなったら何らかの代償を求めてくるに決まっている。誰が借りるかそんな奴に。ゴス美なら普通に助けてくれるだろうがそんな世話までさせたくない。ただでさえ日常的に色々やってもらってるんだ。こんな事まで面倒見てもらうわけにはいかんだろう。やはり自分の不備は自分でなんとかしなくては……う~ん……一時実家へ帰省? うわぁ嫌だぁ……絶対帰りたくない……でもそうもいってられんかぁ……う~~~~~む……恥を忍んでお母さんに電話を……それどころじゃない! プラモが! プラモが作れねぇじゃねぇか! どうしてくれんだ俺の人生! もう生きている意味ねぇじゃねぇか畜生! いやまだだ! 足がある! 口がある! 人間の身体には無限の可能性があるんだ! そう信じていなければ絶望で死んじまうよぉ! なぁ! 俺のプラモライフ大丈夫だよなぁ! 慣れれば手以外でも作れるよなぁ! なぁ! 答えてくれよ誰かぁ!





「治りました」


「……え?」


「怪我、治りましたよピカ太様。もう大丈夫です」


「あ、治せちゃうんだ」


「はい。回復術は心得ておりますので」



 ……助かった。泣く泣くお母さんに電話しなく済んだ。

 でもお前そんな事できるならなんであんな大袈裟な反応したんだよ。めっちゃ怖かったじゃねぇか。今後足でプラモ作らなきゃいけないかもって思ったんだからな? マジで。




「……む」



 ん? なんだ? プランの奴、急に雰囲気が変わったぞ?



「どうしたんだ、妙な声出して」


「……誰かいます」


「? 逃げ遅れた奴でもいたんじゃねぇの? それか警備員が入ってきたとか」


「いえ、全員逃げ出したのを確認して結界を張ってますので普通の人間がこの場にやってくる事はあり得ません」


「……」


 普通の人間が入ってくる事はない。という事は、普通じゃない人間がこの場に乱入してきたって事か。え? なに? もう面倒事はごめんだよ? 疲れたし。



 コツ、コツ。



 足音!? いる! 近くに! 



「どうもお客様。この度は大変な目に遭ったようで」



 背後!? くそ! 誰だ……っ!? あ、 お、お前は!?



「お客様、ミイラ展はご満足いただけましたでしょうか。お静かにご利用いただけなかったようではありますが、ま、今回は仕方ありませんね」



 「あ、貴方は……!」




 おかしくなってる時のプランを注意したスタッフ! 



「先ほどぶりです。お怪我はございませんか? お客様」


 


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