サキュバス、アルパチーノとロバートデニーロの不仲説を聞いて思わずオレンジを口に含みました25

「……とりあえずタクシー手配してくる」


「あ、それでしたら先ほどオンライン予約を確定いたしました。後二十分後に到着予定です」


「助かる。なら、俺も出かける準備してくるわ」


「了解です。それと、専務へのお土産が戸棚に入っておりますので、そちらを持っていっていただけると」


「え? 買ってる余裕なんてあった? そもそも店空いてた?」


「こんな事もあろうかと買い置きしておいたエシレのクッキーがあるんです」



 真田志郎かお前は。



「そうえいば、マリ達学校はどうする? 万が一の事を考えて休ませるか?」


「その方がいいでしょうけれど、ただ、リモート授業が可能な環境ですので、こちら対応できないか伺ってみます」


「そういやそんな事もできると聞いたな。凄いな最近の小学校。完全に児童ファーストじゃん」


「児童ではなく家庭ファーストと言う方が正しいですかね。融通が効くのは子供以外の家族においてもありがたいです。しかし、これはどこでもやってるってわけではなく。あそこが特別教育環境の改善に力を入れているんですよ。他の学校なんて未だに旧態依然のやり方が変わらず、エアコンの実装すら渋っているところもあるくらいです。疫病の蔓延とかでもあれば多少改善に向けて動くでしょうが。現状ではしばらくこのままでしょうね」


「まぁ、かけられる金も限られてくるだろうしな」


「それは怠慢な自治体の言い訳です」


「そうなの?」


「そうです。絶対的に」


「……そっか!」




 凄い熱量が高い。子供なんて放っておいても育つだろうと思っているが、そんな事を言ったらぶっ飛ばされそうだから黙っておこう。というか、話が長くなりそうだからさっさとお暇しよ。




「じゃ、そろそろ時間もないから、帰ってきたらまた相談しよう」


「かしこまりました。気を付けて」



 退出。

 それにしても、うーん、不安だ。形だけはなんとかなったが作戦としては不健全もいいところ。穴だらけのプランに沿って行動しなくてはいけないなんてのは不安しかない。待ち合わせまでの猶予はあまりないが、考えられるだけの事は考えてできる限りの事をしよう。最悪、自決用にナイフでも忍ばせておくか。死ねるかなぁ俺。いや、死ねない気がするなぁ。しっかし、本当になんで今更なんだ親父の奴? 目的がさっぱり分からない上にタイミングも意味不明。もっと早くてもよかったんじゃないだろうか。それこそ二十歳の時とか。いや、そうだな。向こうが俺の所在を知らなかったという可能性は十分にある。最近突き止めたから、自分の子供の顔でも見ておくかみたいな、そんな軽い気持ちかもしれん。


 ……そんな軽い気持ちで刺客を差し向けたりピチウを利用したりするわけねぇよなぁ。でも逆になんでそこまでする必要があるんだ? 確かにあいつは「何故俺が出向かなければならない?」って言いそうだけど、とはいえ、やりすぎじゃね? 阿賀ヘルに全部一任しているっていう可能性もあるとは思うけど、それにしたって報告くらいは受けているだろう。あいつに倫理観や道徳などはないだろうが、罠に嵌めて人質とって脅迫するなんていう手は下策も下策だ。あのプライドの高い男がそんな真似をするだろうか。あいつなら、やはり無理やり拉致でもしてくる方がらしいといえばらしい。「自ら会いに行くのは格下のやる事だが、狩りは捕食者の日常」とかわけの分からん屁理屈こねて自分を正当化してきそうだ。



 そう。そうだ。実はこれまでの事は全て阿賀ヘルの独断による行動で、親父本人は関与していない可能性がある。もしそうだとしたら、報告を受けた時点でまったく別の行動を取ってくるかもしれない。そうなると、もはやセーフティなどない完全なる鬼ごっこゲーと化してしまいどこもかしこも油断ができねぇ。これはつまり、俺がいる場所が全て危険エリアとなってしまうという事。そんな状況でマリとプランに同行していいわけがない。これはまずい。至急タクシーをもう一台呼ぼう。いや、移動中に襲撃されたら何の罪もないタクシー運転手が巻き込まれて理不尽な破滅の犠牲者になってしまう。くそ、そうなると徒歩で移動するしかないか(もし周りに人がいたら、その時は……すまん!)!


 だが、それにしたって一人で行動するのはそれでそれでリスキー。どこかに丁度いいタンク役でもいればいいんだが……



「あ、ピカ太さん! ピカ太さん発見! ちょっとピカ太さん! 聞いてくださいよ! 朝から急に仕事頼まれたり殴られたりして大変だったんですよ! そういうわけでなんか奢ってください! 台湾カステラ! 台湾カステラがいいです! ブクロに屋台にあるんでちょっとそこへ行きましょう! 暇ですし!」


「……採用」


「え?」


「ブクロにはいかんが、お前をパーティーに追加する。前衛頑張って」


「なんです? 言ってる意味がちょっと分からないんですけど。だいたい私はどう考えても後衛でしょう。後衛で”私の【力】のせいでこんな事に……”なんてクソの役にたたないままぼけーっと突っ立ってる可愛いだけでチヤホヤされ倒されるようなヒロインがお似合いじゃないですか。嫌ですよ前衛なんて」


「卑下してんのか増長してんのか分からんが、ちょっと課長に電話するから黙ってろ」


「イヤボーンは悪口が否か!?」


「黙ってろつってんだろ! そんなもん作品とキャラクターによるわ!」

 

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