サキュバス、受肉の手伝いをする事になりました20
馬鹿は放っておくとしてブリーフィングだ。何が起こるか分からんからな。事前の打ち合わせは重要だ。
「ではピチウさん。下見したのご報告を」
「はーい。辺り瘴気が霧みたいに漂っていたから、これをレーダー代わりに使用してるんじゃないかって思う。区画の人間がいなくなった事も、私達が来た事も、あと、これから何が起こるかも勘付いているんじゃないかな。それと、建物が完全に乗っ取られてて文字通り魔窟と化してるから、生身で入ったら危険だね」
なんだそれ。特に後半の部分はなんだよ。領域展開? 固有結界? それとも鬼岩城か? いずれにしても勘弁願いたいもんだ。
「まぁ予想の範囲内ですね。して、対策は」
「当初の予定通り、私とお母さんが東西に分かれてマンションごと無力化。その間にピカお兄ちゃん突入してぱっぱと片付ける。やっぱり、それ以外に方法はないかなぁ……」
ふっざけ! おま、ふっざけ! いかん! 安心感が! 心に安心感がほしい!
「はい! 質問!」
「なにピカお兄ちゃん」
「外から援護攻撃とかないの!? ガチでやっても勝ち目薄いと思うんだけど!?」
「厳しいかなぁ。結界張ってる間はあんま動けないし、まぁ、お母さんだったら多少無茶できると思うけど」
マジか!? さすがマッマ! 頼む! 助けてくれ!
「やりませんよ私は。成人した子供の面倒を見る程甘くはありませんから」
駄目だった。くそ。本当に薄情だなうちの母親は。
「でも、ほら、ちょっとくらい、ねぇ? なんか、ミート君みたいに、命の玉投げてくれるとか」
「知りませんよ。自分でなんとかしない。貴方が言い出したことなんだから」
「……鬼ババ」
「何か言いましたか!?」
「いいえ! 何も言っていません」
満足に愚痴も言えんとは、つくづく酷い家庭だ。裁判したら勝てるんじゃないかこれ。
「では、これにて解散。ピチウさん。準備しますよ」
「はーい。じゃあピカお兄ちゃん。私達準もう行くね。三十分後に突入よろしく」
「……あぁ」
まぁそんな事を嘆いても仕方がない。腹を決めよう。
「一応だけど、死なないでね」
「お前も気をつけろよ。何があるか分からんからな」
「ありがとう。でも、お兄ちゃんが一番危ないんだからね。ちゃんと遺書用意した?」
かわいい顔してなんて事言うんだこいつは!?
「冗談冗談。じゃ、行ってくるから、頑張ってね~」
「あぁ……」
ノリが軽い。こっちは命掛かってんだけどなぁ……まぁ妙にシリアスになるよりはましか。気が滅入っても仕方がないからな。
「ピカ太さん。私、お腹すいたんですけど、何か持ってません?」
「なんだムー子。もう復活したのかお前。しばらく鎬紅葉みたくのたうち回っていればよかったのに」
「酷い事言いますねピカ太さん。でも私、紅葉は好きですよ。昂昇との関係なんて完全に兄弟BLでしょ。キュンキュン子宮にきますね」
「どんな目で見てるんだよ……そういえば、なんか、刃牙はBL。みたいな小説がドラマ化するらしいな。悔しいがちょっと観てみたい気もする」
「あぁ、”グラップラー刃牙』はBLではないかと1日30時間300日考えた乙女の記録ッッ“ですね。私もちょっと気になってるんですが、これwowowなんですよねぇ……ピカ太さんのお家、衛星アンテナが……」
「うーむ。サブスクの時代にわざわざ高い金を払って衛星放送を受信するというのは二の足を踏むが、面白い作品であればリアルタイムで観たいしなぁ……」
「せっかくですから入会しましょうよwowow! 月々たったの二千五百三十円(税込み)で入れちゃうんですよ! しかも初月無料!」
「……そうだな。これを機に入るかwowow! よーし! こうなったらアニメなんかも毎日楽しんじゃうぞ! 酒飲みながら適当に垂れ流して無為な週末を過ごしてやろ!」
「そうと決まれば早速契約! 今日帰ったら電話して問い合わせましょう!」
「そうだな! 今日生きて帰ってこれたらな……」
あ、いかん、なんかテンション萎んできた。本当に俺、鬼に勝てるのかな……全然自信ない……
「ちょっとピカ太さん! しゃきっとしてくださいよ! ピカ太さんがいないとBSの契約どころか、家賃だって支払えないんですからね! 私口座番号知らないし持ってないから!」
「うるさいなぁ。どうせ帰れないんなら仕事なんて辞めてこっちで専業主婦にでもなれよ。毎日しごかれるよりなんぼかマシだろ」
「……確かに。確かに確かに! 目から鱗! まさにコペルニクス的逆転の発想! 今まで魔界に帰りたい帰りたいと思っていましたが家事をしない専業主婦になれるのであれば話は別です! 年収億の玉の輿に乗って勝ち組人生を歩むのも全然あり寄りのありですね! よっしゃそうしよ! ピカ太さん! 迷いは晴れました! 心置きなく死んでくれていいですよ!」
知ってる。お前はそういう奴だよ。分かっていたけれど、自分で話を振っておいてなんだけれど、なんだか、今すぐこいつを絞め殺してやりたい気持ちが押し寄せてくる。だが、こんなところで無駄な体力を使うわけにはいかん。よって、口で言って黙らせてやる事にしよう。
「それは結構なことだが、お前、どうやってそんな輩と知り合うつもりだ?」
「え?そりゃあ、SNSとかで……私、そこそこ知名度ありますし」
「お前をフォローしてる人間に、年収億いってる奴いるか?」
「そ、それはちょっと存じ上げないのですが……で、でもほら! スパチャで一万円とかよく投げられますし、いないとも……」
「ふーん……そうそう。実は、最近法人化しようと思ってお前のチャンネルに登録しているユーザーとTwitterフォローしてるアカウントをリスト化していったんだよ。収益の予想立てるために。でな? 投稿とか見てみると、面白い事にみーんな、カード払いに苦しんでいたぞ? 中にはリボ払い続けて失踪したっぽい奴もいたなぁ」
「……」
「見つかるといいなぁ。年収億の男」
「……ピカ太さん」
「なんだ」
「死なないでください!」
「ま、善処するよ」
ざまぁないなムー子。しかし、あのクソ面倒くさい作業がこんな形で役に立つとは思わなかった。人生、何がどこで役に立つか分からんもんだ。
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