サキュバス、アルパチーノとロバートデニーロの不仲説を聞いて思わずオレンジを口に含みました24

「他、何か懸念事項ありませんかピカ太さん」


「そりゃあもう、ここまで話して既に限界量を超える程の懸念が積み重なってはいるが、やはり問題はピチウが何を思い、どうして奴らと行動を共にしているのかという点に尽きる。これ、場合によっては何ともならんかもしれん」


「それについて気休め程度しか言えませんが、恐らく本意ではないように思います」


「根拠は?」


「家を出ていく際、泣いていたので」


「……そうか」



 ピチウの奴、泣いていたのか、ちっとも気が付かなかった。駄目だな、俺は



「それ以前にピチウさん、基本的にピカ太さんを信頼していた節はありますので、まぁ大丈夫かと。今回の件もやむにやまれぬ事情があったのだと考えます」


「そうだといいがな……その理由というのが皆目見当つかんが、まぁいいだろう。後は、失敗した時どうするかだ」


「う~~ん……これも向こうの目的が分からないので断言はできませんが、殺される事はないと思いますので何とでもなるような気がしなくもないです」


「まぁ確かに、殺す気なら阿賀ヘルが侵入してきた時点で全滅させられていただろうからな」


「大変遺憾ですがその通りです。それに、わざわざピチウさんを盾に呼び出すなんて事もしないでしょう」


「そりゃそうだ」


「案外、一緒にご飯を食べたいとか、そんな話しかもしれませんよ? 父親ってそういうところありますし」


「……」


「すみません。軽率でした」


「いや、別にそんなつもりじゃないんだが、なんか妙だなと」


「どうしたんですか?」


「阿賀ヘルの術って、ゴス美が気付かない程の完成度だったんだよな?」


「口惜しいですが。そう言わざるを得ないですね。事実、私はまったく気が付きませんでしたし」


「その術使えば、別にこんなまどろっこしいやり方しなくても簡単に俺を拉致できるじゃねぇかなって」


「……言われてみれば確かに。どうしてでしょうね」


「う~~~~ん……分からん……」


「ピカ太さんに術が効かないとか? ほら、お父様も気合いで跳ね返せるってさっき言ってましたし、何よりお母様の血も入っていますし」


「俺は両家の短所ばかりを引き継いで生まれてきたからそれはない。霊能力的なものは普通の人間に毛が生えた程度だし、筋力も平均値より少し上くらい。できそこないとか産廃といった評価がしっくりくる人間なんだよ」


「そんな卑下しなくても……ピカ太さんにはピカ太さんの良いところがありますよ」


「……」



 フォローしてくれる気持ちはありがたいがそれは逆効果だぞゴス美。



「どちらなんでしょうね。使わなかったのか、使えなかったのか」


「その二つのどちらか次第でだいぶ状況が変わる気がするが、分からんものは分からんし、あえて使わなかったという前提でいくか。実際俺、あいつの術にかかってるしな」


「え? 大丈夫ですか? 呪いとかかけられてないですか?」


「いや、分からん。なんか即効性のやつで、こう、ぎぃ! ってなるやつだったんだけども……」


「……ちょっと失礼しますね」


「?」



 なんだゴス美の奴、急に立ち上がって……え? なに? なにその持ち出してきたデカいスーツケースみたいなの? 全部黒くて怖いんだけど……あ、開いた。うわぁ……なんか凄いそれっぽいアイテムがいっぱい入ってる……ウジャ盤みたいなのに? ステッキ? あと変なカードとダウジングみたいなやつ? あとよく分からんものが多数……なんだこのお手軽黒魔術セットみたいなものは。うん? なんか取り出したな。なんだそれ? ガラスのペンダント?



「はい。じゃあこのアミュレットをよく見つめてください」


「なぁにこれ?」


「呪詛探知のマジックアイテムです。これを介して相手を見ると、背後に呪っている人間の姿が見えるという便利な逸品です」


「お前、どちらかというと呪いかける側の人間だろ? なんでそんなもん持ってんだよ」


「今の時代、サキュバス業一つじゃ中々難しいんですよ。芸は身を助けるといいますし、色々できると役に立つんです。転職活動とか起業とか」


「ふぅん」



 悪魔の世界も世知辛いものだな……



「じゃあ、いいですか~~? いきますよ~~~~~? はい、カース」




 そんな軽快に物騒なワードを呟くな。




「……あ」


「なんだ? どうした? なにか映ったか?」


「いや……まぁ、映ったといえば映ったんですけれど……」


「まじかよ!? 誰!? 阿賀ヘル!? やはりなんらかの術がかけられていた感じ!?」



 もしそうだとしたらかなりヤバかった! 何が起こるか知らんが単身乗り込んで発動されていたらなす術なく相手の掌の上だった! いやぁよかった! ここで気が付いて! ファインプレーだゴス美! 今日のMVPは間違いなくお前だよ!



「……」


「? どうした?」


「その、映っているのがですね……」


「え? 阿賀ヘルじゃないの?」


「……私と、ムー子です」


「……は?」


「ですから、私とムー子の姿が、バッチリ映っています」


「……なんで?」


「だってほら、契約してるじゃないですか。オープンユアハートの効果で」


「……」


「すみません。迂闊でした。いやぁ確かに、悪魔の契約は呪いに分類されますよね」


「……」




 ろくなもんじゃねぇなサキュバス。



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