サキュバス、アルパチーノとロバートデニーロの不仲説を聞いて思わずオレンジを口に含みました35

 気を取り直しておはようございます。玄関跨いで廊下を歩いて居間? 客室? 食堂? まぁいいや。ともかくデシャンがいる部屋に到着。広いね相変わらず。



「おはようございます。輝さん。すみませんね。今、私一人でして」


「朝電話した時はアンテさんが出たが、休憩か?」


「少し用事を頼みましてね。外出中です」


「ふぅん」



 もしかしたら、家族水入らずの時間を楽しみたいのか(マリもいるけど)? だとしたら悪い事をしたな。邪魔をしないよう、さっさと用件済ませて早々に立ち去ろう。



「長居する気はないから、例のオカマを貸してくれ」


「その件なんですけれでも、明賀さんは今手が離せない状態でして。申し訳ありませんが、少々お待ちいただけると」


「? なにやってんの?」


「部屋の掃除です。ここにやって来た際、物置に詰め込んでそのままにしている荷物が大量にあったものですから、そりらの整理を」


「……それ、今度じゃ駄目?」


「駄目です」


「いや、その、掃除が非常に大切な事ってのは分かるんだけどさ。こっちもちょっと命がけでさ……」


「そうなんですか? 良い保険紹介しましょうか? なんと死んでからでも本人の同意なく入れるプランがあるんですが」


「それは何らかの法に抵触しないのか?」


「大丈夫です。バレませんから」


 

 バレたらまずいって事じゃねーか。



「保険はいいからさぁ。貸してくれよ幽霊。どうしても必要なんだよあいつがさぁ」


「輝さん。私はですねぇ。貴方のお願いを聞く義理も必要もないんですよ。本来であればこうして朝に押しかけてきた非常識に対し何らかの処置を施してもいいんですよ? 野も関わらず、中に通して話までしている。こんな寛大な処置がございますか? まずその点について感謝の念でも伝えてもいいのではないでしょうか」


 

 こいつ、自分が優位だと途端に傲慢になるな。まぁ、言っている事は一理あるかも……

 ……いやいや何日和ってんだ俺は。ねぇよ、ねぇ。こいつの言い分に正当性なんて一つもないわ。




「納得しかけたがお前、自分の娘を預けてるって事を忘れるなよ?」


「既に返していただきましたが?」


「今まで見たてきた面倒も一緒に渡した覚えはないぞ? こっちだって身銭切って飯食わせたりしてんだからその分要求を聞くべきじゃないのか」


「おや、金の話ですが。嫌ですねぇ平民の出の方は。何かにつけてすぐ金銭がどうのこうのと仰る。こうした付き合いというのはお互いの信頼関係の上で成り立つものではありませんか。それをそんな、幾らかかっただのその分の保証をしろのだの。無粋とは思いませんか輝さん」


「お前と友人関係でもあればそうかもしれんが、生憎とそうでもないからな。損益の対照は綺麗にしておきたい」


「え? 友達じゃないんですか私達?」


「お前の友達基準がどれほどザルなのかは知らんが、俺がお前に友愛の情を抱いた事は一度もない」


「そうですかぁ……じゃ、これから友達って事で」


「友達になってやるからオカマを貸せ」


「輝さぁん。友達ってのは損得勘定で動くもんじゃないですよぉ? 自分が割を食ってもその人のために動くみたいな、そんな気概が欲しいですねぇ」


「だったらまずお前からその気概とやらを見せてみろ」


「今は僕のターンではないので……」


「友人関係にそんなフェーズ制みたいな概念があってたまるか」


「中々愉快な事を仰る。ふむ……正直、貴方を招く事に対して快く思わない自分がいたのですが、興が乗りました。どうです? チェスでも一つご一緒しませんか?」


「生憎とルールが分からないうえに悠長に遊んでいる時間もないんだ。今度にしてくれ」


「それは残念……では、帰っていただけると……」


「だから! オカマの幽霊を貸してくれたら! すぐ帰ってやるから!」


「おっと、そう大きな声を出さないで。血圧上がりますよ? 紅茶飲みます?」


「~~~~~~~~~~~~!」



 こいつ! おちょくってんのか!? なんでこんなに話通じないんだ! 




「あの~~~~~~~~~恐れながら専務~~~~~~~~~~」


「おや島さん。なんでしょうか」


「私如きが差し出口を挟むのも恐縮なのですが~~~~~~~~その~~~~~~~~~~~なんと言いますか~~~~~~~~~~少しでいいのでピカ太さんに協力いただけますとこちらとしても助かるかな~~~~~~~~~~~~~~と……」



 お、ムー子。お前珍しくアシスト入るやん。いつもからそういう感じでいろよボケカス。



「う~~~~ん……別に私の方も、今すぐ掃除しなくちゃいけないってわけじゃないですし、せっかくの部下の進言。これを聞かないというのも狭量のように思われますねぇ」



 お? これはきたか!? ナイスムー子! 今お前に生まれて初めての感謝の念が降って湧いたぞ!



「では、こうしましょう。滞った時間分を島さんの給料から天引きという形で清算すると。それだったら今すぐ派遣対応いたしますが、いかがです?」


「ピカ太さん。もう少し待つか大人しく諦めましょう。焦ったってしょうがないですよ」



 前言撤回。ムー子はやはりムー子だった。殺してぇ。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る