サキュバス、歌っちゃいました17

「お願いします! 残り一人なんで! あと一人終わればユーバス・咲さんの出番なんで! お願いだから大人しくしててください!」


「!!」


 デュランのポーズ極めながら左手でOK。非常に珍妙な光景だな。

 それにしても長い。今は確か、大手事務所所属のVチューバーが紹介されてるはずだったな。暇だし観てみるか。


「じゃあ波留ザッパイさんはアニメが好きなんやぁ。どんな作品観るん?」


「そうじゃのぉ。少し前じゃが、ワンダーエッグプライオリティがドストライクじゃったのぉ。少女たちの願いと罪悪感。心の奥の奥で繋がり深まっていく絆。そして最後に決断した主人公の心理。ストーリー的に投げ出しっぱなしな点も否めぬが、青春を描いたジュブナイル作品としては申し分なく、年甲斐もなく少女に帰ったような気持になって視聴できたわ。余も、あぁいう関係の友達がほしいもんじゃな」


「へぇー。友達はおらんの?」


「女王なれば、孤高」



\ ドッ! / アハハハハハハハハハ!



 ……差し込まれる笑い声のSEが癪に障る。

 それはさておき、面白いのかこれ? 媚びた声とアホみたいな設定のキャラ付けで薄ら寒さしかないんだが……

 あとワンダーエッグプライオリティは確かに面白かったけど、こいつの言う通り最後がなぁ……特別編も結局そうなるんかい! って感じだったし釈然としない終わり方だった。でも、なんか仲が良かったのにいつの間にか会わなくなっていったってのは分かる気がする。それぞれ自分の時間があるわけだし、共通の目的がなくなればそりゃあ、ね。ま、俺は友達なんかいないわけだが。 

 ゴス美とかムー子って友達扱いになるんだろうか……嫌だなぁなんか。ゴス美は百歩譲ってそういう関係でもいいんだが、ムー子はちょっと……でも俺との関係を言語化するとなると適当な単語が思いつかないな……そもそも俺はなんであいつを家に上げて一緒に暮らしてるんだろう。出会った日に即ブチ転がして捨てればよかったのに。判断ミスったなぁ。まぁとはいえ、あいつのおかげで衛府亥のハゲを貶める事ができるんだから結果オーライといったところか……お、波留ザッパイのトークと歌が終わったぞ。次はいよいよムー子の番だ、頼むぞ。




「はい。ほんじゃ次。ユーバス・咲さん。お願いします」


「はい。お願いします」


「ユーバス・咲さんはどうしてVチューバーになったん?」


「そんな事より皆さん。ちょっと聞いてくれよ。質問とあんま関係ないけどさ」


「え? ちょ?」


 おぉ始まった始まった。さて、どうなる事やら。



「あのぉ……」



 あ、そうだスタッフの人に説明すんの忘れてた。適当に誤魔化しとこ。



「あ、はいなんでしょう」


「これ、明らかに台本と違うんですが……」


「大丈夫です。彼方はただ自分の仕事をすればいいだけです。後の事は私に任せてください」


「……いや、でもぉ……あ、電話……」


 ガシっ!


「大丈夫です。出なくて」


「いや、そういうわけには……」


「そうですか。じゃあ私が出ますね」


 スマフォを奪いタップ。


「はいこちらユーバス・咲担当マネージャァ! 現在スタッフさんは絶賛仕事中ぅ! 電話受理不可 一昨日かけてきやがれクソぼけぇ!」


「どうぞ。電話です」


「……あのぉ」


「なんでしょうか」


「クビになったら、面倒見てくださいね?」


「……任せてください」



 その時はいよいよ法人化して撮影周りの仕事をお願いしよう。もしくはゴス美に任せるか。あいつも一人じゃ手回らないだろうしな。今回の事でブチギレてなければだけど。

 ま、今はそれよりもムー子の公開暴露放送だ。なんかダカール演説みたいだな。

 


「このあいだ代理店の衛府亥って人の情報聞いたんです。代理店の衛府亥。そしたらなんか不正とかハラスメントとかめっちゃしてるのに罪に問われていないんです。で、よく見なくとも思いっきり前科付くような罪状ぶら下がってて、普通に生きてるんです」


「ちょっと!? ねぇユーバス? ユーバス・咲さん?」


「もうね。アホかと。バカかと。お前な。犯罪犯しといて普通に社会に溶け込んでんじゃねーよ。横領にハラスメントだよ? なんか武勇伝みたいに語ってるし、悪さ自慢か? おめでてーな」


「ちょっとおい! ユーバス・咲! 止めろ! 一旦止めろ! おい!」


「ちなみに証拠はnoteに掲載中! FE.leakで検索! えふ! いー! どっと! りーく! オーケー? カタカナでも引っかかるようにしておいたからジャンジャン検索してくれよな! それじゃ! 一曲歌わせていただきます! 曲名ぇ! ●●●●!」



 ばっかお前勢いに任せて何やってんだ。だいたい放送なんてとっくに止ま……ってない? え? まじで? いいのこれ放送しちゃって? あ、始まった……テロップにスゲー禁止用語出てる……あれ? でもこれ予定してた曲と違うだろ? なんで対応できたんだ? 






 ●●●●

 作詞 ユーバス・咲

 作曲 ピエール出歯亀ゴダイヴァ


 ねぇ、そんな事より私の●●●●!

 ちょっと見ていかないかしら!

 ラビアンローズのラブアンドピース。癖になるでしょ?


 芳しきはチーズ臭。ナポレオンも大好き。ブルーな芳香。

 熟成された色濃い愛のカラーはずっと彼方と色恋楽しくエンジョイさせる事ができるの! (フレーバー!)


 だから! 

 ねぇ、そんな事より私の●●●●!

 ちょっと見ていかないかしら!

 ラビアンローズのラブアンドピース。癖になるでしょ?


 ねぇ! 何よりも私の●●●●!

 じっくり堪能して頂戴!

 タッカ・シャントリエのシャンゼリゼ。通りたいでしょ?


 それが! 私の●●●●!







 ……



 酷い歌だ。酷い歌だが、全部ノーカットでお届けされてしまった。

 こんな曲熱唱して大丈夫か? 確実に地上波では流せないぞ。まん拓の人もビックリな所業だ。



「終わりました! 行きましょうピカ太さん! それにしても! いやぁ気持ちよかったです!」


「あの曲、家で歌うなよ?」



「なぜ?」


「分かれ! おっとおしゃべりしている暇はない! 行くぞ!」


「はい!」


 さぁ逃げるぞ! 脱兎の如く! 

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