サキュバス、犬とロリがやってきました8

 おかしい。まず疑うべきは、マリが犬を見に行っていた家の主がこいつだったという事。「へぇ世間は狭いね」なんて能天気が感想で済ましていい事案ではなく、何か裏があると見て間違いない。

 次に、プランがマリと仲良くなっているという事。これも状況を考えればなんらかの策謀があったと考えざるを得ない。奴は俺をリサーチ済みだと言っていた。という事はつまり、現段階における俺の生活環境も把握していると思って差し支えないだろう。マリとプランを引き合わせたのも、奴の差し金に決まっている。


 しかし、ここまで鑑みて繋がらない点が一つ。何故デ・シャンはこんな回りくどい真似をして俺に接近してきたのか。奴はゴス美の上司である。別に何も考えず手ぶらで訪れ、「元気でやってる?」と顔を出せば済むだけの話。俺やムー子に素性を明かさなかったのは性格の悪さ故だろうが、わざわざ娘をダシにしている理由は不明。どんな企みがあるのか、油断はできん。

 


 ……分からん事を考えても仕方がないか。ともかく今は、油断しないように注意しておこう。



「あれ? お兄ちゃん達も行くの? 今日二人でご飯行く予定だったんじゃなかった?」


「予定変更だよ」



 デ・シャンについてボロクソのクソミソに叩き倒してやりたいがプランがいる。子供の前で親を罵倒するなどできるはずもない。



「ぺーはどうしてマリちゃんのお宅にいらっしゃるんですか? 本日は、会社の方の所へ行くと仰っていたのに」


「いやぁそれがね? その会社の方のお家がたまたまプランのお友達の家だったみたいなんだよねぇ。偶然って凄いね」


「なんと奇遇な」




 あってたまるかそんな偶然。しかし、様子を見るにプランは何も知らなさそうだ。こいつ一人で糸を手繰っているのか? だとしたら、自分の子供を利用しているという事になるな。この推察が的中しているのであれば、なんとも悍ましい、邪悪な存在である。ムー子やゴス美と違って正真正銘の悪魔だ。信用できん。



「では、さっそく行きましょうか輝さん。あぁそれと、プラン。シータケはここに置かせていただきましょう。ペット持ち込み可となっている飲食店はまだ少ないですからね」


「それは素晴らしい提案です。しかし、そのためには輝さんの許可を得る必要があるでしょう。私からお願いした方がいいですか?」


「そうだね。頼んでごらん?」



 本人が目の前にいるっつーの。だいたいシータケってなんだ。あ、あの犬か……なんてネーミングセンス。溜息しか出ないな。だがまぁいい。どうせ都合よく犬小屋が完成したんだ。家主不在じゃ格好も付かないし、仮宿的な感じで、その犬を住まわせてやることにしよう。



「私はかまいませんでの、どうぞ、シータケを小屋に入れてあげてください」


「はい。ありがとうございます。助かります。大変恐縮です」



 ……いい加減教科書みたいな会話めんどくさいな。次からは普通にしよう。



「ぺー。輝さん、小屋をお貸しになってくれるそうです。助かりました」


「そうかい。よかったねぇ。ありがとうございます。輝さん」


「なんならあんたも犬小屋に泊めさせてやろうか? 新築だから住み心地はいいと思うぞ?」


「はっはっは! 面白い冗談ですね!」



 冗談じゃないんだがな。



「そんな事より、さ。行きましょう行きましょう。鳥栖さん、タクシーの用意は?」


「既に到着済みのようです」


「さすが、優秀だね。さ、皆さま、参りましょうか」



 そんなわけで会談下りて玄関へっと、いかん。忘れ物忘れ物。


「おいムー子」


「あ、ピカ太さん! 見てくださいよ! 今魔界村二週目に突入したんです! いやぁ私、ファミコン版は初めてプレイしたんですが、特殊武器って一週目でも手に入るんですね。知らずに他の武器拾っちゃってやり直しですよぉ。ま、一度クリアしたステージですから?

 攻略は容易でしょうが?」


「そうか」



 電源OFF



「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


「出かけるぞ。顔だけ洗ってこい」



「出かける? 出かけるってどこにです? ピカ太さん、今日は課長とお二人で食事すると聞いていますが」


「え? どっからその情報仕入れたの?」


「課長ですよ。今日はピカ太さんと二人でご飯食べてくるから冷蔵庫の煮物と酢の物食べとけ。残したら殺す。ついてきても殺す。詮索しても殺す。土産は買ってく。っていう物騒なメッセージが届いたんですよ」


「そうか」



 なんかそういう裏事情知るとますますゴス美が可哀想になってくるな……



「で、どこ行くんですか?」


「お食事会が二人から集団に変更に代わったんだ。デ・シャンも一緒だぞ」


「え? あのうさん臭いインキュバスも一緒なんですか?」


「え? お前気付いてたのあいつの正体」


「そりゃ同じ種族なら気付きますよ。少なくとも、人間かそうじゃないかくらいの区別はまぁ。ところで、あのヒト何物なんです? 結構高位な感じはするんですが」


「位まで分かるんだな」


「えぇ。高位の悪魔は、なんというか気配が濃いんです。ここにいる時は隠してたんで、人間のピカ太さんでは関知できなかったと思うのですが、私はさすがに。あ、でも訓練してる人は分かるかもですね。ピカ太さんのお母さんとか」


「ふぅん。ちなみに位の高い悪魔とお前ってどれくらいの差があるの?」


「ミラージュナイトとちゃあくらいです」



 お前、それでよくフランクにできたな。びっくりだわ。


「まぁともかく、みんなで食事だ。服装はそのジャージでいいから、さっさと行くぞ」


「え、外出するならおしゃれしたいんですが……」


「よし。時間をやろう」


「え!? 本当ですか!? どれくらい!?」


「一秒だ。はい、終わり行くぞ」


「そんなぁぁぁぁぁぁぁぁ! トキメモの伊集院じゃないんですからぁぁぁぁぁぁぁ!」


 知るか馬鹿! タイムイズマネーだ! さ! 行くぞ!

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