サキュバス、アルパチーノとロバートデニーロの不仲説を聞いて思わずオレンジを口に含みました13

 そこまでの気持ちがこもっている理由が分からんが、想定より遙か上のレベルで受け入れがたい。こんなもの毒盛られていた方がまだマシだろ。軽々しく理解の範疇を越えてくるのは止めてほしい。



「ムー子。それ、全部食べてくれ」


「え? いやぁ……なんか罪悪感が凄いんですが……バレンタインデーに貰った本命チョコレートを渡されて食べる気分です」


「いいからそんな事気にしなくて。お前魔性の物だろ。それくらいの悪行やっとけよ」


「私達はあくまで性欲的逸脱を司ってる悪魔なので……」


「都合のいい時だけそんな設定持ち出すな馬鹿。お前散々背徳悪道の限りを尽くしてきただろ」


「それを言われると返す言葉もないですね!」


「開き直るな」


「でも、ピカ太さんもですよ?」


「あ? なにが?」


「ピカ太さんも十分背徳悪道の限りを尽くしているかなと」


「馬鹿な事を……俺がそんな真似を……」



 ……




 ……してるわ。思いっきり思い当たる節があるわ。




「……」


「どうやら過去の自分を鑑みれたようですね……どうですか? 心は痛いですか? 昔の自分が犯した罪に苦しんでいますか? そう、その気持ちが罰となり、ピカ太さんの十字架になるのです。しかし、生きている限り解放されない苦悩の中で芽生える良心はきっとこれから先の人生で得がたいものとなるでしょう。日々精進し、どうぞこれ以上ご自分の魂を穢さぬように過ごされてください」


「……」


「ほわぁ!? っと……? あれ?」


「なんだ急に飛びあがって……虫でもいたか?」


「いえ、いつもならこの辺りでプロレス技使ってくるなと思いまして」


「……今日は気分じゃない」


「え……」


「なんだよ」


「いやぁ? 痛くないのはいいんですけど、お約束をスカされた気分でノリきれないなぁと」



 お前は自分の人生を新喜劇にでもしたいのか?


 

「……お前の言う通り、俺も非人道的な部分がある。少し、その辺りを見直す必要があるようだ。今後、暴力は極力振るわない」



 そうだ。ピチウに抱いたサディスティックな感情や、先ほど経験した、殺意を意識する事で発露する男性機能については、まごう事なき反社会的思想である。これは暴力行為が常態化した事により破壊欲求でフラストレーションが発散させられると脳が記憶してしまったからだろう。今一度健全な精神性を取り戻すには暴力を断たねばなるまい。断酒断煙ならぬ断暴を心掛け、芯からの真人間となるべく努力していこう。



「……へぇ~~~~~~」


「なんだその舐め腐ったような返事は」


「いえね? うちのお父さんも”今度こそ酒を止める!”って宣言した事が何度かあったんですけれど、その時と同じ顔つきだなぁと思いまして」


「……」


「ピカ太さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!? 本当にできるんですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ暴力を封じるなんてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!? どうせ口だけじゃないんですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!? そんなツヨツヨなメンタル持ってましたっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!? 意志の強さにご自身がおありですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!? ピカ太さんぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!?」


「……(イラァ)」


「おっとぉ!? 早速今、イラァっとしましたねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!? お顔に書いてありますよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!? でもノンノォォォォォォォォォォォォォォォォン! 怒っちゃ駄目ですよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!? だって怒りに身を任せたらピカ太さん関節技かけちゃいますもんねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!? 暴力は禁止ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ! 禁止ですよピカ太さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん! その辺りぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ! ちゃんと守ってくださいねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!? なにせ自分で決めたルールなんですからぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! ご自分で言った事くらいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ! ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんと守らないとですよねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!? いい大人なんですからねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」


「……(殺意)」


「おっとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!? 今感じましたよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!? いわゆる殺気というやつをぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!? いいんですかそんな抜き身の感情を露わにしてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!? できませんよ自重ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!? ホラホラホラホラホラホラ~~~~~~~~~~~~~心を静めて落ち着いてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!? ピカ太さん頑張れ~~~~~~~~~~~~~~~クソ雑魚なメンタル鍛えてこ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!?」



「……」


「お! いい感じに引いていきましたよ殺意がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!? やればできるじゃないですかやればぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! その調子で頑張ってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! 一生懸命生きていってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」





「ムー子」


「はひ!? ご、ゴス美課長!? い、いつの間に背後に……」


「お前、何をやっている?」


「え? いや、ちょっとガンジーに憧れるピカ太さんの応援を……」


「……お前にやってもらう仕事ができた。今すぐ部屋に来てちょうだい」


「え? あ、いや、私、動画編集が……なんか、そこのご飯も食べてほしいってピカ太さんに頼まれましたし……」


「あぁ!?」


「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃすみませぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん! すぐに向かいますぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」


「だったら早くしろやボケゴラァ! 来いカスゥ!」


「か、髪の毛掴まないでくださぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい! 自分で! 自分で歩きますからぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」



 ……




 ……危なかった。危うくコジ・クラッシュ・ダイナマイトでムー子の頸椎をへし折るところだった。

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