サキュバス、受肉の手伝いをする事になりました26

 まずいったい俺がどうして俺が自我を保ち続けている事ができるのか。そこからだろうか。

 マリのいう事が正しければ、俺は特別な感じの存在らしい(実験対象が一人なのでデータとしては不完全だが)。であれば、俺と、その他の人間との差異が何なのであるか探る必要がある。

 まぁ探るといっても割と明確というか分かりやすい。言うまでもなく、母の血。所謂、退魔の血に起因する者だろう。全然関係ないけど最近退魔っていう単語はちょっと良くないイメージついてるよね。なんかもうサキュバス以上にドスケベな印象受けちゃうわ。ソーシャルゲーム出すのは勘弁してほしかったわ。



 話が逸れた。退魔の血筋の話だったな。



 とはいえ、俺だって特別な事をやってきたわけじゃない。そういう訓練をする前に実家を離れ、父親がやってる武道の物真似をしていたくらいだ。懐かしいなぁ。おかげで学校では即番長格張れたっけ。いや、別に好きでなったわけじゃないんだが、力を誇示すればみんな敬ってくれるんだもん。舐められるような生活をするよりは余程快適だったと思う。どこの学校にも馬鹿はいるもんで、馬鹿を黙らせるには暴力に限る。人間も所詮動物。動物は圧倒的暴力の前には膝を屈する以外にない。力こそパワー。分かりやすい構図である。そういう意味ではジェリドの「ティターンズは力だ!」という台詞は共感する部分があるな。もっともあいつは力なく退場していったのだが。


 しかし、俺は何も闇雲に暴力を振るっていたわけじゃない、俺が関節を極めていたのは俺に喧嘩を売ってきた奴か、俺の前で弱者を使役してきた奴らばかりだ。


 待てよ? なんで俺は関係ない人間に暴力を振るっていたんだ? 俺に手を出してきた奴らはともかく、俺以外の人間に対し、一方的に暴力を行使しているような輩は放っておいてもよかったじゃないか。なのに、なんで俺はわざわざ、そんな正義のヒーローみたいな事を……


 思い出した。いじめられている奴らが泣きついてきたんだ。それをきっかけに、次から次へと「助けてくれ」「どうにかしてくれ」とかいう声がひっきりなしに寄せられたんだった。おいおいふざけんなよ? 俺は便利屋じゃないんだ。他を当たってくれと、なぜ当時言えなかったんだろう。諸事情あったのか? いや、そんなもの知った事じゃないだろう。頼まれたからってそんな安請け合いしてどうなるんだ。俺にはなんの特にもならないじゃないか。いったいいつから俺はそんなお人よしの助っ人マシーンになったんだ。おかしい。きっと幼少期にきっかけとなるようなでき事があったはず。よし、もう少し遡ってみよう……そうだ、自意識が芽生え始めてそれ程経っていない時期……三歳くらいか。そういえばお母さんに何やら呪いをかけられたような記憶がある。なんだったか……うん? 思い出そうとするとノイズが酷いな? なんだこれ? まるで人為的に秘匿されているような感じだが、いったいなぜそんな事を……うーむ、分からんが、隠されると俄然気になって仕方がない。よし。ここは集中して、何があったか探ってみるか……目の前には、女……これは、お母さんか? 何かやっているな……儀式? いったいなんの? いかん分からん。くそ、もう少し家業について勉強しておけばよかった……うん? なんか喋ってるな? なんて言ってるんだ?






「……は、……めです……を……よろしく」





 ……分からん。なんて言ったんだ。もう少し、詳しく……
















「見たな!」











!?


 なんだこいつ! 誰の声だ!? いや、分かる……知っている。俺はこいつの正体を昔から覚えている。しかし……







 そうか。分かった。こいつは……















「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」



「! お母さま! ピカ太さんが!」


「落ち着きなさい。あれは、内部から破魔の術が行われているだけです」


「そんな器用な事、ピカ太さんができるのですか?」


「……現にやっているのですから、できるのでしょうね」


「……?」


「……」















 ……




 ……おや? 手が動く。足が動く。身体を司っているという感覚がある。これはもしや……




「ピカ太さん。どうやら自力でなんとかしたようですね」


「……できれば助けてほしかったんだけどな。お母さん」


 思った通りの言葉が口から出てくる。なるほど。どうやら危機は脱したようだ。



「ピカ太さん!」


「ピカお兄ちゃん!」


「お兄ちゃんが」


 おぉゴス美にピチウにマリ。心配かけたな。しかし抱き着くのは勘弁してくれ。豊満な胸が押し付けられて気持ちが悪い。



「もう! 一時はどうなるかと思ったよ!」


「すまんな。俺もまさかこんな事になるとは思わなんだ」


「ピカ太さん。体調は悪くないですか? 薬なら高島屋で買ってきたものがあるので、遠慮せず言ってください」


「大丈夫だ課長。それより、あんたが無事でよかったよ。今回は何から何まで苦労をかけた」


 本当にゴス美がいなければどうなっていた事やら。いやぁ、なんだかんだで中間管理職に就くような人間は頼り甲斐があるなぁ。



「良かったお兄ちゃん! お兄ちゃんがいなくなったら、身体のお金払う人いなくなっちゃうから心配したんだよ!」


 マリよ。お前はいつも正直でよろしい。だけどもう少し人を労ったりする事を覚えた方がいいぞ。でないと将来SNSで晒されて炎上とかしかねないからな。



 しかし全員無事でよかった。これで何の憂いもなく家に帰れ……



「……」



「うっわ! びっくりした! ムー子お前内臓出しながら近づいてくんなよ怖いな!」


「あ、大丈夫です。その馬鹿は私が動かしているだけなんで」


「そっかー課長が動かしているだけかー……うん? サキュバスって、そんなネクロマンサーみたいな事もできんの?」


「……まぁ、追々お話しさせていただきます」


「?」


 よくわ分からんが、ともかくこれで万事解決というわけだ。さぁ帰ろう……マイハウスに……

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