サキュバス、アルパチーノとロバートデニーロの不仲説を聞いて思わずオレンジを口に含みました10
気は進まんが止むを得ん。仕方ない。我が家系の恥部を白日の下に晒すか。
「……親父が会いたいって言ってたから、それを伝えにきたんだと」
「……は?」
「だから、親父が会いたいらしいんだって」
「誰の父親が誰にです?」
「この話の流れで俺と俺以外の父親の話になったら逆におかしいだろ!」
「すみません。言葉の理解はできたんですが意味がちょっと……なぜわざわざ伝言などを? 別に直接会いにくればいいじゃないですか」
「俺もそう思う。ただ、あいつはそうではないんだろう。大方、下の人間が手土産持ってやって来るべき。みたいな事を考えてるんじゃねーかな。あいつカスだし」
「発想が昭和のそれじゃないですか。それでよく父親やってこれましたね」
「やってねーよ?」
「え?」
「あいつ、俺が子供の頃に女作って出てったんだよ。それ以来一回も会ってない」
「なるほど思い出しました。ういえばご実家にお邪魔した際にそんな話をされてましたね。ちなみに、子供の頃というのは幾つくらいの時なんです?」
「さぁ……記憶ないから分からんけど、小学生くらいの時じゃねーかな」
「え? 記憶がない?」
「あぁ。なんか、すっぽりと子供時代の事が抜けてんだよ。ゲームしたとか漫画を読んだとかアニメを観たとかガンプラを組んだとか、そんな事は覚えているんだが……実はピチウとの生活もちっとも覚えてないんだ」
「……ピカ太さん、口振りからするにお父様の事、嫌いなんですよね?」
「あ? あぁ。顔も見たくない」
「でも、お父様との記憶はない」
「あぁ」
「それで、何故そこまで嫌っているのです?」
「何故って、そりゃお前、家庭を捨てた人間だからに決まってんだろ」
「でもピカ太さん、父親の記憶ないんですよね? 会ってもいない肉親の事を、そこまで嫌えますか普通?」
「まぁ、お母さんが色々言っていたからな……」
「それでも、話した記憶もない自分の父親に対して尋常じゃない拒否感を抱くものでしょうか」
「さっきからなんだ? 言いたい事があるのであればはっきりと言ってくれ」
「……ピカ太さん。ピカ太さんって、本当にピカ太さんですか?」
「……哲学?」
「真面目に考えていただけると」
「いやお前、今日日中学生でもそんな質問鼻で笑うぞ」
「重要な問題です。改めて申し上げますが、真面目に考えてください」
「……」
真面目につったってなぁ……そんな自我だの存在証明だのなんだのといった話題に意味があるとは思えないし、なんならデカルトが答え出してんじゃねーか。俺がこうして考えている事で俺は俺である証明ができているってさぁ。即ち……
「俺は俺だ!」
Q.E.D完了! これで終わり!
「……本当にそうでしょうか?」
「なんだよ。食い下がるじゃねーか」
「……ピカ太さん。今回の騒動って、元はピカ太さんのお父様から端を発しているわけじゃないですか」
「そうだな。恥ずかしながら」
「で、こちらは推測の域を出ませんが、ピチウさんも関連している可能性もあるわけですよ」
「まぁ、証拠も何もないが、可能性としてはあげられても仕方がないな」
「それで、渦中のピカ太さんにおいてはお父様の事を知らないし、きっとピチウさんとの思い出もないわけです……これって、作為的なものを感じませんか?」
「……つまり、お前はこう言いたいのか? 俺の幼少期の記憶が、今回起こった一連の騒動に密接に関わっていると」
「はい。更にいうのであれば……」
「言うのであれば?」
「これは、あくまで私の想像ですが、恐らくピカ太さんは……」
「俺は?」
なんだよ、焦らすじゃねーか。俺がいったいなんだというんだ。
「ピカ太さんは……」
「やめて!」
うわぁ! びっくりした! 誰だ突然絶叫を響かせる奴は……
「……ピチウ」
「……ピカ太お兄ちゃん」
「どうしたんだ、急に大きな声を出して」
「……」
「おいおい、なんだ? 大丈夫かお前? 震えてるぞ?」
「……! こないで!」
「……ピチウ?」
「……!」
「あ、 おい!」
逃げた!? なんで? いや理由はいい! とにかく追おう! っとぉ? 手が捕まれている!? これは……
「離せゴス美! ピチウを追いかけなくては!」
なんのつもりだ!? 俺の邪魔をするな!?
「駄目です」
「駄目な事あるか!? ピチウが出ていったんだぞ! また阿賀ヘルが来るかもしれない! 急いで連れ戻さないと!」
「……ピカ太さん」
「くそ! おい! 離せよ! いい加減にしないと殺すぞ! おい!」
「……」
……!
玄関の音! ピチウが出ていった! クソ!
「てめぇ! どういうつもりだ!? 事と次第によっちゃ本当に殺すぞ!?」
「ピカ太さん。お気持ちは分かりますが、まずは冷静に……」
「お前に分かってたまるか俺の気持ちが! ピチウは俺の妹なんだぞ! 俺が守ってやらないでどうするんだ!」
「……」
「ピチウは俺が守るんだ! じゃないといつまで経っても泣いてばかりなんだよ! そうだ! ピチウは! ピチウはなぁ!」
「いい加減にしろこのカス!」
「!?」
「テンパって迷走してんじゃねーよボケか! 状況考えろ! このタイミングであいつが出てったて事は十中八九黒だろうが!」
「だ、だったらなおの事ここで捕まえて話を聞いた方がいいだろうが!」
「間に合わなかったから止めたんだよ!」
「そんな事分かんねぇじゃねぇかよ! なんでお前にそんな事が分かるんだよ!」
「も~~~~~ うるさいですねぇ!? なんなんですか朝っぱらから! 私、今日は気持ちよく起きようって決めてたんですよ? すべてが台無しじゃないですかぁ」
「ムー子! テメェは引っ込んでろ!」
「え? なに? 突然のハブ!? ちょっと仲間外れやめてくださいよ! 私も仲間に入れ……ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
なんだ!?
……霊波でショックを与えられたのか。札を使った人感攻撃……これは……トラップ!?
「だから言ったでしょう? あそこで追いかけても追いつけないと」
「……」
「ともかく、一旦冷静になって諸々考えましょう」
「……あぁ、分かった」
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