サキュバス、親父にもぶたれた事ありませんでした15

「俺がジム通うとか通わないとかの話はいいんだよ! それより親父だ! 辛うじて一発は避けられたが二撃、三撃と同じようにいくか分からん! どうにかしないと! デ・シャン! お母さん! なんとかならないのか!?」


「先ほども申し上げましたが輝さん。ここは見です」


「な!?」


「そうですよピカ太さん。今迂闊に動いたらそれこそ集中砲火を浴びて一巻の終わりです。あの男、恐らく三分程度の力しか出していませんが、現状対応できているのですから無暗に仕掛けるのは愚策でしょう。動くのはここではありません」


「とはいえ……」


「逆にお伺いしますが輝さん。貴方、もう一人の貴方とバトンタッチしてどうするおつもりですか?」


「どうするってお前……死んだふりとか……?」


「話になりませんね」


「んな事言ったってこのまま劣勢になって殺されたらどうすんだ! ピチウを救えず聖書も取れず何も得ず! 終いにゃ終いにゃ俺死亡じゃねぇか!」


「いざとなったらなんとかしますから落ち着いてください。まったくいけませんね。鳥栖さん。先ほど行ったセラピーの効果が切れてきたんじゃないですか?」


「というより、短時間で精神の乱高下が発生した影響により情緒の波がジェットコースター状態になっているようです。直接的に作用しているせいか効果抜群でしばらくこんな調子かと思われます」


「うぅん。人間は脆い」


「好き勝手な事言ってんじゃねーぞ畜生!」


「それよりピカ太さん見てくださいよ。もう一人のピカ太さんがピカ太さんのお父様の攻撃を完全に見切っていますよ」


「そんな事って課長お前な……って、え? 嘘? あ、本当だ」

















「やるじゃないか! 本気ではないといえこの俺の攻撃が悉く躱されるなど何十年ぶりか知らんぞ!」


「ずっと雑魚ばかり狩ってきたんじゃねぇの?」


「それはそうだ! なにせ俺以外の存在は揃って脆弱だからなぁ!」


「そうか。じゃあ、俺に負けたらアンタも脆弱生物の仲間入りだな」


「面白いじゃないか! じゃあ次のレベルだ! これは耐えられるかなぁ!?」


「なに……ぐっ!?」



 !?




「……! ピカお兄ちゃん!」














「うっわまじかよ! めっちゃ吹っ飛んでったぞ!? ドラゴンボールか!?」


「攻撃の質が一段あがりましたね。速度も威力も桁違いです」


「勘弁してくれよ……これ入れ替わったら俺が痛みを引き継ぐんだろ? 人格変わった瞬間に戦意喪失しそうだわ」


「その辺りはご心配なく。痛覚を麻痺させておきますので、思う存分耐えられますよ」


「嬉しいけど素直に喜べないサービスだな……ついでにリジェネもかけてくんない?」


「リジェネ? リジェネレーションの事でしょうか? でしたら申し訳ございません。生憎と破壊や再生は管轄外なものでして」


「結構色々な術を使うくせに都合のいい時だけそういう設定だすよなお前ら」


「これに関しては本当に難しいんですよ。まぁ本体であれば可能でしょうけど、分体では中々。系統がまるっきり違いますし」


「ふぅん……変化形能力者に強化系の上位能力を使えというようなものか……しゃあない。じゃあお母さん。自動回復とかできない?」


「可能ですがそんな事をする暇があったらあの男の動きを止める事に使います」


「……ですよね」




 となればできるだけ傷を負わずに検討してほしいところではあるが既に後悔先に立たずな状態となっているかもしれん。どうなんだ俺。派手に滑空していったけど怪我とかしてないか? コンクリートにぶっ刺さって首の骨とか折れてないよね? 大丈夫?




「あ、ピカ太さん! もう一人のピカ太さんが立ち上がりますよ! それも傷さえ見られません!」


「なに? うお、マジだ……どういう事だ? 安心っちゃ安心だけど、どういうカラクリなのかさっぱり分からん」


「簡単な事ですよ。あの子、強力な身体強化を自らにかけているんです」


「身体強化?」

















「おぉ! まさかあの攻撃が直撃して無傷とは! 生身であれば打点が砕け肉と骨が混ざっているところだが、なるほど。相当な術を学んだようだな息子ぉ!」


「言っただろう? こんな事もあろうかと。ってな。俺の身体には半分あの女の血が入っているんだ。これくらいの術は使ってみせるさ」


「いい面をする。感慨深いぞぉ我が息子よぉ。身体だけではなく術も駆使して俺に食らいつくとは面白い! 久々に興奮してきたぞ! やはり貴様は俺の子供だぁピカ太ぁ!」


「いちいち息子だの子供だの言ってくんじゃねぇよ。耳障りなんだよ」


「はは! 男はそれくらいじゃないといかんなぁ! やはりピチウと違ってお前は俺の血が濃い! はははは! いいぞぉ!? やはりお前からは家族の臭いがする!」


「なんだ? ピチウは家族じゃないってのか?」


「言うまでもないだろう。奴はあの女の遺伝子が強い。言ってみれば欠陥品よ。比較してどちらが愛せるかといえば、言うまでもあるまい」


「……」


「親父よぉ」


「なんだぁ? 息子ぉ?」


「俺はよぉ。母親の人よりも、まだあんたの方が話が分かると思っていたんだよ」


「それは正しい思考だ。あれは愚物といってもいい。正義だの道義だのとつまらん物の考え方をする。お前も、そんなものくだらんと知っているだろう?」


「そうだな。親父のいう通りだ。人間のくだらない価値観など、クソ喰らえだよ」


「はははは! やはりお前も俺と同じだ! 退屈な人生を良しとしない人間だよ!」


「……だがな」


「あぁん?」


「少なくとも、俺はピチウを、妹を欠落品だなんて思った事は一度もない。そこが、そこだけが、あんたとは決定的に相容れない」


「……ピカお兄ちゃん」


「親父。決別だ。適当に殴り合ったらやめる予定だったが……この喧嘩、あんたが死ぬまで続けてやるよ。覚悟しな」



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