サキュバス、受肉の手伝いをする事になりました14

 こんな酔っ払い連中に付き合っていられるか! 俺は部屋で寝る! 襖を開けて一直線! 懐かしき我がマイルームへいざいかん! よし! ついた! オープンザドア!




「きゃ!」





 ドアを開けた瞬間聞こえる悲鳴。なるほどピチウが素っ裸。風呂から上がって着替えの最中といったところか。そんな事はどうでもいい。それよりも部屋の内装だ。一面ガンプラを飾っていたはずなのに、何故、色とりどりのピューロなファンシーに染められているんだ。いかん、見るだけで頭ポムポムしてくる。なんだこれは。俺のグラナダ基地はどうした。


「ちょっとピカお兄ちゃん。せめてドア閉めてくんない?」


 分かった閉めよう。だが、聞かねばなるまい。ピチウ。何故俺の部屋に貴様がいるのかを。そして俺のグラナダはどうなったのかを。


「ピカお兄ちゃんが出ていった後、部屋移ったの。で、私が元居た部屋は衣裳部屋にチェンジってわけ」


 え? なにそれ? じゃあ俺のガンプラは? グラナダ工場は?


「プラモデルは全部捨てたってお母さんが言ってたよ。ゴミばっかり溜め込んで本当に困ったって」


 なんて親だ! 人の部屋を無断で片付けるどころか子供のコレクションまで捨てるなんて! 人の血が流れてるのか本当に!?


「まぁでもピカお兄ちゃんも悪いよ。お母さんの事、痩せたドム。なんて言うんだもん。そりゃガンダム嫌いになってグッズも捨てるよ」


 えードムかっこいいのに。いや、でもドムが痩せたら魅力がなくなるか。それは悪い事を言った。今度は「ドワッジみたい」と言ってやろう。いや、そんな事よりだ。


「なんでお前は俺の言いたい事が分かるんだ?」


「次にピカお兄ちゃんは、ニュータイプか? と言う」


「ニュータイプか? ……は!?」


 こいつ! 完全に俺の心を読んでやがる!? 怖い! 


「なんてね」


「……?」


「今は離れちゃったけど、昔はずっと一緒にいたんだもん。言いたい事くらいは分かるよ」


「そうか? 俺はお前の言いたい事は何一つ分からんが」


 そうそう。こいつは本当に分からないんだよな。妙に俺の私物を使いたがるし、服もお古でいいなんて言い出したりするし。歳も違えば性別も違うのだからそんな事できるわけもないのにな。本当に意味わからん。いやはや、女というのはつくづく理解しがたいものよなぁ。



 ……



 ……そんなわけがあるか。分かるに決まっているじゃないか。

 こいつは昔から俺に好意を抱いている。兄妹としてではなく、男女としてのだ。

 しかしそんなインモラル許されるはずもなく、例え許されたとしても俺には性欲がない。従って、どう引っ繰り返ってもこいつの気持ちには答えられない。残念ながら完全なるミスマッチ。カップルの成立しないねるとんパーティーだ。


 それもあって帰省はしたくなかったのだが、今後は正月に帰らねばならなくなってしまった。まったく面倒な事だ。が、それもマリのため。俺が少し我慢すればいいだけなのだから、安いものではないか。


「今、ピカお兄ちゃんがなに考えてるか当ててあげよっか?」


「?」


「マリちゃんの事でしょう」


「!?」



 こいつ、やはりニュータイプなんじゃないか?



「やっぱり。ピカお兄ちゃんは昔から歳下に甘いんだから」


「そんなつもりはないんだがな。学校ではよく学年下の奴泣かしてたし」


「そうだね。いじめっ子の不音ふおんモル彦君をよくぶってたね。私や私の友達がいじめられてた時に」


「……」


「まぁいいんだけどね。でも、優しすぎても駄目だよ? 身の丈に合わない手助けは、相手だって傷付けるんだから」


「さっきお母さんにも同じ事を言われたよ」


「それだけじゃないよ? 皆に優しくしてたら、嫉妬しちゃう子だって出てくるんだからね」


「そんなもんかね」


「そんなもんだよ。だから、誰でも彼でも優しくしすぎちゃ駄目だからね」


「……胸に留めておくよ」



 それは誰の事を言っているんだ? と、意地の悪い質問をしてしまいそうになったが引っ込める。そんな事を言ったら、きっと取り返しがつかなくなるだろう。「さぁね」なんてしらばっくれてくれたらいいが、そうでなかったら、もしピチウが「私の事」などと告白してきたら、俺は返す言葉と同時に、これまでの関係さえも失う事となる。考えただけで恐ろしい未来。集めて楽しいバッドエンドが用意されているエロゲーじゃないんだ。滅多な事は言わぬが吉。言わぬが花である。変な気が起きんうちにお暇しよう。


「それじゃあ、邪魔した。あぁあと、ちゃんと服着ろよ? 風邪ひくぞ?」


「ピカお兄ちゃんは昔の人だねぇ。風邪は菌やウィルスが原因で、冷えとの因果関係はないんだよ?」


「身体冷えると免疫力が下がるらしいぞ?」


「震えるほど寒かったそりゃ下がるでしょうね。でも、現在の室内温度は二十三度。快適中の快適だよ」


「そうかい。じゃあ好きにしてくれ」


 くそ。論破されて捨て台詞のような言葉を吐いてしまった。恰好悪い。さっさとドアを開けて退散しよう。



「ピカお兄ちゃん」


「なんだ?」


「私、おっきくなったでしょ?」


「身長の話か?」


「おっぱい」


「……さぁな」



 嫌な冗談だ。いや、嫌でもいいから冗談であってくれ。駄目だ。汗が出てきた。さっさと出よう。ドアを開いて廊下を駆け足再び客間。あぁ結局戻ってきてしまった。まぁいい。馬鹿ムー子は死んでるし、それほど悲惨な事にはなってないだろう。よし。入るぞ!






「だから私は言ってやったんですよ! この馬鹿野郎! なら菊の穴を見せてみろ! って!」


「なるほど。これがホントの菊花賞ってわけですね」


「はっはっは! それですよそれ! 利木さん! その通りですよ!」



「……」



『ブンブンユーチューブ! ドーモ! ヒカキンデース』


「キャッキャッ」


「……」





 ムー子が死に、ゴス美と利木さんは深酒に溺れ、マリはヒカキンを見ている。なんだこの世の地獄は。どう対処したらいいんだ。駄目だ分からん。何も分からん。助けてくれ。




「俺はいったいどうしたらいいんだ……教えてくれ、五飛!」



「笑えばいいと思いますよ」



 うっわムー子! 急に生き返るな! びっくりするわ!


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