サキュバス、アルパチーノとロバートデニーロの不仲説を聞いて思わずオレンジを口に含みました23

 ひとまず、穴だらけではあるが一応ピチウ対策はOKという事で、次の課題だ。



「よし、探知能力を麻痺させる事ができたと仮定して、今度は脱出経路だ。相手側の目的は分からんが、俺を閉じ込める可能性もある。そこで、突破方法を考えたい」


「そうですね。今、ビルの確認してみましたが、酷い物件です。消防法など知らぬ存ぜぬな構造で、出入り口が一か所しかありません。一度入ったが最後、容易に外へ出る事は叶わないでしょう」


「窓もないの?」


「ない事はないですが、ハンドル式なので多分大人は通れないでしょうね」


「厄介な事だな。強行突破するのも無理だろうし」


「強行突破……強行突破いいじゃないですか。それでいきましょうよ」


「え?」


「お父様とお会いになって何をお話しになるかは存じませんが、いざとなったら鉄拳による制裁で退けてピチウさんだけ抱いて帰ってくればいいじゃないですか。なにせピカ太さんの近くには私がいますから、契約バフでステータスアップしています。これによりあの阿賀ヘルとかいう女の術もある程度無効化できるでしょう。ぶん殴ってゲッタウェイ。これですよこれ。これが最もシンプルで満点に近い解答です。何で気が付かなかったんだろ。相手なんかただの人間ですから、悪魔の力に抗う術などありません。やはり暴力。暴力は全てを解決する。これにてもう全て万事抜かりなく運びますね。よかったよかった」


「……無理だな」


「え?」


「無理だ。俺は親父に勝てん」


「え? どうしてですか? 契約で得られる力はデビルマンもビックリな悪魔的パワーなんですよ? ピカ太さん、実際に経験されているから、お分かりになるでしょう」


「親父は、そんな次元じゃない」


「何者なんですか? ピカ太さんのお父様」


「……課長、相撲の起源って知ってるか?」


「いえ、存じ上げませんが……」


「相撲ってのは古事記によると、建御雷と建御名方の腕の取り合いが起源になったなんて話があるんだが、まぁこれは神話だから勿論本当の事じゃない」


「はぁ……」


「本当の事じゃないんだが、モデルになった争いみたいなのは存在するんだよ」


「本当ですかそれ?」


「勿論俺も実際に見たわけじゃないから知らないんだけども、実家の蔵にあった古文書によると、とある一族同士が戦っている様子が余りに壮大であるため、まるで神々のように映ったという事らしいんだ」


「それで?」


「で、そのとある一族ってのの片方が宙家。つまりお母さんの実家の方の血筋。で、もう一方の一族が輝家とされている」


「……それは」


「そう。親父の方の血筋だ」


「……」


「この二つ家の者は特異な性質を持って生まれてくるそうで、宙家の方が神通力や法力といった超常的な力を、輝家の方は天下無双の怪力を発揮するらしい」


「……」


「で、実際どうなんだとういと、お母さんに関しては言わずもがな、親父の方も親父の方で色々狂った体質で、基本的に物理攻撃は効かないし、術の類もある程度気合いで跳ね返すイカれた耐性を持ってるんだよ。おまけに肉弾戦で念を込めた攻撃をしてくるから相手が思念体だろうと幽体だろうと構わずぶち殺せるっていう隙の無さ。多分、俺が対峙した鬼相手でも徒手空拳で勝てる。それも相手のデバフなしで」


「……にわかには信じられませんね」


「そうだろうな。俺も自分で言っておいて無茶苦茶だなって思う。でも、実際そうなんだから仕方ない……あれ?」


「どうかしましたか?」


「いや、俺、親父の記憶ないのになんでこんな事知ってんだろうなって思って」


「まぁそれも消えた記憶と関係あるんでしょう。もしかしたら、特定の情報だけ残っているのかもしれませんし、あるいは……」


「あるいは?」


「……あるいは、そういう情報を埋め込まれているかもしれないと考えたんですが、それはないなという結論に至りました。失礼いたしました」


「なんでそういう結論に至ったんだ?」


「勘です」


「本当かぁ?」


「本当です」



 ……嘘だな。こいつ、何か隠している。隠しているというか、気を遣っている感じがする。

 でもまぁ、いいか。ゴス美がこういう態度に出るって事は多分その方がいいのだろうし、聞いても答えてくれないだろう。であれば現状のままでいいや。つまらん事で時間を浪費し、また関係性に陰りを作る必要もない。



「分かった。信じよう」


「ありがとうございます」


「まぁそんなわけで、親父を相手にするのは多分無理だ。例えこの情報が偽りだったとしても、それを確かめる術がない。お母さんに聞けば本当の事が分かるだろうが、まぁ、こっちに向かっているんだからその時に聞けばいいさ。問題なければ昼頃には到着する予定だし。今はそれよりも、どうピチウを奪還するかを考えよう」


「そうですね。というか、この話の中で私、一つ案を思いつきました」


「どんな?」


「私、知り合いに潜伏してるテロリストがいるんですが」


「やめようそれは」


「まだ何も言っていませんが」


「いや、絶対法的に駄目な提案するだろ」


「まぁそうですが……でも、手段を選んでいる場合ですか? 非常時ですよ?」


「そりゃあそうだが……」


「それに、別にその人間に何か頼むってわけじゃないですよ。ただ無断でアジトに侵入して、黙ってスタングレネードを幾つか拝借するだけです」


「……」


「それに手を加えて爆音も鳴るように仕掛けます。で、ピカ太さんがいざという時に投げると。光と音。二重の衝撃があれば、如何に力が強くても一瞬は怯むでしょうから、その隙に、ピチウさんを連れて逃げる。どうですか?」


「……色々と言いたい事はあるし、実行するためには幾つかの障壁をクリアしなきゃいけないし、おまけに条件次第では使えない手ではあるが、他に思いつかない以上は、それに頼るしかないな……」


「そうでしょうそうでしょう。現状他にないのだから、もうこれに賭けるしかありません。名付けて、光と音のファンタジー作戦です!」



 ……ネーミングセンスよ。

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