サキュバス、狙ってる男の妹と同居しました9

 気を取り直して駅へ行こう。最近定期が大活躍。移動の金が会社で落ちるってのは素晴らしい制度だね交通費。あれ? 私用は駄目なんだっけ? 知らん。まぁえぇやろ。ほら、そんなつまらん事を考えている間にホームステーション。最近いつも見るな駅。まるで撮り鉄にでもなったような気分だ。まぁ俺はあんまり電車には興味ないんだけどね。あ、でも貨物車両は好きだな。あの武骨なデザインと重量感、堪らないよね。たまに見る赤いリックディアスみたいなのもいいよ。ダサかっこいいってあぁいうのだねあぁいうの。同じ理由でサンダーバードも二号が推し。そうそう、サンダーバードといえば二千二十二年に完全新作サンダーバードGOGOが放送されるね! これに伴ってBSで庵野監督が編集に関わったシン・コンプリート・サンダーバードが放送されるらしいからやはり衛星チャンネルの契約をした方がいいかなぁと思う今日この頃! どうしよう! サブスクで事足りるけどリアルタイムの感動ってやっぱりあるから前向き検討かな!

 まぁ俺サンダーバード観た事ないんだけどね! でもそれ故にいったいどんなストーリーなのか気にはなってきている。概要みたいなのは知ってるんだけど、やっぱり百聞より一見だからねそういうの。




「……ピカお兄ちゃん」


「……」


「ピカお兄ちゃん?」


「……」


「ピカお兄ちゃん!」


「……あ? なんだピチウ?」


「なんだじゃないよ! 何度も呼んでるよ?」


「あぁそうなの? すまん」



 サンダーバードの事考えてたってのは黙っておこう。



 「まぁいいけどさ……それよりも、凄いね駅。大きいね」


「あ? あぁ。区や中核市を除けばそれなりの規模だな。確かに」


「え? それなり? これ以上の駅があるの?」


「……お前、ドラマで新宿駅とか梅田駅とか観た事ねぇの?」


「私、テレビ観ないもん」


「……じゃあなんでミヤネ屋知ってたんだよ」


「お母さんがしきりに言ってたからねさ。それにしても、これでもそれなりなのかぁ……ねぇ! これから行くところはもっと大きい!?」


「まぁ、ここよりは……」


「へぇ! 凄い! さすが都会だね!」



 ……よかった。なんだかんだで驚いて楽しんでくれてる……一時はジャス子に完全敗北するかもと思っていたがどうやらそんな事もなく、少なくとも好奇心は刺激されているようだ。これで胸を張って駅構内に入れるな。よし、入場、っと。さすがに休日だけあって人が多いな。



「……え!? 電車が五分おきにくる!? なにこれ! 天皇陛下がご通勤でもされているの!? いつでもご乗車あそばせられるようになってるの!?」


「天皇陛下は基本電車にはご乗車あそばせられねーよ……そんなやんごとなき理由じゃなく、どっちかというと奴隷用の処置だよこれは」


「奴隷?」


「働く人間が仕事に遅れると困るからな。だから終電まではだいたいどの時間帯でも出勤が間に合うように設計されているんだ」



 それでも超過密になるし事故で止まったりするんだけどな。



「へぇ。都会って大変だね」


「本当だよ……高い家賃払っても住める部屋はウサギ小屋だし、給料にしたって最低賃金は高いけど物価も高いから相対的に貧乏になる人間も多いし、人口の量に伴って汚れも犯罪も多いし、成長優先だから仕事も大変だし……」


「……そんなに大変なら実家に帰ってこればいいのに」


「それは嫌だ」


「なんで?」


「都会は確かにデメリットも多いが、メリットもあるからだ。考えてもみろ。山奥で新発売のプラモが即時買えるか? 映画見た後グッズを買いに専門店をはしごする事ができるか? 休日する事がなく、”ちょっと街にでも出てみるか”っていって暇潰せる店があるか? ない! あるわけがない! 少なくとも俺の実家は木々と野生動物しかいねぇ! 人里降りてもあるのはせいぜいコンビニかスナックくらいだ! カラオケすらレンタカー屋に併設された店くらいなものだし機種が古い! そんな閉塞された世界に住むくらいなら俺は雑踏とノイズに塗れ汚く生きていきたいのだ! ビバ! 文明!」



 そうとも! 外に出れば狸や猪がこんにちわしてくるような山奥で人間らしい生活などできるものか! 科学の英知による恩恵を受けてこそ人生! あぁメーカー各社よありがとう! 交通会社! 電力会社にガス会社! 水道局もありがとう! おかげで不自由な中快適に過ごさせていただいております! ただし弊社、テメーは駄目だ! 悪徳コーポ滅ぶべし! 



「お兄ちゃん」


「お? なんだマリ」


「お兄ちゃんの言ってる生活って、どっちかというと地方都市レベルの方が適してるんじゃない?」


「……え?」


「地方都市の方が人も少ないし、栄えてる区画が集中してるから移動も楽だし、何より場所によっては物価が安くてお給料いいからここよりは済みやすいと思うよ? 愛知とか福岡がいいんだって」


「……どこで覚えたんだそんな事」


「社会の授業。先生が、”まだ実感湧かないだろうし授業とはあんまり関係ないけど覚えておいて損はないから聴いてください”って言って教えてくれた」


「……いい先生だなその人」


「うん。でも、皆からは暗いとか覇気がないねって言われてるよ。民間出だからって先生の中にもよく思ってない人いるみたい。多摩先生はそんな事ないけど」


「……そっか」


 なにやら闇の部分を聞いたような気がする。というか子供にそんな事察せさせるな!

 まぁそれはともかくとして、確かにその先生の言う通り、比較的生活しやすい地域とうのはあるだろうが、今は無視して電車に乗ろう。人生何がいいかなんて問題の答えなど、軽々に出していいものでもないからな! さぁ出発だ! いざ! 街へ!



「あ、まってピカお兄ちゃん、切符買わないと……」



 ……まずはピチウにSuicaの買い方と使い方を教えてやるか

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