サキュバス、受肉の手伝いをする事になりました16
「それでお母さん。鬼の倒し方なんだけども」
とろろを食べながら聞くような事でもないが、さっさと内容を知りたい。
「気が早いですねピカ太さん。その話は食後と言ったじゃありませんか」
「そうですよピカ太さんせっかくの食事なんですから楽しいお話しをしましょうよ。ところでこの乾燥チップは何に使うんですか?」
「それは乾燥シイタケ。とろろをかけたご飯の上にまぶすと美味しくなるからやってみなさい」
「さすが課長! 物知りですね! ではいただきます……うっわ濃厚な出汁が口の中に広がってこれはもうフォン パラディやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁデモオニクタベタイ」
お前の能天気が羨ましいよムー子。あれ? お前肘治ってんの? なんだ存外早かったな。こんなに早く回復するならもっと危険な技を試してやればよかった。よし、次は独歩ちゃんが通り魔相手にやってた”存在してはならない技術”を試してみようかな。楽しみだ。あれ? 俺ちょっとまずい思考してないか? 使っちゃいけない技を使える事に喜びを感じてるって、異常なサディストじゃないか……やべぇ……もしかしてこれが悪魔の心理介入……そうだ、そうに違いない。なるほどコノヤロウ! 俺の心を乗っ取る気だな! 許せん!
「ムー子」
「はい。なんですか? あ、みそ汁にタケノコ入ってる。おいしい」
「お前、後で全身の骨を折るから」
「え? なんで?」
お前は犠牲になるのだムー子。お前の犠牲になった俺のための犠牲……そう、犠牲の犠牲にな……
「お母様。恐れながら、私も早くお聞きしたく存じます。どうか、概要だけでも」
「……ゴス美さんが仰るのであればいいでしょう。それに、そんなに難しい話でもないですからね」
「……ありがとうございます!」
なんで息子の俺より赤の他人の、しかも悪魔の言う事聞くねん。納得いかんな。よし、嫌味言ってやろう。
「そんなに難しい話でもないならミヤネ屋観に行く前に喋れや」
「……どーしましょうかねーせっかくお話ししたい気分だったのに、愚息の一言で興が削がれましたねーこれ。利木、鍋島を用意しちょうだい。ちょっと反抗期の子供に悩まされて、お酒に逃げなきゃ精神的にやってられない感じになってしまったから、今日はもう溺れるように飲んでしまいます」
は? そんなへその曲げ方ある?
「ちょっとお母さん。勘弁してくんない? 軽い冗談じゃん」
「あーせめて謝罪の言葉があれば悩みも幾らかは解消される気がするんですけどねー頭も下げられない子供に育ってしまったてまったく残念でなりませんねー。あ、ありがとう利木。すぐにもう二合出せるようにしておいて頂戴」
おいおい猪口の代わりに升用意してるよ。がっつり飲む気じゃん。勘弁してくれ。
「ピカ太さん。ここはお母さまに謝ってください」
「正論を述べてどうして謝らなきゃいかんのだ」
「正しさは時に誤りになります。理不尽こそ世の理。さ、早く謝ってください」
課長め、妙に説得力のある言葉を吐きやがる。しかしそんな事は言われるまでもないんだよ。こちとら先方の無茶に振り回されて毎日のように「申し訳ございません」を多用してるんだ。だからこそプライベートでは使いたくない。使いたくないが……
「あーこのままじゃ酔ってしまってお話もできませんねー困った困った。いや、困るのは愚息ですねー私は別に何も困る事はないんでしたー」
「……」
「ピカ太さん。早く」
「……」
「お兄ちゃん。謝って。私のために」
「……」
「しゃっざっい! しゃっざっい! しゃっざっい! しゃっざっい!」
「……!」
「しゃ……ごへぇ!」
ムー子の甲状軟骨切断……はできず変則喉輪になってしまった。握力が足りなかったか。これじゃ技として失格だ……
「はー食事の最中だというのに遊び始めましたし、これはもう待っても無駄ですね。私はお酒に逃げます。それではさようなら」
「分かった! 分かったよ! すまんすまん! 俺が悪かった! スマンサタバサ!」
「……」
「……」
「……ピカ太さん、スマンサタバサはないですよ」
ですよねー。
「……すみませんお母さん。調子こいてました。俺が悪かったです。どうか鬼の倒し方教えてください」
俺は悪くないぞ俺は悪くないぞ俺は悪くないぞ俺は悪くないぞ俺は悪くないぞ俺は悪くないぞ俺は悪くないぞ俺は悪くないぞ。仕方なく頭を下げてるだけだ絶対心までは屈しない屈してなるものか今に見てろよ絶対俺は屈しないぞ。あ、いかん。職場のメンタリティになってきた。
「……まぁいいでしょう。許してあげます。しかし、母である私だからいいようなものの、社会ではこんな事通用しませんからよく覚えておきなさい」
「……はい」
んな事はぁ知ってんだよくそ! だけどそんな事言ったらまた謝らなきゃなんねーんだろうな! 腹立つ! 俺も後で酒飲も!
「それでは、鬼退治の話いきましょう。といっても、先ほども申し上げた通り難しい話ではありません。私とピチウが外部から結界を張り鬼を弱体化させますから、後は乗り込んで始末するだけです」
「ふーん。で、俺は何すればいいの?」
「勿論、直接鬼を倒す役目ですよ。よかったですねピカ太さん。吉備津彦命や源頼光に並ぶ偉業を達成する事ができますよ。男子として本懐でございましょう」
「……は?」
お前はいったい何を言ってるんだ。
「よかったですねピカ太さん。これは歴史に名が残りますよ」
「お兄ちゃん凄い! 動画撮ってYouTubeに上げようね!」
いやいやいやいや。馬鹿かお前ら? 不動産屋の姉ちゃんの話聞いてたか? マジでヤバイ相手だぞ? 無理だって。倒せないって。どうしようもないって。
「まぁ、貴方のお父様がいらっしゃれば楽に仕事もできたんですが……あぁ思い出すと腹が立つ! あの男! なんで若い女なんかに! 利木! お酒を 瓶でもってきて頂戴!」
あ、いかん、自分で地雷踏み抜いていったぞこいつ。
「あの、ピカ太さん。お母さま大丈夫でしょうか。一升瓶そのまま飲まれてますが……」
「俺の父親の事を思い出すといつもあぁなるんだ。明日には忘れてるから放っておいてくれ」
普段はしっかりしているのにこういうところがある。駄目な母親だよなまったく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます