サキュバス、歌っちゃいました13
さてスタジオ内。おぉ凄い。広い。凄く広い。広すぎてびっくりする。えぇマジィ? これは広い。広いわぁ。資料で見た以上に広すぎて目が回りそう。え? スタジオってこんなに広いもんなの? パーフェクト広間エントランス。ワールドオブザ広い空間じゃん。広すぎてリトルフィート喰らったのかと思ったわ。いやぁまいっちゃうねもう。
「スタジオこんなに広いんですね。もっと小狭いイメージだったんですが」
言葉を濁さず表現すれば小汚く人一人が歩くのにやっとの廊下といつ寝てるのか分からない関係者やヒッピー風のミュージシャンやいかにもな感じを醸し出すスーツ姿の人間とかいると思っていたんだがどうやら偏見だったようだ。
「ここは一昨年にできたばかりですからね。実はウチも出資してまして、デザインとかにも関わっているんですよ」
「ほへぇ。凄いんですね」
「あと、これは少し自慢なんですが、僕も参加しました」
「ほへぇ。凄すぎますねぇ」
なんか住む世界も見えてる所も違うなぁ。本当にこんな会社と一緒に仕事していいんだろうか。申し訳なくなってくる。
「ふふぅん。まぁまぁ。といったところですかね! まぁ、私はすぐに次のステージに行かせていただくので? 悪しからず?」
「……」
「……」
……
寸勁。
「ぎゃば!」
「余計な事言ったら殺すぞ」
「す、すみません……」
「? どうかなさいましたか?」
「き、気持ちが昂ってしまって、気合いを入れました」
「すみませんねぇ伊佐さん。ユーバス・咲はこういうところがあるので。大目に見てやってください」
「よく分かりませんが、分かりました」
なんとか誤魔化せたな。まったくムー子め、次馬鹿な事言ったらエメラルドフロウジョンをかましてや……あ、嫌な奴がいる。
前方数メートルの距離。ハゲててデカくて趣味の悪いスーツ。あの野郎、喋ってないのにうるさいし態度がデカイ。気に入らん。あ、こっち気付いた。クソ。
「おぉ! 伊佐君に下請け君。今日はよろしくねぇ」
「
「うんうん。しっかり成功させようねぇ。おやぁ?」
「……」
「下請け君。こちらの女性は?」
「……昨日お話しいたしました、ユーバス・咲です」
「あぁ。これがね。ふぅん」
「お初にお目にかかります! 私ユーバス・咲こと島……」
「あ、いいからいいから。そういうのいいから。本当にいいから。君の名前なんて覚えてもしょうがないからね」
「……え?」
「ま、今日はせいぜい他の子の足引っ張らないようにね。脇役は脇役らしく、地味―に頼むよ。どうせ今回だってなんとなくで呼んだだけなんだからね」
「はぁ……え? は?」
「あ、もしかしてあ、勘違いしちゃってた? なら申し訳ないけど、君は売れないから。そういう風にはさせないから。あまり変な期待しないようにね? じゃ、僕は行くから。伊佐君。また後で」
「はい……」
「……」
「……」
行ったか。まったく、相変わらず、絵に描いたように、下品で、下等で、俗悪で、貧相で、性格の悪い、最悪な、愚物だ! な! っと!
「……ピカ太さん。あいつ、
ちょっと言ってる意味が分からないが言いたい事は分かる。なんせあいつは業界でも有名なクソ野郎だからな。言葉を交わせば最後、自身が殺人者になりかねない程の圧倒的Kill欲求が産声を上げるのだ。いやホント、自制できてエライ!
「すみませんユーバス・咲さん。衛府亥さんはあぁいうところがあるので……」
「いえいえ。しかし、何者なんですかあのチャン・コーハンとチョイ・ボンゲを悪魔合体させたようなハゲは」
キムカッファンが泣く程喜んで更生させそうだなそんな奴いたら。
「代理店の偉い人です。GMっていって、本来は管理やマネジメントをやるくらい上の役職なんですけど、終始一貫して現場絶対主義を唱えておられますので、こういう現場にも顔を出されているんですよ」
「へぇ。いい迷惑ですね現場の人は」
「まぁプレッシャーはあるでしょうね。ただし仕事は凄くできるんですよ。なんせノンキャリアで上り詰めた人ですからね。その辣腕ぶりは一部で語り草になってます」
そう。能力は高いんだよ。ただあの上から目線な態度と特権意識。あれだけはどうしても許せん。刺したい。あぁくそ! 嫌な事を思い出した! 昨日だよ! 昨日の会議! 昨日の会議であいつ「あぁ、そのなんとかっていうVチューバー、下請け君とこが預かったの? なら丁度いいや。このイベントね、もう売り出す子は決まってんの。ウチが出資してる企業のサクリファイス子。これで決定済み。後はおまけがちらほらなんだけど、その中でもまぁ人気が出ればッていう感じ。で、まぁ、ここまで話せば分かると思うけど、そっちのは噛ませだから。一応歌わせてはあげるけどそれだけだからね。だから大人しく、おとなぁすぃーく、ね? あくまで添え物。タクワン、キンピラ、ブロッコリーだから、目立たず騒がず、変な事しないように」
「……」
あの時あのウスラボケの顔ときたらまぁ! 何勝ち誇ってんねん。何勝ち誇ってんねん! 何勝ち誇ってんねんゆうてんじゃボケがぁ! くそぁ! あぁイライラする! なんであいつ殺しちゃ駄目なんだろ! こんなにムカつくのに殺人やっちゃ犯罪になるなんて日本の司法制度は間違ってるよなぁ! ベーコン太郎ぉ!
まったくもってその通りなのだ。
ほぅらやっぱり! 俺は間違ってないんだ! ならもう殺すしかないじゃん! あの野郎、内臓全部抜き取って中にクソ詰めてやる! あぁムカつくムカつく! ムカつくパラダイス開園! 殺す!
「……ピカ太さん」
「……はっ!」
おっと危ない。危うく理性がロストして人を一人殺めるところだった。危ない危ない。
「なんだ? 何かあったか?」
トイレの場所か? なら生憎俺は知らないからな。頑張って自力で見つけてくれ。
「ちょっとこちらへ……伊佐さん。すみませんが、少し二人でお話ししてもいいですか?」
「あぁ、はい。かまいません」
「ありがとうございます。では失礼して……」
ソソクサ。
……なんだいったい。
「私、分かっちゃったんですよ。何もかも」
「……何がだ?」
「台本の話ですよ。おかしいと思ったんですよね。あんなこと、本当にやっていいのかって」
「……」
「あれ、ピカ太さんが、あのハゲを貶めるために仕込んだんだんですよね?」
「……そうだ」
「やっぱり」
バレちゃしょうがない。
そう。今回の仕掛けは、あのハゲの青写真を全て台無しにしてやるために俺が独断で計画したテロル。ムー子とゴス美には申し訳ないが、このままやっても対して意味はないどころか、戦略的に意図的なイメージダウンを図られる恐れがある。故に、せめて爪痕は残そうと画策していたのだが、実行する肝心のムー子に知れてしまえば、どうなるかは……
「やめるか?」
「やめる? やめるって? この私が!? ここまで虚仮にされて芋引くってか!? 冗談じゃないわ! やってやらぁ!」
おぉ……なんだ……ムー子が……ムー子がかつてない程やる気に満ちている……
「ピカ太さん! やっちまいましょう! このふざけたイベント、ぶっ壊してやりましょう!」
「……ムー子」
握手。
こいつの身体に手が触れて、初めて不快感以外の感情が湧き出てきた。敵の敵は敵。そう、これは同盟の握手。同じ敵を討たんがための、血の契約なのだ。であれば何を不快に思う事があろうか。俺達の間には今、血を分けた兄弟以上の絆が、一時的とはいえ生まれているのだ!
「やるか……!」
「応!」
さぁ、戦いの始まりだ!
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