サキュバス、狙ってる男の妹と同居しました10

 券売機前。列から外れて説明開始。


「ほら、ここでSuicaを買うんだ」


「スイカ?」


「……改札通る際にこれでタッチすると切符の代わりになるんだよ」


「へぇ! テクノロジー! お金はどうするの!?」


「チャージするんだよ。今から買い方と金の入れ方教えてやるから見とけ」


「はぁい」



 列に並んでペンギン行進。約二分で到着。幸いにして後ろに並んでいる人はいないから多少時間がかかっても大丈夫そうだ。



「はい、このタッチパネルで購入を押して……」



 数ステップで購入完了。昔は券売機で買えると知らずわざわざ窓口で買ったもんだ。あの時は嫌な顔せず対応してくれてありがとう駅員さん。



「で、次はチャージだ。まずチャージボタンを押して、金額を選択。で、出てきたカードを挿入して金を入れると」



 今回は奮発して一万入れてやる。無駄遣いするなよ?



「……ほら、これがお前のカードだ。現金と同じ扱いだからなくさないように」


「ありがとうピカお兄ちゃん! でも一万円分も電車乗るかな?」


「どうせすぐなくなるよ。あと、コンビニとか飲食店とかは一部Suicaで支払い可能になっているから、忙しい時間や小銭がないお時はSuicaで払った方が楽だぞ」


「へぇ! テクノロジー!」


 クレジットカードと連携させてポイントを獲得したりスマフォと紐づけたりするテクニックの説明は控えておこう。



「ところで、マリとプランはチャージしなくていいか?」


「私達はゴス美お姉ちゃんのクレジットカードから引き落とされるようになってるから大丈夫だよ」


「ゴス美様からは大変なご好意をいただき日々痛み入っております」


「……そうか」



 小学生にクレカ消費させるって怖くないのかゴス美。まぁマリとプランなら安心な気がするが、もし俺が小学生の時にそんな物持たせられたら散財に次ぐ散財であっという間に家計を火達磨にする自信がある。多分プラモとゲームと漫画に消えるし、今の時代にいたら確実にSteamと各作品のDLCを買い倒すと思う。実物見て買いたい派だけど、ゲームなら迷わずデータで買うだろう。俺はそういう人間だ、間違いない。

 ……冷静に考えると現代って手軽にはなったが恐ろしい世の中だな。よかった、この時代の子供じゃなくて。



「便利ってのも考えもんだよなぁピチウ」


「え? なに急に。やめてよピカお兄ちゃんそんな事しみじみ言うの。中年の男の人みたいだよ?」


「……」



 手厳しい!



「ねぇお兄ちゃん! 早く電車乗ろ!」


「あぁ、そうだな。じゃあ行くか」



 妹の苦言に怯んだが立ち止まっている暇はない。今日という一日は二十四時間しかなく尊いのだから。

 睡眠時間を考慮すると自由に使える時間は凡そ四分の一。正味十八時間の中でやりくりしなくてはならないのである。あぁ、子供の頃は無限に感じた時間であったが大人になってみると刻々と迫る人生のENDに怯える日々。今日は何かしないと。この時間を使ってやりたかった事を消化しないと。などと焦るばかり。あの頃の余裕は何処へ行ってしまったのか。カムバックゆとり! 俺は今焦燥しきっているぞ! まぁ子供の頃の記憶なんてほとんどないんだけどね。


 はい、そんなわけで改札通過し電車に乗車。ガタンゴトンと揺られて到着。降車し改札通過! 来ました都心部! いやぁ! おっきいね! 



「わぁ凄い! 駅だけでこんなに広いんだ! なんだかテーマパークみたい! テンション上がるねぇ~」


「そうだろうそうだろう。ちなみに目的地の百貨店は駅と連結してるからすぐに行けるぞ?」


「へぇ! テクノロジー! 便利だねぇじゃ、早速行こうよ!」



 それはテクノロジー関係ないだろ。



「……休日で人も多いからはぐれるなよ? もしはぐれたら即刻スマフォに連絡いれるように」


「はぁい。じゃ、まず家具見ていい?」


「あぁ」


 そんなわけで百貨店へ入店。五階の家具屋に移動。あぁ人混みが面倒だ! 敷地は広いが人が多くて面積が狭い! クソ! いつぞやに大阪行った時も駅直結の商業施設で凄まじい人流に呑まれたんだよな。都心部ってのはこういう事があるから本当は休日に訪れたくはなかったんだよ。エスカレーターも渋滞するし……エスカレーターももっと広くすればいいのにな。そうすれば片側は歩く用だから立ち止まらないなんてわけの分からんマナーもなくなるだろうに。まぁ埼玉で禁止になったから多分その内全国的に規制は入るだろうけど。




「お兄ちゃん。五階着いたよ! 私卓上ライト見てきていい!?」


「はいはい……お店で騒がないようにな……」


「はぁい! じゃ、行こうプランちゃん!」


「はい。それではピカ太様、ピチウ様。少しばかり見てきます」


「気を付けてね~~」



 昔から疑問だったんだけど卓上ライトってあんまり使用用途なくないか? 何か見るなら電気付けっぱでいいのにな。だがまぁそういうのに憧れる年代ってのもあるか。俺もわけもなく懐中時計を持っていた時期もあるし。



「お年頃だね~マリちゃんも」



 ピチウもマリの厨二を汲んでくれるか。そうそう。やはりこういう時期は、生暖かく見守ってやるに限るな。



「そうだな。でもそういう時期ってのは誰にでもあるんだ。例え無用の長物であったとしても、欲しいものは欲しいしな」



「え? 何言ってるピカお兄ちゃん」


「え? なにが?」


「何って、ライトの事」


「うん? なんで? なんかカッコいいから欲しいみたいな理由じゃないの?」


「……マリちゃん、多分メイク用のライトが欲しいんだと思うよ?」


「メイク?」


「そう。化粧する時、明かりがあった方がやりやすいから」


「……知らなかったそんなの」


「ピカお兄ちゃん、本当に駄目だね」


「……すまん」

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