サキュバス、合コンって言葉が死語になりつつあるって事に時代の流れを感じざるを得ませんでした2
「というわけで店長。服を買いに行こう」
「え? 何故?」
「本日の会食はねぇ。ドレスコードがあるんすよ」
「タキシードですよ?」
「今回はラフ&カジュアルが正装となっているので」
「え? じゃあこのタキシード腕まくりして、ボタンも外して、で、ちょっとボロっとさせれば”そういうコーディネートかぁ~~”ってなるんじゃないですかね? ダブルオー二期の最初に出てきたエクシアみたいでかっこよくないですか?」
「ならない。かっこよくない。さ、行くぞ」
「えぇ~~~~~~~~~」
最後まで全力で抗おうとするそのガッツは素晴らしいと思うがさっきから伊佐さんと不破付さんの視線が怖いのだ。有無を言わさず連行させてもらう。さ、腕を引っ張ってっと、なんだこのタキシード、結構上等に仕立ててあるじゃないか。さすが特注品。そんなものを着てくるな。
「あ、輝さん。どうせ買うなら普段使いできるような楽なものがいいんですが……」
「との事ですが伊佐さん。いかがでしょうか?」
「全然駄目ですね。三さんあなた、少しぽっちゃりしていますけれど元はいいんです。しっかりとした服に着替えて万全の態勢を整えましょう」
「馬鹿を言わんでください。万全というのであれば、今着ているこのタキシードこそがそうでしょうが。なぁんも分かってねぇのな。お前ら」
「なるほど。確かに店長の言う通りかもしれん」
「輝さんは悪ノリしないでください!」
結構マジなトーンで怒られてしまった。意外と冗談に対して厳しい人だな伊佐さんは。根本的な人格はファンキーでロックなのに。
「いいからさっさとしてくださいよ。あんたがそんな格好だと落とせる女も落とせないんですから」
不破付さんが露骨にイライラし始めて敬語を忘れ始めたぞ? お前そんなにこの日に賭けてたのか? 普段Vがどうのこうの言ってるくせにしっかり三次元でも満たされようとしてくるその強欲さよ。その分推し活に仕え推し活に。
「人のせいにしてはいけませんなぁ。女を口説けるか口説けないかは己の力量でございましょう? 私がどうだろうと、ご自分がしっかりと狙いを定めて行動すればよいではありませんかぁ」
「場の空気が悪くなるんだよ馬鹿がいると! カツ・コバヤシが独断専行して戦局ぶっ壊したのと同じだよ!」
お? これは的確な例えな気がする。不破付さん、今時の限界オタクかと思っていたらガンダムもいけるのか。まぁガノタから悪く言われているカツも今見ると理解できるところもあるんだけどね。悪いのは戦争だよ。子供が戦っている方が異常なんだ。それを無視してカツばかりを非難するのは大きな間違いであろう。それを鑑みずに一方的にカツを叩くような奴は修正対象であるが、今回の不破付さんはあくまで戦況の悪化という結果のみに絞って言及しているためセーフ扱いとする。
「むぅ……そう言われると、正しくしなくてならない気がしてきましたな……仕方ない。今回は着替えを買う事にしましょう」
「最初から素直にいう事を聞け!」
もっともである。
個人的には面白かったからいんだけど、殺気立つ不破付さんと伊佐さんの前では口が裂けてもそんな事言えない。みんな存外気にするもんなんだなぁこういうの。でもまぁ、店長とムー子を置き換えると確かに俺もムカつくわ。殺したくなるわ。絶対街中でアンクルホールドかます自信あるわ。あ、というか店長、お前、懐具合大丈夫なのか?
「店長、金あんの?」
経営者とはいえ零細もいいところ。第一あのカフェ、低価格設定の割に機材揃ってるしプラモの在庫もあるから利益なんてないんじゃないのか? 大丈夫か店長。
「なぁに。それくらいの余裕はございますよ。幾ら払えばいいんです? 五万ですか? 十万ですか? あの子の心は金で買えますか? 買えます! 困ったら現金払い! 金は全てを解決してくれる……」
大丈夫そうだわ。大丈夫ついでに下衆な事言ってるわ。
「あ、三万くらいで大丈夫です。今回はあえてタイトなコーデをしていきましょう。肥満体を隠すためにビックシルエットの服を着ると逆にだらしなく見えてしまう事がありますからね。デニムと厚手のシャツ。それとジャケットを羽織る感じで」
「あぁ。日本に来たインド人みたいな風貌にするんですね?」
「間違ってはないです」
間違ってないんかい。
「じゃあこれとこれと……あ、これもいいですね。ついでにベルトも新調しましょう……はい! 合計金額ドン! 五万八千円! まぁまぁですね!」
「あんた三万つってませんでした?」
「臨機応変にいきましょう! 金は出すって言ったんですからケチケチしない! さ、ファスティングルームで着がえてください! 問題なければそのまま会計して待ち合わせ場所へ戻りましょう!」
「タキシードはどうしましょうか? 持っていっていいですかね?」
「んなもん捨てていいでしょう」
「駄目駄目駄目! 何考えてんですかあんた一点ものですよこれ!? ジオンの魂が入ってるんだから!」
「今はジオンよりナオンでしょ!」
ナオンてお前、神聖モテモテ王国くらいでしか聞いた事ない単語をよう平然と使うな伊佐さん。業界だと普通に出てくるようになるもんなの? さすが一線級の人は違うなぁ。
「コインロッカーに預けたら?」
「ナイスアイディーア」
はい解決。不破付さん。目の付け所が違いますね。
しかし……
ワイワイ
ガヤガヤ
……なんだろうこの、青春感……今まで友達いなかったから分からないけど、高校とかって普通、こんな感じなのかな……なんか感動。俺、初めて人間と一緒にいて、楽しいって思えたかも……もう女なんて無視して四人で飲みにいかない? それでよくない? 俺達皆でガンダムとか語らない?
「よーし! これで万全! 自分今日、朝帰り予定なんでよろしくぅ!」
「実は僕、既にホテル取ってあるんですよね」
「夜の星一号作戦始動ですな」
……駄目そうだな。
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