サキュバス、歌っちゃいました2

 さて朝だ。あれから結局ムー子のアホは大人しくなったようで騒音もなくぐっすり快眠。今日も元気に六時間睡眠。早朝残業楽しみだなぁ私は貝になりたい。


「おはようございます。ご飯の準備できていますので、座ってお待ちください」



 おはようございますゴス美課長。今日もご飯の準備、ご苦労様です。



「いつも悪いな課長。別に寝てていいんだぞ? 朝食なんざ卵焼きと納豆さえあればいいんだ。自分で準備できる」


「半分趣味みたいなものですので……それに、購入した食材は計画的に消費しないといけませんので、どうぞお気になさらず」



 そうは言うが毎度食事を準備されるのはやはり気が引けるんだよなぁ。美味いし楽だからありがいけど。

 後片付け等は俺が担当する時もあるが、手間が釣り合っているかといえば無論そんなわけはない。何かしらの形で還元で切ればいいんだけどなぁ。今度菓子でも買ってくるか。何が好きかは知らんが、有名店なら外れなく美味しくいただいていただけるだろう。適当にケーキか団子でも買ってみよう。あぁでもマリが食べるとなるとちょっと考えた方がいいな。あいつ粒餡駄目だったし。うーん何がいいかなぁ……



 ドタバタ。


 

 階段を駆けてくる音がする。この時間にこの足音は……




「おはようお兄ちゃん! お姉ちゃん!」



 ご本人の登場だ。早寝早起き。結構な事だ。



「おぉマリ。朝から元気だな」


「うん! ゴス美お姉ちゃんのご飯美味しいから楽しみで!」


「ありがとう。今は成長期なんだから沢山食べなさい。全部栄養になるんだからね」


「うん! ありがとう!」


 微笑ましい光景だ。しかし、人工の身体ってホルモンバランスとか成長速度どうなってんだろうな。全部年齢相応に設定してあるんだろうか。あぁ、そういえば、身体自体は人間の細胞を利用して培養した疑似クローンとか言ってたから、やはり人間と同じような成長を辿るのか。そう考えるとなんか薄気味悪いな……ものすごい冒涜的な存在のように思えてしまう。


「あ、この海苔の佃煮、お姉ちゃんの手作り!?」


「そうよ。市販の物よりまろやかでしょう」


「うん! 凄く美味しい!」




 ……本人が幸せならそれでいいか。人間社会のルールに則していないとしても最終的に守られるのは個人的人権だ。産まれた以上は、マリの権利を侵害する事も存在を否定する事もできん。よって、誰に何を言われようが正義はこちら側にある。異論は認めない。



 ドス、ドス、ドス。



 なんだ、随分重い足取りが聞こえるぞ。



「おはよぉございますぅ……」


 おぉ、ムー子。こんな時間に起床してくるとは珍し……うわ、なんだその顔。


「お前ゾンビみたいな顔してるけど大丈夫か? 隈が濃すぎて歌舞伎役者みたいになってるぞ」


「はい……最初はパワプロしてたんですが、仕上げなきゃいけない動画があるの思い出して、徹夜で作業してました……」


 へぇそれは大変だな。でも忘れていたお前が悪いな。だいたいパワプロやってなきゃ時間取れたろ。完全に自業自得だ。


「なんであんたはやらなきゃいけない事を先延ばしにするの? いい加減学びなさいよ」


「すみませぇん……」



 ゴス美も呆れてるな。いつもの事なのだろう。



「ムー子お姉さんは社会的ルールを一から勉強しなおした方がいいと思う」


 辛らつだなぁマリ。この前の学校乱入事件まだ根に持ってるっぽいな。なんせあれも結構な事件になっちゃったからなぁ。テレビでも放映されたし。


「子供の頃はちゃんとしてたんだけどねぇ……どこをどう間違ったのか……あ、課長、この味噌汁おいしいですね。茄子がいい感じです」


「食べたら動画のアップに取り掛かる事。今月のノルマ、結構厳しいんだからね」


「分かってますよぉ。あ、今日ライブ配信あるんで、夜は消音でお願いしますね」


 ライブか。またスパチャ収入が捗るな。まぁ俺の金になるわけじゃないから、家賃とライフライン分さえ賄えればなんでもいいんだが……そうだ、いい機会だし、ちょっと歌の事聞いてみよう

 

「そういえば、お前いつの間にか歌出してたんだな」


「お? 気づいちゃいましたかピカ太さん。どうでした? 私の美声!?」


「いや、気持ち悪いから聴いてない」


「はぁー!? 気持ち悪い!? 私のセイレーンが如き歌声がぁ!? 気持ちが!? 悪いってぇ!?」


「うるさいなぁ……知り合いのカラオケテープなんて聞いて楽しいわけないだろう」


「カラオケじゃないですぅ! ちゃんと作詞作曲お金払って頼んだんですぅ! スタジオだって借りて収録したんですぅ! 結構大変だったんですよぉ!? まぁ手続きなんかは全部課長がやってくれたんですが」


「へぇ。なんかマネージャーみたいだな」


「えぇ。最近はムー子の活動が軌道に乗ってきたので、私は基本裏方に徹してます。たまにVの方もやってますが、あまり趣味じゃないので」


「まぁ、配信に関していえば私の方が上。ってことですかね? 課長!」


「あ?」


「すみません……」


 なんでこいつすぐ調子のるんだろう……


「あぁそうそう。歌といえば、貴女充てにオファーが着てましたよ。なんでも、Vチューバーだけの音楽配信をやるとかなんとか。受けますか?」


 え? なにそれ。結構でかい案件じゃね? 


「勿論です! いやぁ! 私もとうとう登っちゃいましたか! その高みに!」


「なんか不安だなぁ……おまえ、ふざけた事して炎上とか起こすなよ? 家賃払えなくなったら困るからな」


「大丈夫ですよ! もう巨大戦艦に乗った気でいてください! そして騎乗する私はさしずめ鉄壁ミュラーですよ!!」


「……そうか」


 ミュラーね……バーミリオン会戦で乗った船が落ちまくった事を考えると、随分な皮肉に聞こえるな……

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