サキュバス、受肉の手伝いをする事になりました19

 ……今気が付いたが、凄い高級そうなマンションやビルが立ち並んでいるなこの辺。さすが天下のディペロッパーが開発している上級国民の生息地。俺とは空気が合わない。そこらのベンチなんか見ても、なんか違和感を覚える。うーむ……こういう街って、なんで変なモニュメントとか置いちゃうんだろうな。さっきも金色のピクミンみたいな銅像が立っていたし、コンセプトが意味不明……と、ほら。そう思った途端に妙な物発見。うっわ。なんだあれ。蜘蛛? でかい蜘蛛みたいなのがいる。こんなん夜に見たら怖すぎるだろ。何を目指してるんだこの街は 分からん世界観だ。


「あーマーマだ! 初めて見た! 写メ撮っちゃおぉ!」


「え? なにあれ? 有名なの?」


「え? ピカ太さん母蜘蛛グレートマーマ知らないんですか? 都民のくせに」


「究極完全体グレートモス?」


「母蜘蛛グレートマーマですよ。なんか、有名なデザイナーが子供の頃の母親をイメージして作ったらしいです」


「ふぅん。よっぱど怖い母親だったんだな。ウチみたいだ」


 ウチの場合はドムだったが。



「何か言いましたかピカ太さん?」


「あ、なんでもないでーす」


 なんて地獄耳! めっちゃ小声で呟いたのに!



「はいはい! お母さん! さっきピカ太さんが うちのお袋は蜘蛛みたいだなぁゲヒヒヒ! って言ってました!」


「……」



 こいつ、本当に……



「そう。ところでお前」


「はい! なんでしょうぺんはうわぁ!」


 ムー子がハチの巣にされていく……凄いなサブマシンガン。軍用車といい対物ライフルといいどこで入手してくるんだろう。


「お前に言っておきましょう。一つ。私は嘘が嫌いです。二つ。私は愚か者が嫌いです。三つ。私はお前が嫌いです。以上の事をその足りない脳みそに刻み、今後の処世を考えない」


「ヴぁぁい……」


 辛うじて返事ができるようだがありゃミンチより酷い。回復するのに時間かかるだろう。熊に食われてた時も結構時間かかってたしな。いやぁあの時、ピチウが来なかったら死んでたな……。おや? そういえば、そのピチウの姿が見えないな。



「お母さん。ピチウはどうしたんだ?」


「先に下見に行かせてます。今回は実戦経験を積ませるいい機会ですから、色々とやっていただく予定です」


「なんか不安だな。入りたての美容師に髪を切ってもらう気分だ」


「そう心配しなくとも問題ないでしょう。貴方と違って、優秀ですからね」


「……」


 事実だが耳が痛い。まったく返す言葉も見つからない。とはいえ、まだ成人もしてない妹に頼らざるをえないというのも、情けないというかなんというか……



「あ! ピカお兄ちゃーん!」


 噂をすれば。おやおや。スーツなんて着てからに。ふぅむなるほど。馬子にも衣装だな。ん? あれは……


「お兄ちゃん! こっちこっち!」


 マリ!? なんであいついるんだ? 危ないから部屋で待ってろって言っておいたのに!


「マリ! なんで来たんだ! 遊びじゃないんだぞ!?」

 

 おっとしまったついドラマみたいな事を言ってしまった。これは恥ずかしい。ムー子のアホが死んでてよかった。生きてたら絶対あいつネタにしてきたからな。


「だってぇ私の問題なんだよ? 一人でお家にいたら他人事みたいで嫌じゃん」


「いや、まぁその通りなんだが……」



 正論だが間違っている気がする。しかしその間違いが何なのか分からん。馬鹿だよ俺は。



「いいじゃないですかピカ太さん。この子だって覚悟を決めて来たのでしょう。それを酌んであげないさい」


「そうは言っても、相手はミルコクラスなんだろ? タイマンでも厳しいのに、万が一があったら手が回らんぞ」


「大丈夫ですよピカ太さん。マリは私はしっかり見ておきますから、安心してください」


 ゴス美。ゴス美か……


「……」


「いかがなさいました?」


「あぁいや、すまん。」


 やはり尾を引きずっているな。そもそも、こいつが着いてきているのがまずおかしいんだよな。マリの事を考えているっていう一応の理由は立てられるんだが、合理的かつ無駄を嫌う奴が、戦闘もできないのに修羅場にノコノコ顔を出すかね。本来なら「私は役に立たないので煮物でも作ってます」みたいな感じで留守番してそうなもんだが。そうだ。それにこいつ、ホラー嫌いだったろ。鬼なんて日本のあやかし筆頭じゃないか。平気なのか?


 ……ちょっと探りを入れてみるか。


「課長。お前、幽霊苦手なのに鬼は大丈夫なのか?」


「そりゃあ別物ですからね。私が嫌いなのはあくまで透けてて浮てて冷たくて邪悪な奴です。だいたい、鬼とか妖怪なんてのはむしろ悪魔こっち側の存在ですから、いちいち怖がっていたらキリがないですよ」


「そんなもんなのか?」


「そんなもんですよ。あぁところでピカ太さん。さっきの話の続きなんですが……」


 そうだ。なんか言いかけてたなこいつ。それを聞けば抱いていた不信感も溶けるかもしれん。ここは耳を傾けるべきだろう。


「実は……」


「実は?」


 実はなんだ。早く話してくれ。



「かぁぁぁぁぁぁぁちょぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! ぴぃぃぃぃぃぃかぁぁぁぁぁぁぁたぁぁぁぁぁぁぁさぁぁぁぁぁぁぁん! 置いてかぁいでぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


 こんな時にムー子だよ。本当にタイミング悪いな……ん? うわぁ……あいつ内臓ばら撒きながらこっち来てる……気持ち悪……



「……ムー子」


「はい! なんですか課長! 私はもう元気いっぱいです!」


「空気を読め!」



「げべぇ!」


 丸見えの胃に向かっての剛体術! スゲーな風船が割れるみたいな音がしたぞ。


「あなた達。これから今後についての説明をしますから、遊んでないで早くいらっしゃい」


「はい! 申し訳ございませんお母様!」


 またしてもムー子に邪魔された。あいつ本当に駄目だな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る