サキュバス、諸行無常の響きを奏でました17

「まぁでもいいです。私は真理を得ました。能ある鷹は爪を隠すといいますが、その古式ゆかしいスタイルではもはや戦えない。現環境ではマウント殴りがつよつよ! できる女アピールをしっかり行うイキリ系有能社員が人権なのです!」


「まぁ今日日個人の主張や意見は尊重される傾向にあるが……」


「そうでしょうそうでしょう! よってこれから私は全力で全知全能を行使しテキパキ仕事してやる事やったらさっさと帰るバリキャリ方式を採用していきたいと思います!」


「そうか。頑張れ」


「えぇ! 頑張りますとも! この特別天然可愛い記念物である島ムー子が本気を出せば課長部長と出世街道駆け上り社長島ムー子として初芝を牛耳ってやりますよ!」



 今相談役やってるらしいぞシマコー。正直読んだ事ないから話の内容は分からないんだけどあれだけ長期連載続けてるって事はきっとゴルゴ並に面白いんだろう。今度機会があれば読んでみるか。それよりお前、出世とか言ってるけど絶対ヒラの方が楽だからな? マネジメント職舐めんな?



「とはいえ、腹が減っては戦ができぬ。です。まずは食事と洒落こみましょう。さ、丁度いいタイミングでお目当てのバーガー屋に辿り着きましたよピカ太さん。大丈夫ですか? 注文は決まっていますか? バーガーはファストフードですからスピードが命ですよ? 店に入って、”えぇ~~~~どれにしよっかなぁ~~~~~~~~~どれも美味しそ~~~~~~~~~”なんてぼやぼやするようなクソ女が如きムーブかましたら即刻出禁ですからね? 勝負は一瞬。カウンターの前に到着したら即座に詠唱を開始しなければなりません。これはバーガー屋に限らず全てのクイック料理店に通じます。ちなみに私クラスになるともはやソラでスラスラと注文ができちゃいますからね。牛丼屋なら”ねぎだく頭多めギョク”だしラーメン屋なら”麺固め油少なめニンニクマシ野菜気持ち多め”です。仕事ができる人間は全てがルーティン化しているんですよ。そういえば昔リンゴの社長も言っていました。選択すると脳のリソースが食われるから日常生活では服も食事も毎日全部同じにした方がいいと。つまりはそういう事なんです。分かりますか理解できますか脳までしっかり届いてますかピカ太さん。このシマムー流できる女の生活術が?」


「すみません。ハニーチーズモーニングのハッシュドポテトセットを一つ。ドリンクはコーラで。あ、コーラダイエットしかないの? じゃあジンジャエールでお願いします」



 ダイエットコークは人口甘味料の味がして嫌いなんだよな。



「ちょっと! 人がせっかくためになる話をしているのになんで先に注文してるんですかピカ太さん!? おかしいでしょう!?」



 あ、なんかようやくムー子が入店してきたな。



「あぁすまん。てっきりイマジナリーフレンドと話してるのかと思った。お前アンパン遊びとかしてたし」


「だから~~~~~~~~~~~してませんってそんな品のない事は~~~~~~~~~~~~~~~まったく~~~~~~~~なんど言えば分かっていただけ……」


「いらっしゃいませお客様~ご注文はお決まりでしょうか~」


「は! しまった! ついカウンターの前に立ってしまった……え、え~~~~~~~と……」


「あ、申し訳ございませ~ん。まだお決まりではございませんでしたか~失礼いたしました~」


「あ! いや! き、決まってます! この島ムー子が決まってないわけないじゃないですか! え、え~~~~~~~っとですね~~~~~~~~~~? あ、パ、パンケーキとミルク! それとグリーンサラダにトライアングルショコラパイです! はい! それらをプリィィィィィィィィィィィィィィィィズ!」


「はいかしこまりました~ではご注文を繰り返させていただきます~パンケーキとミルク。グリーンサラダにトライアングルショコラパイ。以上でよろしいでしょうか~?」


「オーイエス! ザッツライ! パーフェクト! テンキュー!」


「Thank you too. Please wait a moment and we will send you a number tag. And you're very noisy, so keep it down, you slutty bitch.OK?」


「お、おーるおっけー!」



 英語に対して完全に及び腰になっていやがる。典型的な日本人のアクションだな。まぁ俺も英語で話しかけられたらキョドると思うけど。

 それはともかくとしてムー子お前、その注文でいいのか?



「お前、なんか別のもん食べたいとか言ってなかったか?」


「き、気が変わったんですよ! ほら! ここまで長かったじゃないですか! その間に得た経験が私を変えたのでしょう! そう! 成長! 成長です!」



 片道約一キロ。時間にしておおよそ二十分(休憩込み)の道程でどのような変化があったかは知らんが、ま、健康志向になったのはいい事だ。完全に頭真っ白な状態で目についた商品片端から注文してただけだろうけど、まぁそんな朝食があってもいいだろう。



「ムー子」


「な、なんですか?」


「美味しいといいな。パンケーキとミルクとグリーンサラダとトライアングルショコラパイ」


「……」


「ちなみにこのバーガーショップのミルクはアンパンの紙パックで出してくれるんだ。俺も子供の頃に連れてこられた時は必ず注文していてな。いやぁいい思い出だよ」


「……」


「まぁ、不味いって事はないから、健康的な朝食を堪能してくれ」


「……」



 朝食らしいといえばらしい組み合わせだし、ニューヨークかどうかは知らんが、少なくともアメリカンな気分は味わえるだろう。良かったなムー子。夢が叶うぞ? ……ん?



「……うぅ……っぐっぐっぐ……」


「? どうした? ムー……」




「うぅ……うわぁぁぁぁぁぁぁん! えっぐ! ひっぐ! ヴェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェン!」



 うるさ! こいつ店内でマジ泣きしやがった!



「私ばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 今日の朝食はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 甘じょっぱいフワフワしたやつって決めてたんですぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ! それをピカ太さんのお金で食べるってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! 決めてたのにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ! なのになのぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ! こんな……えっぐ! ひぐぅ! こんな事ってありますかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! びゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」




 うわぁ気持ち悪い……というかそれよりも周りの目~~~~~凄い注目の的~~~~~~~~~~勘弁~~~~~マジ勘弁~~~~~~~~

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