サキュバス、狙ってる男の妹と同居しました5

 それにしてもピチウ直伝の卵焼きは甘いな。家ではしょっぱみあったし、俺が作る時もその通りにしていたのだが、この味は何処で覚えたんだろう。彼氏にでもねだられたか?

 おっと危ない下世話下世話。こんなオヤジじみたセクハラ思想が浮かんできたら要注意。脳が疲れている証拠である。そんな気は全くないが、いや、ないからこそうっかり口をついて出てしまうなんて事も想定しなければならない。ヘレンケラー曰く、言葉には気を付けないさい云々。留めておこう。それにしても米の量が多い……多いなぁ……減らねぇなぁこれ。うん、減らねぇ。



「あ、お兄ちゃん納豆もあるよ? 食べる?」


「いや、いい」



 納豆~~~~~~

 これ以上腹に何か入れて堪るかぁ力士じゃねーんだぞぉ?



「えぇ~~食べようよ納豆~~~美味しいよ~~~~? プランちゃんもそう思うよねぇ~~~?」


「はい。発酵食品は美味しいです」


「ほらぁ~~~~~~? ね、食べよ? 食べちゃお? 納豆追加で蛋白質ゲットしちゃお?」


「……」

 

 なんで? なんでこんなに納豆推してくるの? 最近納豆扱ったアニメとかあったな? 俺の記憶では小林さんちのメイドラゴンでカンナが食べてたくらいしか思いつかないんだが? 

 ……え? もしかして作った? 納豆? それで食べてほしいかんじ? え? マジ?

 確かに大豆茹でて納豆菌付着させるだけでいいとはこの前なんかの漫画で読んだけれども……いやいやまさかまさか。だってお前、三パック百円切るような商品を作りますかって。絶対買った方が早いじゃん。それに自作じゃ味もどうなるか分かんねーし、多分ゴス美が却下すると……いや、教育の一環として容認しそうな感じはあるな……いや、いやいやいやいやまさかまさか。だってお前、なぁ? 納豆だぜ? そんなまさか……いやぁ一周して濃厚な説であるような気がしてきた……え~~マジで~~~? でもそうなるとなぁ……食べないわけにはなぁ……

 ……し、しょうがない……食べるか、納豆。昼食を犠牲にする覚悟で満腹中枢をぶっ壊し、俺は納豆を、食べる……!!


「いただこうか。納豆」


「え? ほんとぉ!? じゃ、はい!」



 既に用意されていたんかい。しかもこれ、普通にパックのやつじゃねーか! くそ! 騙された! しかし、そうなるとなぜ無暗に進めてきたんだ。



「ありがとねお兄ちゃん。賞味期限がねぇ昨日だったんだよぉ。納豆って意外と足が早いね」



 処理係かい! しかも賞味期限切れて。まぁ一日二日過ぎたくらいじゃ特に問題もないんだけど、結晶化してしゃりしゃりするんだよな古い納豆。食感があんまり好きじゃないんだよなぁ食べられない事はないけどさぁ。食べるっていっちゃたから今更どうしようもないけど。あぁ、気が進まない。進まないが、食べるか。



 よい子の納豆の食べ方。


 一、まずを蓋を開けてビニールを除外する。タレが付随しているなら取り出す。

 この時、蓋と本体で挟むようにすると綺麗に取れるぞ。公式推奨の方法なので間違いなしだ。

 二、タレはいったん置いて、混ぜる。ただただ混ぜる。目安は三百回。力を入れないように無心となって混ぜ続ける。

 三、混ぜ終わったらタレを入れて逆回転で数回から十数回混ぜる。

 四、いただきます。うわぁ! ふんわりとしてデリシャス! 君はいままで本当の納豆を食べた事がないんだな。かわいそうに。


 以上、納豆の美味しい食し方である。

 ちなみに三百回まぜるのが魯山人スタイトルといわれているが使用人かなんかが勝手に証言しただけで本人がそう明記、名言したわけではないらしい。そもそも最近の納豆はそこまで混ぜなくても十分美味しいのだから、わざわざこんな手間を掛けなくとも問題ない。え? それを毎日毎日繰り返し繰り返し……なぜオレはあんなムダな時間を……


 

「マリ」


「なにお兄ちゃん」


「俺は納豆を混ぜていたのか。それとも納豆に混ぜさせられていたのか、どっちだと思う?」


「なにそれ? わけ分かんない。情緒不安定?」


「……」



 そうだよな。わけ分かんないよな。俺だって分かんない。でも人生ってわけ分かんないことだらけだと思うんだよ。例えば今の俺がそうだ。なんでどんぶり飯を無理しながら食べているんだよ。フードファイターじゃねぇんだぞ。あぁ食べても食べても減らない。納豆が追加された事により追加ダメージに加えスリップダメージも入ってる気がする。一口食べる毎に胃の圧迫感がやばいやばい。なんだろうこれ、フォアグラ的な? セブンの被害者的なあれ? 俺死ぬのこれ。殺される? そんな、まだ作ってないプラモもいっぱいあるのに……そうだHI-ν。まだ箱も開けてないHI-ν。あれ作んないと死んでも死に切れん! うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! こんなところでまごついてる場合じゃねぇ! さっさよ食べてさっさとお出かけ! そしてさっさと帰宅してプラモ造りを満喫するのだ! やったる! やったるぜ俺は! さぁ掻き込め! 米とおかずを掻き込んでみそ汁と茶で流し込むのだ! できるできる俺ならできる! さぁ食べるぞ! 食べつくすぞ! この膨大な量のご飯を食べに食べ! 物理的に人間として一つ大きく成長してやる!  うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!



 ドン!



「ごちそうさま!」



 やりきった……やりきったぞ! 俺は悪魔的大盛朝定職を完食したんだ! 

 そういえばサクラ大戦でこんなイベントあったな。カンナと沖縄料理食べるやつ。まさかリアルでそんな目にあうなんて思いもしなかったよ。できれば二度と経験したくない。



「あ、お兄ちゃん完食? まだ食べる?」


「い、いらない……満足したよ……」


「そう。よかったぁ。おひつにあるお米空にしたかったから大目によそったんだけど、足りないって言われたらどうしようかと思っちゃった」


「……そうか」



 俺は余りもの処理機じゃないぞ?

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