サキュバス、親父にもぶたれた事ありませんでした8
「情けない……貴方も男ならばもう少し気骨を見せない」
「無茶言うな。相手が人類なら多少の虚勢も張れるだろうけども。あ、そういえばお母さん。俺の記憶って、お母さんのものなんだよな?」
「……えぇ」
「なら、この親父に対する異様な敵愾心と恐れも、お母さんが感じていたものなのか?」
「……」
「ダスピルクエットは昔、輝さんのお父様と組んで除霊をしておりました。その時に見た圧倒的な力を今なお引きずっているのでしょう」
「黙りなさい。左様な事はありません。私があの男を恐れた事など一度たりともあるものですか」
「そんな事言って、オーストリアで貴族悪魔を討伐した時なんて、あの男の縦横無尽ぶりに愕然としていたじゃありませんか」
「あれはあまりに好き勝手やるものですから呆れていただけです」
「ちょっと待って、話についていけない。なに貴族悪魔って? フォルネウスとかビューネイとか?」
「私を含め、魔界には十二の大貴族がいるんですが、その一柱が人間界に著しい損害を与えようとしたため討伐対象となったのです。その選任に、ダスピルクエットと貴方のお父様が選出されたという事があったのです」
「へぇ」
「あれは本来であれば私一人で対応できる依頼だったのを、輝家の面子のために共同としただけの事。その忖度を鑑みずに暴れたい放題暴れるものですから、開いた口が塞がらないのも当然でしょう」
意外と負けず嫌いなんだよなお母さん。
「事実を述べているだけです」
「いいよじゃあそういう事で……で、実際どうなの悪魔の貴族って、強いの?」
「そうですね。人知を超えているのは確かです。私などはしがないインキュバスですから可愛いものですけれど、 武闘派の連中は人間にとって、いえ、我々魔性の物にとっても厄介ですね。なにせ平気で人間を殲滅しようと企てたりしますから。今話題にあがっているティギラナなどはその筆頭で異様なほどに人類抹殺に拘っており、いよいよ暴走寸前というところ、お二方に打倒されたというわけです」
「ふぅん。悪魔も一枚岩じゃないんだな」
「先ほども申し上げましたが悪魔はあくまで個人主義ですので、むしろ協調している方が異常です。なので悪魔の方からも度々仲間を売るような事案が発生するのですが、この件がまさにそういった事態になったわけです。また、緊急性が高かったので、最高戦力と有されるお二人にお願いしたというわけですね」
「具体的に何をやろうとしたんだそいつ」
「世界中の火山を噴火させ、津波と地震を起こし、死のウィルスを地上にばら撒いて人類を皆殺しにしようとしておりました」
「なんだそのアポカリプスは。そんな事起こせるもんなのか? あれ? これって聖書とかという兵器に似てない?」
「さすが輝さん。察しがいい。そうです。この聖書というのは、ティギナラの力を基に作られているのです」
「悪魔を基にした兵器の名前が聖書ってお前、皮肉が効きすぎてない?」
「センスのないジョークですよ。やはり世界を支配しようなんて宣う輩はユニークさに欠けますね。面白くもなんともないです」
「辛辣だな……ところで、どうやって地震とか津波とか噴火とかパンデミック起こすんだ? 全部管轄バラバラじゃない?」
「ティギナラは波長を操作する悪魔だったのですが、全ての活火山や海域にどれだけの波を与えれば激しく動くか常に研究していました。また、奴の能力は環境そのものを変化させる事も可能ですから、ウィルスのような短期間で変質する物質を自分好みに作り替える事も容易だったのです」
「なんか割と洒落にならない奴だなそいつ。どうやって倒したんだ?」
「貴方のお父様が波長変化を無視して強引に正面突破を行い殴り殺しました」
「……やっぱり作戦変えない?」
そんな化物とやり合おうなんて正気の沙汰じゃねぇ。無理だよ無理無理。
「馬鹿な事を言わないように。ピカ太さん。あのような男、恐るるに足りません。臆病風に吹かれていないで、胸を張っていないさい」
「なるほど。確かにその通りかもしれん」
急に前向きになってきた。うぅん、不安は不安だが、不思議となんとでもなりそうな気がしてきている。きっとデ・シャンの奴にかけられた精神向上術の作用なんだろうけど、なんか怖いな。自分の意思に反して感情が動いているのって凄い違和感。まるで操られているようだ。
「その術の効果は一日経てば解けますのでご心配なく」
「そうか」
もう心を読まれるのも慣れてしまったけどこれも怖いな。癖になったら人格が外に出た時喋られなくなったりするかもしれん。なるべく喋るようにしよ。喋るといってもあくまで精神的なイメージに過ぎないわけだけれども。あ、そうだそうだ。ついで聞いておこう。
「もうもう一人の俺が外に出ちゃってるんだけど? 課長は? あいつも合流するんだよね?」
「そういえば遅いですね……いつもであればもっと迅速に行動するはずなのに」
「あぁ、ゴス美さんなら、従えている低級悪魔がいないから少し探してくると仰っていましたよ。頼みたい雑務があるとか」
「またムー子が迷惑かけてんのか……でも、こっちに来るのって分体とかっていうやつなんだろ? 本体が動いていようが問題なくない?」
「鳥栖さんの場合はこの手の術が苦手ですので、凄く集中しないとできないんですよ。こちらではなく島さんを探しを優先しているのも、憂いがあると集中できず上手く実行できないからかなと思いますね」
「難儀な奴だな……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます